『ブラッサム』“珠”石橋静河が書き手としてぶつかる壁 「稚拙」の言葉をどう乗り越えるか?
NHK連続テレビ小説『ブラッサム』第24話では、珠(石橋静河)が自分の書いた短編小説を、文芸誌の編集長・黒崎(遠藤憲一)に読んでもらう。作家への道が開けるかもしれない。そんな期待もあったのだろうが、返ってきたのは「稚拙、つまらん」という容赦ない言葉だった。珠にとって、書き手の世界の厳しさを初めて思い知らされる回となった。
珠がウェイトレスとして働く西洋料理店「悠樂軒」で昼食を楽しむ黒崎と山中(井浦新)。黒崎は今回も珠にチップを置いていくが、その近くでは作家志望の左良太(北野秀気)が、何やらぶつぶつとつぶやきながらメモを取っていた。「斜めに見る……人間の真理か……」。怪訝そうに見つめる珠と目が合うと、慌てて紙を隠してしまう。どうやら文壇の大物が何を求めているのか、会話の中から手がかりを探していたらしい。
すでに小説を書き始めていると珠が明かすと、左は「文学について語り合わへん?」と誘ってくる。珠は仕事中だからと断るが、同じ作家を志す者同士として左は興味を持ったのだろう。ただ、ひたすら黒崎の言葉を拾おうとするだけの左に対し、珠はすでに自分の小説を書き進めているという差は歴然とある。
その後、珠は思い切って黒崎に自作の短編小説を差し出す。文芸界最高峰の雑誌の編集長である自分に、素人の原稿を読めというのかと、最初は取り合おうとしない黒崎だったが、珠がもう一度お願いすると、高らかに笑って原稿を受け取った。その様子を見ていた左も「負けてられへん」と店を飛び出していく。珠の積極的な行動が、左の作家としての競争心にも火をつけたようだ。
一方、珠と一緒に暮らす保(金子大地)は、下宿の大家・辰五郎(赤堀雅秋)と娘のマキ(中村優子)から、珠との関係が恋仲に発展したのかと問いただされる。珠が小説に夢中になっている間にも、周囲は2人の関係を気にしている。保もこれまでのように悠長には構えていられなくなってきた。
そして、再び黒崎が店を訪れる。自分の小説はどうだったのか。珠が尋ねると、黒崎は「稚拙、つまらん」と一蹴。さらに、作品のテーマに対して書き手である珠の立ち位置が不明瞭だと指摘し、もっと腹の中を見せるようにと声を荒らげる。文章が上手いか下手かという話だけではない。なぜその題材を選び、何を書こうとしたのか。黒崎が求めているのは、珠自身の考えや思いなのだろう。
珠が書いたのは、岩国の女性教師を主人公にした物語だった。かつて珠自身も岩国で教壇に立ち、子どもたちと向き合ってきた。しかし、島村(工藤阿須加)との関係を問題視され、教師として働き続けることはできなくなった。そうした経験を持つ珠にとって、女性教師という題材は決して他人事ではない。
だからこそ、珠にも自信があったのだろう。自分がよく知る世界であり、実際に経験してきたことだから書けるものもある。だが、それだけで小説が成立するわけではない。何を描きたいのか、その出来事をどう捉えているのか。黒崎の言う「腹の中」とは、珠がまだ十分に書き切れていない部分を指しているのかもしれない。
幼い頃から文章を書くことに親しんできた珠。第1週では、父・清治(渡部篤郎)について書いた作文を読み上げ、その率直な内容に清治が大笑いする場面もあった。父を「放蕩無頼」と評しながら、夜にカナリアを愛でる横顔まで書き留めていた珠は、昔から人の姿をよく見ていた。あの作文では、飾らずに書いた言葉が父の心を動かした。しかし、今度は小説という形で、自分の言葉が他人にどう届くのかを問われている。
黒崎からの酷評に自信を失った珠は、店に来ていた人気作家の秋山(高良健吾)に、原稿を見せたことを後悔していると打ち明ける。すると秋山は「自分を信じられない人間にいい小説は書けない」と語り、今回の経験も「いつか君の力になる」と励ました。自分を信じることと、自分の書いたものが正しいと思い込むことは違う。秋山の言葉は、珠がこれから作家を目指す上で大切なものになるのだろう。
岩国を離れ、東京でようやく書き始めた小説。これまで自分の人生を切り開こうとしてきた珠だが、文学の世界ではまだ何者でもない。それでも、大物編集者が素人の原稿に目を通し、何が足りないのかを伝えてくれたことも事実だ。その厳しさを珠がどう受け止め、次の一作につなげていくのか。作家への道は、まだ始まったばかりだ。
■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、加賀まりこ、松たか子、国仲涼子、渡部篤郎ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK