AIが記事を書くほど「取材する人」がより大切になる スマートニュースが語る、AI時代のメディア論
AIがニュースを要約したり翻訳したり、記事の形そのものを変えようとしている。生成AIが広く使われるようになって4年近く、メディアにとってAIは、制作を効率化する道具であると同時に、誤情報やハルシネーションのリスクを抱えた扱いの難しい相手でもある。一つの誤りが信頼を揺るがすニュースの世界ではなおさらだ。
その中で、ニュースアプリ「SmartNews」を運営するスマートニュースは、AI活用を次々と形にしている。2026年8月には2つの発表を立て続けに行った。UUUMと組み、動画クリエイターのYouTube動画を生成AIで記事にする取り組みを拡大。もう一つが、全国のスポット情報をAIで地図上に統合するアプリ「Wanderland(ワンダーランド)」の公開だ。
人が自分では探していなかった情報に、AIはどうやって出会わせるのか。
日本のメディア事業を統括するVice President of JP Media Businessのホン・ランドン氏は、「ニュースはAIの使い方に慎重である領域」と認めたうえで、「先陣を切ってでも投資する」と言い切る。話は個別のサービスを超え、ニュースと情報の未来へ及んだ。終盤では、共同創業者であり代表取締役社長CEOの浜本階生氏にメールで聞いた、Wanderlandの狙いとその先の構想も紹介する。(間瀬佑一)
「ひとつの誤りが信頼に影響する」領域で、なぜAIに賭けるのか
ーーまず、スマートニュースがAIとどう向き合っているのか、基本的な立場から聞かせてください。
ランドン:まず、スマートニュースはテック企業なので、AIを推進していく立場です。一方でメディア企業でもあるので、AIを扱うことに慎重な立場でもある。
実は、ニュースはAIの使い方を特に慎重に考える必要がある領域です。報道ではひとつひとつの誤りが読者の信頼に影響します。ミスが許容される領域の方がAIはバンバン試せるんですが、ニュースはそれができない。テストは推進していくけれど、実際のユーザーに触れるところまで行くときは慎重に、ちゃんと検証しながら出していきましょう、というのが僕らの方針です。
ーー私自身、メディアの立場からするとその慎重さには共感します。それでもAIに力を入れるのはなぜですか?
ランドン:乗り遅れてしまうと、ニュースというカテゴリー自体が他に比べて衰退してしまう。だから僕らみたいなテック企業が、ある意味先陣を切ってちゃんと投資して、他のカテゴリーと同じくらいにAI活用の事例を作っていかないといけないと思っています。
ーーその姿勢で取り組んだ直近の大きな例が、UUUMと組んだYouTube動画の記事化だと思います。どんな課題意識から始まったのでしょうか?
ランドン:SmartNewsは規模としては日本最大級になっていて、そうなるとユーザーの年齢構成が、日本の人口比率にほとんどそのまま近づくんですね。40代、50代、60代が多くなる。若い層のユーザーをどう維持して、新しく入ってきてもらうかは、この4、5年ずっと社内の課題でした。
僕にとって一つのきっかけになった出来事があります。プライベートでアメリカに旅行したとき、食べ物を買う列で、前に16歳か17歳くらいの少年が並んでいたんです。スマートニュースにはユーザーに直接聞くカルチャーがあるので、その子にも「君、ニュースはどこで読んでる?」と聞いてみた。そうしたら「ニュース?」という顔をされたんです。「ニュースって、要はインフォメーションのことだよ」と説明したら、「そういうことね。Instagramだな」と。
ーーニュースを届ける側には、重い答えですね。
ランドン:これはすごく象徴的な出来事でした。若い人ほど、情報をニュースの形で読んでいないことの方が多い。SNSだったり、YouTubeの動画だったり、ショート動画だったり、僕らが思っているニュースというフォーマットじゃないもので情報を仕入れている人が増えている。それなら、一次情報がどこに落ちているのかをちゃんと見極めて、一次情報を持っているところとパートナーシップを取りに行かなきゃいけないんじゃないか。そういう仮説がそのとき生まれました。
ーー記事化を広げる前の実証段階ではどんなことを確かめたのですか?
