菅田将暉の『ルックバック』編集者役はなぜ印象に残る? 実写化映画における役割を考察

原作では名前がわからない漫画編集者

 世界的な話題作『チェンソーマン』の作者でもある、藤本タツキによる読み切り漫画『ルックバック』には、主人公の漫画家コンビ「藤野キョウ」を担当する編集者が登場する。物語中盤に入ったあたりで初登場するこの人物は、実在する大手出版社「集英社」の編集者だが、原作では名前がわからない。

 登場場面の1コマを見ると、メガネをかけた男性だということはわかる。だが、それ以外の情報はこれといってない。原作では完全にモブキャラとして描かれているのに対して、是枝裕和監督による実写化映画では、前田という役名がちゃんと与えられ、菅田将暉が演じている。

 やはりスター俳優が演じるからには、それなりなりにキャラ立ちする見せ場を作らなければならない。本作の(映像)編集も兼務している是枝監督は、原作がほんの1コマにとどめた初登場場面を映画的に引き伸ばしている。

菅田将暉が映るカット数は?

 原作の1コマは編集者を前方から捉えるものだが、是枝監督が描く集英社内場面の1カット目は、菅田将暉演じる前田の斜め後ろにカメラが回り込んでいる。まず前田の横顔、藤野(出口夏希)と京本(蒔田彩珠)が持ち込んだ原稿をチェックする手元、前田の顔の順で捉え、向かい合って座る彼女たちとの切り返しでカット数を重ねた。全15カットだったと思う。

 藤野と京本が漫画を書き上げ、地元から上京する1車両の電車が走る雪景色が画面いっぱい広がり、集英社の外観を捉える3カットは、是枝監督らしい編集の流れで、後続する15カットの菅田出演場面を引き立てている。かといって、全編99分の尺の中で前田が登場するのは4つの場面でしかない。

 そもそも原作では藤野と京本に連載を持ちかけるカフェの場面を合わせて、編集者は3コマしか登場しない。映画では前田がアドバイスする場面を追加しながら、合計40カット弱に登場させている。『シャークキング』という作品をヒットさせた藤野の仕事部屋に前田がやってくる場面では、もう1カット余分にカウントしたくなる印象的なショットがあった。

実写化映画における菅田将暉の役割

 それは、アシスタントたちが先に退勤した後の夜の場面だ。藤野のことを変わらずに気にかける前田も帰ろうとして、上着に袖を通す。他の登場場面同様、基本的に向かい合う人物を切り返すショットで構成されている。全10カットほどの場面だが、藤野の方に切り返したカットの画面奥の窓に、上着を着る前田の動作が映っていることが見逃せない。

 喫茶店場面のように前田は肩なめで映っているわけでもない。間接的に映っているだけだから、これを菅田出演カットとしてカウントする必要はないのだが、それでもあえてカウントしておきたくなる。なぜか。そのショットからは、人気漫画を実写化する是枝監督の細部へのこだわりがひしひしと伝わってくるからだ。原作では役割に過ぎない編集者役が、こうして実写化映画ではかなり重要な存在として出番を与えられた。その上で菅田将暉もさりげない存在感を主張している。そんなワンショットだった。

 では、実写化映画における菅田将暉の役割とは? 彼がこれまでに出演してきた代表的な実写化映画を列挙してみる。『男子高校生の日常』(2013)、『溺れるナイフ』(2016)、『帝一の國』(2017)。この3作に共通することがある。それは映画で菅田が演じることになる原作のキャラクターが必ず脱衣が多いことだ。

 『男子高校生の日常』のタダクニは、妹のスカートを着脱し、『帝一の國』の赤場帝一は、妹の前で上半身をさらけだし、妹が顔を赤らめる(後者は映画では描かれないが、その代わりにふんどし姿で和太鼓を演奏する場面が用意されている)。そして『溺れるナイフ』の長谷川航一朗は、素潜りして海の中から現れる。

 『ルックバック』の前田は逆に上着を着る。つまり、実写化映画における菅田将暉は常に着脱の魅力を付与されているのだ。そんなことを頭の片隅に置いて本作を観ると、一味違う作品に思えてくる。

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