唐沢寿明、50代でトリックスターの魅力を開花 『ハラスメントゲーム』“昼行灯”の主人公から考察

 こういう食えないおっさんを演じさせると、今の唐沢寿明はとても上手い。唐沢は現在55歳。1980年に東映アクションクラブの四期生となり、駆け出しの時代は『仮面ライダー』シリーズ等の特撮番組の脇役やスーツアクターをおこなっていた。その後、爽やか路線に舵を切り人気俳優となるのだが、トーク番組に出演した際の面白さは評判で、本人は三枚目の面白いキャラだ。

 その意味で、コメディを主戦場とするトリックスター的な役柄を得意とするアクション俳優となっていてもおかしくなかったのだが、三枚目を演じるには、若い頃の唐沢はハンサムすぎた。

 実際、当時の当たり役は『愛という名のもとに』(フジテレビ系)で演じた政治家を目指す代議士の息子や、『妹よ』(フジテレビ系)の大企業の御曹司役であり、クールでシリアスな二枚目役が多かった。2000年代なら『白い巨塔』、『不毛地帯』(ともにフジテレビ系)といった山崎豊子原作ドラマ、最近では2013年の『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系)など、スーツが似合うクールな権力者が、唐沢のハマり役となっている。

 しかし、『THE LAST COP/ラストコップ』(日本テレビ系、以下ラストコップ)で、コミカルな刑事役を演じて以降は、二枚目と三枚目を横断するようなトリックスター的な役を演じることが増えている。

 おそらく、唐沢ほど、外見と内面の落差が大きい俳優は他にはいない。この落差が、演技における表現の振り幅の広さにつながっているのだが、おそらく本人は当初からコミカルな三枚目を早く演じたかったのだろう。その意味で『ハラスメントゲーム』で演じる昼行灯の秋津は、おじさんになった今の唐沢だからこそできた、新たなハマり役だと言える。

 最後に、唐沢にはアクションという武器もある。アクションとコメディができてカッコいいという三大柱こそが唐沢の魅力だが、それをそのまま反映した人間を演じると、超人になりすぎて、リアリティがなくなってしまうのが悩ましいところである。

 『ラストコップ』のようなコメディ作品ならそれでもギリギリ成立するのだが、もっとシリアスに寄せた作品で、唐沢の魅力が全部乗せとなった派手な物語も、いつか見てみたいと思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
テレビ東京開局55周年特別企画 ドラマBiz『ハラスメントゲーム』
テレビ東京系にて毎週(月)夜10時放送中
出演:唐沢寿明、広瀬アリス、古川雄輝、市川由衣、滝藤賢一、石野真子、佐野史郎、髙嶋政宏
原作:井上由美子「ハラスメントゲーム」(河出書房新社)
脚本:井上由美子
監督:西浦正記、関野宗紀、楢木野礼
チーフプロデューサー:稲田秀樹
プロデューサー:田淵俊彦、山鹿達也、田辺勇人、浅野澄美
制作協力:FCC
製作著作:テレビ東京
番組HP:http://www.tv-tokyo.co.jp/harassmentgame/

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