「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『FOR REAL-遠い、クライマックス。-』
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、週3日はベイスターズトレーナー着用の30代ファッショニスタ・石井が『FOR REAL-遠い、クライマックス。-』をプッシュします。
『FOR REAL-遠い、クライマックス。-』
2012年に横浜ベイスターズから横浜DeNAベイスターズになってから早7年。2015年の最下位から、2016年3位、2017年3位(クライマックスシリーズを勝ち抜き19年ぶりの日本シリーズ進出)と右肩上がりの成長を続け、今年は「優勝」しかないと期待に胸を抱いたシーズンでした。が、終わってみれば、2年連続出場を果たしていたCSには手が届かず、結果は4位。期待値が高かった分、何より確実に成長し、毎年強くなっているという手応えを感じていたからこそ、ファンにとっては数年前の最下位よりも重くのしかかるものがありました。それは、きっと選手・コーチ・監督にとっても。
新人・東投手が新人王、新外国人ソト選手が本塁打王など、ポジティブな面もあったにもかかわらず、どうにもスッキリとしない、それが2018年のベイスターズでした。ベイスターズの特徴を表す際に、選手自身やメディアが語るのが「若い、チームの雰囲気がよい、勢いに乗ると止められない」。しかし、勢いに乗ることはできず、どこか昨年までのような“一体感”がない。しまいにはチームのキャプテン・筒香嘉智選手と、精神的支柱・ロペス選手の不仲まで噂される始末(それが真実かは分かりません)。だからこそ、毎年楽しみにしているこの球団ドキュメンタリーも、まさか製作されるとは思ってもいませんでした。
ポスタービジュアル、先行して公開されていた予告編の通り、本作はこれまでのどのシリーズよりも、重く暗いです。それでも、どのシリーズよりも、もっとも胸に刻みこまれる(胸をえぐるような)1作になっていると思います。昨年、一昨年の躍進をしたシーズンはもちろん、それ以前の『ダグアウトの向こう』シリーズも、基本的には“光”に焦点を当てた構成になっていました。喜ぶ選手たちの姿が中心であり、苦悩した姿もあれど、それが最後に成功する姿につながるから、という前置きのためのもの。苦悩する姿を知っているからこそ、失敗を取り返した選手の活躍に感情移入して涙してしまう。それがこれまでのシリーズの巧みさでもありました。
しかし、本作では結果を知っているにもかかわらず、「いつ、成功体験見せてくれるの?」と思わずにいられないほど、ひたすら選手たちの「苦悩」「葛藤」「苛立ち」「挫折」が描かれていました。結果を残すことができず、それでも大一番の試合を託された今永昇太投手、石田健大投手が、試合前に並々ならぬ決意を語るシーンがあります。この気持ちがあれば、きっと……と思った矢先に、カメラは残酷にも2人が炎上している姿を淡々と映し出していく。「もうやめてくれ……」と思ったほどです。監督やコーチ、そしてファンの期待を背負うことがどれほど重いものなのか。まだ27歳でありながら、4番打者として、キャプテンとして、必死でチームを鼓舞していた筒香選手の重責はいかなるものだったのか。もっともっと計り知れないものもあると思いますが、彼らの思いがスクリーン越しに伝わり、これまでのシリーズとは別の形で涙せずにはいられませんでした。
また、本作が過去シリーズと決定的に違うのは一番“映画的な演出”が施されている点にあります。フィルムのざらつきのような映像の質感、まるでデイミアン・チャゼル監督作『セッション』のようにBGMに流れるドラムビート、そして、サスペンス映画のような試合数のカウントダウン。ベイスターズファン、野球ファンはもちろんですが、背景を知らない方にとっても、ベイスターズの選手が徐々に徐々に追い詰められていくさまが巧みな編集によってひしひしと感じられるはずです。
ここまで挑戦的な映像作品が仕上がったのも、2012年から球団ドキュメンタリーを製作し続けてきたからこそ(2015年はなし)。そして、何より本作を通して「この悔しさを絶対に晴らす」という、選手と球団の強い意志を感じました。特に、どんなときでもポジティブさを失うことがなかったラミレス監督が、最終順位が決定した試合後にコーチたちに伝えた謝罪の言葉は衝撃的です。
リアルサウンド映画部では、撮影の裏側、作品の狙いを聞いた辻本和夫監督へのインタビューを近日掲載予定。こちらもお楽しみに!
■公開情報
『FOR REAL-遠い、クライマックス。-』
横浜ブルク13ほか公開中
制作・著作:株式会社横浜DeNAベイスターズ
配給:ティ・ジョイ
(c)YOKOHAMA DeNA BAYSTARS All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.baystars.co.jp/forreal/?p=top