『サバ缶、宇宙へ行く』はなぜリアル? “水産学部出身者”が宇宙食開発の革新性を解説

 “宇宙×青春もの”という流行の中でも、『サバ缶、宇宙へ行く』(フジテレビ系)が異色なのは、水産業という珍しい題材を掛け合わせている点だ。

 『ファーストペンギン』(日本テレビ系)や『TUNAガール』(ひかりTV・Netflix)はあるものの、水産業を舞台にした作品は農業や畜産業などに比べて少ない。一方で、実話ベースの物語が多く、強いドラマ性を持つ題材だ。人の情熱や夢を魅せるうえで水産は最適なモチーフといえるだろう。

 本作は、宇宙食という切り口で水産業の課題を映し出す、産業ドラマとしての側面もあるのだ。

 個人的なことだが、水産学部を卒業し、サバ類の漁業情報を収集する仕事をしていた筆者は、本作の制作が発表されたときとても嬉しかった。本稿では、水産に関わってきた筆者なりに、水産×宇宙食の革新性について考えてみたい。

 そもそもの話だが、水産物缶詰の宇宙日本食は数が少ない。2026年現在も、東洋食品工業短期大学のホタルイカ醤油味付け、Umios株式会社によるサバの味噌煮、イワシのトマト煮、サンマの蒲焼きと、本作のモデルとなっている若狭高校海洋科学科のサバ醤油味付け缶詰のみ(※1)。第3話で言及された通り、水産物を缶詰のまま宇宙食向けに加工することの難しさが実感できる。

 さらに、宇宙日本食は宇宙飛行士の希望に合わせて、依頼があれば即座に生産してJAXAに納品する必要がある。安定生産はもちろん、原料の安定供給も必要になるのだ。

 水産物は、農業や畜産業よりも、輪を掛けて自然の影響を受けやすい一次産業だ。目に見えない海の中の資源状態を人間が完全に把握することは難しく、獲りたくても獲れない、作りたくても作れないという状況が起きやすい。

 若狭高校と同じく缶詰宇宙食を生産しているUmios株式会社は全国規模の会社で、広範な調達経路を持っている。しかし、地元に根付く若狭高校は、福井県で獲れるマサバに頼るしかない。

 漁獲量が多かったからこそ、地元の水産高校がサバの缶詰を生産し、地域住民から長年愛されてきた。マサバの漁獲量が減ってしまえば、生産自体ができなくなってしまう。実際に、福井県の定置網によるマサバ漁獲量は、減少傾向にあるようだ(※2)。高校生たちが、どのようにサバ缶の安定生産を実現するのかも、見どころになるだろう。

 すでにドラマの中で描かれたHACCP認証取得の難しさ、JAXAの宇宙食認証取得に向けた加工の工夫に加え、原料調達の厳しさもある。サバ缶を宇宙へ届ける夢の前には、さまざまなハードルがあるのだ。

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