『イングランド・イズ・マイン』マーク・ギル監督が語る、ザ・スミスへの思いと芸術家としての姿勢
ーー本作は「ザ・スミスの伝記映画」ではなく、モリッシーがザ・スミスを結成する前までを描いています。そのことは意識的でしたか?
ギル:そうだね。僕はこの方向性でしか撮れないし、この方向性以外に興味がなかった。『ボヘミアン・ラプソディ』のような映画は撮りたくなかった(笑)。ジョニー・マー(ザ・スミスの元ギタリスト)がそれっぽいギターリフを弾いて、曲ができるみたいなシーンを撮影するのは、考えるだけで身の毛もよだつ思いだよ(笑)。
アーティストが誕生するまでを描くことで、必然的にそこにはためらい、苦悩や複雑な事情、恐怖心が表現される。僕は、アーティストが自己表現をするためには失敗は欠かせないと思っている。今の若者が残念なのは、失敗というプロセスを経ていないこと。みんなの人気者になりたければInstagramがいいし、ポップスターになりたければ『Xファクター』に行けばいい。全てが即席なんだ。そういう流れにおいて、みんなから感じるのは、恥をかきたくない、失敗したくないということだ。マンチェスター大学で講師をやっていたこともあるんだけど、みんな発言や質問をしようとしない。恥をかきたくないということだと思うけど、僕は自分が知らないことは知りたいし、いちいち恥なんか感じている暇はない。失敗こそがモリッシーを形成をしていったと思う。
ーーモリッシーという実在の人物を描く上で気をつけたことはありますか?
ギル:ザ・スミスの初期のインタビューに出てくる幼少期や家族の話、モリッシーを分析する学術書や評論を参考にした。歌詞ももちろん読み込んだよ。映画にも登場している、モリッシーと最初にバンドを組んだビリー・ダフィーにアドバイザーとして参加してもらったりもした。
ーーモリッシー役にジャック・ロウデンを抜擢した理由は?
ギル:こんな才能を持った人はなかなかいないと思うくらい、印象的な俳優だったんだ。オーディションをやったんだけど、大体がモリッシーの真似事をやる中、ロウデンはそうしなかった俳優の1人だった。モリッシーを演じるのはすごくプレッシャーだったと思うけど、「僕は君の演技力を買ったんだから大丈夫」と励ましていたよ。
ーー本作では、ザ・スミスの楽曲は使われていませんが、ザ・スミスのルーツとも言える楽曲が多く用いられています。どのように楽曲を選んだのでしょうか?
ギル:色々リサーチしていて、Spotifyに100曲くらいリストアップもしたんだけど、最終的には感覚的に選んでいった。人がびっくりするような効果も入っていると思う。モリッシーがうつ状態の時には、一見似つかない「My Boy Lolipop」というガールズグループの朗らかな曲が流れてくるシーンがある。ガールズグループの楽曲ということは、母親のレコードコレクションを聞いているわけだ。辛い状況に陥った時、彼は子供帰りするんだろうなという想像をして選んだ。モリッシーの友人であるリンダがやってきた時、モリッシーが一人で踊って歌っているのは「Only Told That People」という曲なんだけど、モリッシーはこの曲のメロディーを引用した「Girl Least Likely To」という曲をリリースしている。だから、リンダが「あなたが歌っていたの?」とモリッシーに言うセリフは実はシャレなんだよ(笑)。
ーー監督にとってザ・スミスとはどんな音楽でしたか?
ギル:この映画を撮って以降、不思議とあまりザ・スミスを聴かなくなったんだ。ちょっとエモーショナルになりすぎるのかもしれない。ザ・スミスは僕の全てだと言えると思う。クリエイターとして自分が歩んできた道、積んできた経験も、ミュージシャンとしてツアーをしていろんな人と会うことができて、監督としてこうして東京に来れたのも、ザ・スミスのおかげだ。僕は、ザ・スミスの音楽から、人生に降りかかってくるものをそのまま受け入れなくていい、ということを自分へのメッセージとして受け取った。何よりもそのメッセージを体現したのがモリッシーだ。彼ほどポップスターになり得ない人物はいないと思う。だけど見事にそれをやってのけた。彼は、チャンスがやってきたら掴むということを訴えてきた人なんだ。
(取材・文・写真=島田怜於)
■公開情報
『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』
全国公開中
監督・脚本:マーク・ギル
出演:ジャック・ロウデン、ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、ジョディ・カマー、シモーヌ・カービー
配給:パルコ
2017年/イギリス映画/英語/カラー/シネスコ/94 分/原題:England Is Mine/字幕翻訳:柏野文映
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公式サイト:eim-movie.jp