VTuberの絵文字・推しマークのルーツをたどる 少ない文字数で「好き」を表現する便利な文化はどこから来た?
絵文字・推しマークの二つの生まれ方
まず前提として、活動者とファンが絵文字を自身のアイデンティティとして使う場合、どの絵文字を使用するかが決まるまでの流れは、おおむね以下のふたつに分かれている。
1.活動者本人が決めて正式に発表するケース
2.活動者のファンが自然発生的に使い始めて定着したケース
現在のVTuberシーンを見回すと、基本的に1のケース、つまり活動者側が正式マークとして発表するパターンが多い。自身のキャラクター性や背景を表現するような絵文字を、デビュー時にあらかじめ選んでおくのが定番になっている。
一方で、2の自然発生的なケースは、VTuberシーンの黎明期には事例が存在するものの、現在ではほとんど見られなくなった。VTuberが増え始めた初期の時代、2017~2018年はまだ絵文字・推しマーク文化が定着していなかったこともあり、ファン側がVTuberのイメージを元にして、非公式ながらもささやかな連帯を示すマークとして付けていたこともあったのだ。
たとえばキズナアイ。デビューした2016年当時、彼女には自身を示す特定の絵文字・推しマークが無かった。そのなかで、ファンが彼女の頭のカチューシャをイメージして「🎀」というリボンの絵文字を使用、キズナアイを表現することが多かった。
これを正式に採用することになったきっかけが、2020年7月16日のツイートだ。キズナアイ本人が「固定で絵文字を使えたらなー」と発表し、その案のひとつとして「みんながよく使ってくれてる絵文字」として「🎀」に言及したのだ。
そうだんっ!!!!!!!
私のツイートだ!ってわかりやすいように
固定で絵文字を使えたらなー...💡
って考えてたんだけどみんながよく使ってくれてる「🎀」にするか
キズナ“アイ”だしぴょこぴょこも❤️に近い形をしてるからピンクのハートの方がいいかな?なんて考えていて...どう思う??
— Kizuna AI / キズナアイ (@aichan_nel) July 16, 2020
キズナアイ自身が考えたハートの絵文字を使用する案など、いくつかの案と共にファン投票をおこなった結果「🎀」が最多得票となり、正式にキズナアイの絵文字・推しマークとして決められた。
キズナアイの場合はこうした分かりやすい流れがあるのだが、なかにははっきりとした情報が残っていないVTuberもちらほら見られる(特に黎明期にデビューしたVTuber)。リアルタイムで活動や配信を追いかけていた人の証言以外に、こうした流れを知る上で参考になるものがないケースもあるので、当時のことを知っている方はぜひ記録として残してみてほしい。
様々な界隈から生まれた推しネーム・推しマーク文化
では、こうした「推しマーク」の文化は、どこから生まれたものなのだろうか。VTuber文化の始祖としてキズナアイが生まれた2016年よりも前の2010年代中盤を振り返っていきたい。まだ「推し活」という言葉が無かった頃。そしてXのような不特定多数が見られるSNSを、多くの人が使いはじめ定着し始めた頃の話だ。
ネット発の文化である歌い手や配信者といった活動者が、自分の名前の「推し名・ファンネーム」を作るようになった(先程も書いた通り、ファンが作る場合もあった)。このあたりについては「なぜ世の中のサービスは「推しマーク」を作らないのか。 & 「推しマーク」の歴史研究の現状。」というnoteの記事で、考察する夫氏がまとめている。
同記事によれば、「推し名」が生まれ始めた時期の記録として残っているのが2014年「僕の推し名はこれなのんっ! - (io°湊) 」というツイキャスの記事だという。
発祥自体は定かではないが、この段階ですでに「ファンが自分の名前の後ろに、推す活動者の記号的な何かを付けて、表明する」文化が生まれていたのがわかる。その流れで、絵文字を推し名の代替として使う文化も生まれていったようだ。
こちらも年代は定かではないが、pixivユーザーの間でも絵文字が「ファンマーク(ファンマ)」として使われていたことが、pixiv百科事典を見るとわかる。
クリエイターが自分の表現として制定することもあったようだが、ファンがpixivページのプロフィールにファンマを記載して、そのクリエイターのファンであることを表明する、という使われ方が多かったようだ。
アイドルファン界隈でもこの流れは既にあった、という話はちらほらと見られるが、明確な証拠を見つけることができなかったので、ここでは割愛したい。ひとつ間違いないのは、推しマークがVTuberシーンだけで発生した文化というわけではない、ということだ。
VTuber文化における絵文字・推しマークの変化
VTuberシーンにおける推しマーク文化は、2018年のVTuberが爆発的に増えた時期に一気に流れ込んできたようだ、という話をした。その後、自身の絵文字を決めるべく、ファンにどんなものがいいかを尋ねるVTuberもこの時期から現れはじめる。
2018年3月23日には、富士葵がツイートで「葵もほしいほしいほしいほしいーーー」と自身の絵文字が欲しいという思いを表明し、ファンから推しマークに採用する絵文字の案が寄せられることになった。この時点で電脳少女シロの絵文字が、彼女の笑い声がイルカに似ている、というところから取られた「🐬」で定着しているのも分かる(電脳少女シロについては、発祥地点の証拠が見つからなかったため割愛させていただく)。
葵を絵文字で表すとなんだと思う?
🗻はよく使われてるよね。葵はなんだろ!
シロちゃんの🐬みたいの葵もほしいほしいほしいほしいーーー🤣🤣#葵の絵文字— 富士葵 (@fuji_aoi_0618) March 23, 2018
その後、富士葵の絵文字は「🗻」で定着することになった。現在では相方であるキクノジョーの絵文字「🌞」とあわせて「🗻🌞」と表記されることが多い。
- Windowsのブラウザ表示の場合
2人の絵文字・推しマークについての話は2022年9月の「富士葵がアップを始めたようです。【#葵の生放送】」の中でも一部触れられている。
こうして、絵文字・推しマーク文化は2018年前半の内に一気に多くのVTuberに広がったわけだが、一文字だと被りも多発しはじめる。そこで二つ以上の絵文字を重ねる文化も、すぐに生まれるようになった。
わらわの絵文字?は二つ付けておくと被りがなく分かりやすいとのことだったので、票の多かった🍶と⚜️にきめたぞ。
一つでも大丈夫なようであれば🍶で頼む。
— 竜胆 尊 (@RindouMikoto) September 10, 2018
にじさんじ・竜胆尊のSNS投稿を見ると、二つ付けておくと被りがなく分かりやすい、という理由で「🍶⚜️」の組み合わせに決定した瞬間を見ることができる。
- Windowsのブラウザ表示の場合
現在、人気のある絵文字は被りがとても多い。たとえばうさぎの顔の絵文字である「🐰」は月ノ美兎(🐰)や因幡はねる(💛🐰)などをはじめとした、20名以上のVTuberがマークとして用いている。被らないようにするため、組み合わせが必須になっている絵文字のひとつだ。
絵文字・推しマークに関しては、正確なルールがあるわけではない。先に言った人が優先されやすい、くらいの温度感だ。後から出た人たちが2個・3個と絵文字をつなげて被らないようにするのは規則ではなく、あくまでもVTuber同士のリスペクトと思いやりで保たれていることだというのは忘れないようにしたい。