ランドン:ほぼAIで動画を記事にする機能なんですが、テストは大きく三つありました。一つ目は、AIが本当に動画を理解して、記事を作れるのか。二つ目は、その記事をSmartNewsのユーザーが好きかどうか、実際に記事として機能するのか。三つ目が、記事を読んだ人が実際にYouTubeへ行ってくれるのか、ファンが増えるのかです。最初のPoC(概念実証)の期間にこの三つを試して、UUUMさんと動画クリエイターの方々の協力もあって、すごくいい結果になった。それでフルリリースになり、今はUUUMさんから「入りたい」という動画クリエイターさんの申請をいただいている状況です。
「主役は絶対に動画クリエイター」動画の魅力を記事で伝えるために人が決めること
ーー1つ目の「AIが動画を理解できるか」は、文字起こしさえあれば技術的に解決しそうにも思えます。
ランドン:実際は、その手前の方が難しくて。文字起こしができるかどうかというより、動画の中で実際に盛り上がっているところがどこなのか、ですよね。動画で見れば流れで分かるけれど、テキストで読んだときに「ここがポイントだよ」と伝わるかどうか。
なのでまず、AIが自動でYouTubeを見て「ここが盛り上がっているところだよね」と抽出するところから始めて、プロデューサーがそれを見て、「これは合ってる」「これは違う」と判断するのを繰り返していきました。
ーー盛り上がりを拾えた後はどう進めたのですか?
ランドン:拾った場面を記事にすると、今度はその記事が読み物として面白いかどうかという話になります。社内には記事を扱う編成チームがいるので、その人たちが見て、「これは面白い」「何を言っているかよく分からない」と、また繰り返していく。
ただ、実際にファンになってもらえるかどうかには分岐点があるんです。テキストの記事として面白いものにするのか、ただのプロモーションサイトなのか、それとも動画の切り抜きなのか。最終的にはそのバランスなんですが、これはプロデューサーや編成チーム、開発チームの意見ではなく、実際に僕が入って意思決定しなきゃいけないものでした。
ーー何を軸に決めたのでしょうか?
ランドン:記事としての面白さはもちろん重要です。でも、それよりも、動画はテキストにできないから動画を撮っているものですよね。だから主役は絶対に動画クリエイターにならなきゃいけない。その方針のもとで、もう一回編集をし直しました。それが今の形で、結果的にいちばん良かった。記事を読んでもらう数も、そこから実際に動画を見てもらう数も、バランスの良い数値が出ました。
ーーAI活用の話は、つい「プロンプトをどう書くか」に寄りがちです。その方向づけも、最終的にはプロンプトの調整になるのですか?
ランドン:最後はプロンプトを調整します。でも、その前に人間がやって、人間がやった「これが答えだよね」というものをプロンプトに表現して、AIがそれを表現できるようにしてあげる。そういう順番です。
AIで記事が作りやすくなるほど、「取材に行く人」の価値は上がる
ーー私自身、編集の現場でAIを使っていて、できることが増えている実感があります。一方で、AIが記事を作りやすくするほど、取材する人やメディアの仕事はどう変わっていくのでしょうか?
ランドン:AIが得意なのはやっぱり効率化です。だから、今まで一次情報を取るために自分の足を使ってきた、取材に行く記者の方たちをどう守るのか。効率化だけでは補えない“肌感”のようなものが実際は記事に文字として落とされていて、そこをどう残していくのかという課題がある。もう一つ、進めば進むほど出てくるハルシネーション(AIがもっともらしい誤りを出力すること)やフェイクニュースとどう向き合うのか。このバランスを見ながら、メディアの皆さんの意見をいただきつつ、テストと修正を日々繰り返しています。
そのうえで、もっと重要になっていくのは、一次情報をどう取るかだと思います。AIによって、すでに公開されている情報を整理・再構成する作業は、より効率化していくと思います。逆に言うと、最初に取材しに行った人、一次情報を握っている人の価値は大きく上がると思います。
ーー記事が届く相手も変わりそうです。
ランドン:言語の壁を完全に超えられるので、たとえば日本のアーティストが日本でコンサートをやって盛り上がった、ということを今までアメリカの人が読むには、アメリカのローリングストーン誌が取材しない限り読めなかった。でも日本のメディアが報じているものをそのまま翻訳して読めるようになると、書く側も、今までは身近な読者のためだけに書いていたものが突然グローバル化する。でも、全部を対象に書いていたら終わらないはずなんです。
ーー全部を対象に書くのではなく、どうするのですか?
