『熱帯樹』舞台レポート

林遣都が三島由紀夫作品で表現した、未成熟な青年の姿 舞台『熱帯樹』に映された家族の肖像

 気鋭の演出家・小川絵梨子が、初めて三島由紀夫の戯曲に挑んだ『熱帯樹』。このところ『豊饒の海』や『命売ります』など、三島作品の舞台上演が続いているが、1960年に産声を上げた本作は、演劇のために編まれた戯曲であり、現代にも通ずる「家族」の物語が綴られている。多くの三島作品の主軸となる、麗しくも儚げな青年の役に林遣都が挑み、岡本玲、栗田桃子、鶴見辰吾、中嶋朋子といった、若手からベテランまでの手練の役者陣が顔を揃えた。

 本作で描かれるのは、1959年の秋の日の、とある資産家一家の屋敷内でのできごと。つまり、一家族の暮らす「家」という、ごく閉鎖的な、限られたシチュエーションにおいて、見るもおぞましい家族の愛憎劇が展開していく。

 林遣都が演じたのは、病床に伏す相思相愛の「妹」と息子に異常な愛情を示す「母」に翻弄され、家族を厳しく支配しようとする「父」と対立するという、非常に複雑な役どころだ。三島作品における重要な「青年」のポジションに、ひいては本作の一家の息子・勇役に、林はぴたりとはまる。肩幅だけは一人前の男のものらしいが、その痩身はどこか頼りなく、大きな眼は、世界への期待も不安も隠すことができないように見えるのだ。映画やドラマといった映像作品と違い、舞台では彼の表情を仔細に眺めることはできないものの、離れた席からでもその感情の細やかな揺れが伝わってくる。それをさらに助長させるのが、若さを持て余したような林の野太い声だ。彼がセリフを大きな声で口にするほど、それは危うげに響き、未成熟なひとりの青年のなかに渦巻く怒りや悲しみといったやりきれない感情が劇場内には充満する。そしてなにより林の白い肌は、暗色で統一された舞台美術のなかで照明を浴び、いっとう際立つのだ。

 気がつけば林は、2007年の『バッテリー』主演での俳優デビューから、すでに10年以上が経った。キャリア初期には、『DIVE!!』(2008)や『風が強く吹いている』(2009)という主演を務めた代表作があり、ここ最近は、脇から作品を支えるバイプレイヤー的な印象が強い。とはいえ、『火花』(2016・Netflix)、『しゃぼん玉』(2017)、『チェリーボーイズ』(2018)で主演も重ね、『HiGH&LOW』シリーズ(2015-2017)や『おっさんずラブ』(2018・テレビ朝日系)でハマリ役も得ており、着実にキャリアを積み上げている。それらと並行して、近年は演劇作品にも精力的に参加。2017年には、小川が演出を務めた『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』でハムレット役を演じ、今作『熱帯樹』に繋がる信頼関係を築き上げたようだ。

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