『おちょやん』千代と千之助のお笑いバトルがスタート 鶴蔵が確信する喜劇の未来

 「道頓堀の喜劇王いうたら須賀廼家千之助をおいて他になしや!」「よう分かってるやんけ。道頓堀の喜劇王はわしやない」。むくりと起き上がる千之助(星田英利)。道頓堀に戻ってきた千代(杉咲花)の初仕事は、看板役者を呼び戻すことだった。『おちょやん』(NHK総合)第42回で千代は千之助を笑わせようとする。

 ことの始まりは、大山鶴蔵(中村鴈治郎)の発案で新たに喜劇一座を立ち上げたことだった。集まった座員たちを前に、呼び入れられたのは座長の一平(成田凌)。一平を見てざわつく旧天海一座の面々。これでは解散した天海一座と同じじゃないか、しかも中心役者の千之助がいないのはどういうわけだ。千之助の弟分、百久利(坂口涼太郎)が席を立ったのを皮切りに、天晴(渋谷天笑)や徳利(大塚宣幸)もその場を後にする。発足当初から一座は解散状態にあった。

 立ち去る座員を一平は無表情で眺める。千代としてはこのまま解散されては困る。道頓堀に戻ってきたばかりで、財産はすべてテルヲ(トータス松本)に取られてしまい、今辞めるわけにはいかない。どうにかして座員を連れ戻し、一座を発足させなければ。千代は一平の尻を叩き、自身も千之助の元へ向かう。

 舞台やカフェーの接客をはじめ、ストーリーの合間に笑える描写や小ネタが散りばめられている『おちょやん』だが、ここまでストレートに笑いを求められたことはなかった。「笑いの町」大阪で育った千代なので、そこそこ面白いことを言ってくれるはずと期待していたのだが……。千之助は横になってしまい、ネタを聞かせた玉(古谷ちさ)は「かわいそう」と涙を流す始末。こちらも軽い絶望感に襲われつつ、そこは諦めない千代であった。

 千之助が一座への参加を断ったのは、ある人物の存在が念頭にあった。「道頓堀の喜劇王」と呼ばれる須賀廼家万太郎(板尾創路)である。初代天海(茂山宗彦)の葬儀で大胆にも笑いを取ったあの男だ。「一平とではな、あいつに勝たれへん」と千之助は背中を向ける。ここで注目したいのは鶴蔵の言葉。鶴蔵は独り勝ちの万太郎一座に対抗できる劇団を作ることで、喜劇界を盛り上げようとしていた。「これからの時代は庶民のための芝居、喜劇こそが欠かせんようになる」と鶴蔵は確信を込めて語る。

 鶴蔵は一平と千之助なら万太郎一座に対抗できると考えている。それなのに当の本人が諦めている状況だ。一平は天晴や徳利に戻ってきてほしいと頭を下げるが、千之助は万太郎一座にいただけに勝つのは容易ではないと知っている。そこになぜか食い下がる千代。一平に「自分の都合で動いているだけ」と言われながらも、千之助の元に通うのだった。

 千之助は千代の笑いのセンスだけを見ているのではない。笑いだけならもっと前に追い払われているだろう。千之助は千代の中に自分の予想を覆すものがあると感じているのではないか。そのことを通じて自分が変われる可能性、ひいては万太郎に勝つ方法を探ろうとしているように見える。それはそれとして、役を抜きにしても、杉咲が星田を全力で笑わせようとする画はとても見応えがあった。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/