ランドン:作ったら終わりではなくて、コンテンツが生き物のようにユーザーとコミュニケーションできるのが、たぶんAIの良さだと思うんです。書く人がファクトを書いて、「ここまでがファクトです」というのを綺麗に残しておくと、読む側でAIによって解釈が変わっていく。日本の人が読むときはこういう記事になるけど、アメリカの人が読むときはこうなる。読者の知識や関心に応じて、背景説明を足したり漢字を減らしたりする必要がある。それをAIが全部変換していくみたいな形になるんじゃないか、というのが今の僕の個人的な予想です。
スマートニュースはなぜ地図アプリを作ったのか? Wanderlandで届ける新しい発見
ーーWanderlandを見て、学生時代にバックパッカーで旅をしていた頃を思い出しました。訪れた街の観光案内所に置いてある、地元のおすすめが書き込まれた紙の地図を頼りに街歩きをする感覚。AIが地図上でスポットを提案してくるWanderlandの体験は、そういったワクワク感と同質のものでした。“ニュースの会社”が地図アプリを作ったのも、ここまでの発想と地続きなのでしょうか?
ランドン:まさにそうです。スマートニュースは社名にニュースが入っているからニュースの会社に見えますが、ミッションやビジョンにはニュースという言葉が一言も入っていないんです。「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というのが僕らの掲げているものなので。一次情報を持っている方々から「SmartNewsに入れたい」と連絡をいただくことも増えていて、ニュースフィードではない違う形の方が届きやすい情報は色々あると思うんですよ。その一つがマップだった。マップで表現できる情報は、Wanderlandの方に入れてみようか、ということです。
目的地まで何分で行けるかという効率的な地図ではなく、アイコンを見ながら「なんかこれ面白いね」と新しい発見をしてもらいたい。ぶらぶら歩くという意味の「ワンダー(Wander)」を名前に入れています。
浜本階生氏に聞く、知名度やレビューだけでは見えない街の魅力
では、Wanderlandの中でAIはどんな役割を担っているのか。ここからは、ランドン氏とは別にメールで回答を寄せてくれた、共同創業者兼代表取締役社長CEO・浜本階生氏の言葉を紹介する。
ーーWanderlandでは、ユーザーが自分では探していなかった場所や魅力に出会ううえで、AIがどのような役割を果たしていますか?
浜本:私たちの生活圏、通勤路、あるいは旅行の訪問先には、たくさんの魅力あるスポットが存在します。これらのスポットの魅力を、単に知名度やレビュースコアといった数値で評価するのではなく、それぞれのユニークな特徴や見どころを分かりやすく視覚化し、ユーザーに伝えるために、AIを最大限に活用しています。
ーーニュースを届けてきたスマートニュースが、Wanderlandを独立した地図アプリとして手がけたのはなぜでしょうか。UUUMとの取り組みも含め、共通する課題意識があれば教えてください。
浜本:スマートニュースは、「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションのもと、ニュースに留まることなく、あらゆる種類の有益な情報を取り扱っていきたいと考えています。
UUUM社との取り組みでは、動画コンテンツの見どころをAIで解説することを通じて、テキストによる情報密度の高いナビゲーションを実現し、ユーザーの興味から動画の閲覧への橋渡しをすることができました。
Wanderlandにおいては、SmartNewsアプリがもともと重要と位置付けていた地域情報を、網羅性やインタラクティブ性をより高めてお届けするために、地図のインタフェースを活用した独立のアプリとしてリリースすることが最善だと考えました。
ーーAI Transformation Divisionの設立など全社的なAI活用も進めるなかで、Wanderlandの開発にAIはどう関わったのでしょうか?
浜本:AI Transformation Divisionの設立との時間軸は多少前後しますが、WanderlandはAI駆動開発方式で開発されています。従来では開発リソースの制約から後回しにせざるを得なかった様々な機能が、AIにより、並列で実装・機能検証できるようになり、チームの生産性が圧倒的に向上しました。
ーー動画の記事化やWanderlandの先に、どのような情報体験を思い描いていますか?
浜本:当社では、自分がすでに関心を持っている情報、すでに好きなことが分かっている情報だけをアルゴリズムによって反復して届けていくのではなく、新しい価値観との出会いをもたらしてくれるような情報を積極的に届けていきたいと考えています。AIも大いに活用して、情報にさまざまな切り口から光を当て、付加価値を作り出していきたいと考えています。