「ポケモンカード」公認イラストレーターで、イラスト上達法に関する多くの著作を持つさいとうなおき氏が、以前から自身のYouTubeチャンネルで「添削動画」を展開して人気を集めている。この8月には「絵が一気に上達する方法とは！？」という、多くのクリエイターにとって気になるタイトルの動画が公開された。

　さいとう氏は2019年10月1日、YouTubeチャンネルを開設。イラストレーターを目指す初心者に向けた講座のほか、上達のための具体的なアドバイスを送る「気まぐれ添削」シリーズで人気を高め、130万人のチャンネル登録者を抱えていた。2023年3月に原因不明のチャンネル削除というトラブルに見舞われたが、多くのファンや仲間のイラストレーターの応援を受け、まもなく再スタート。独学でイラストレーターを目指すクリエイターにとって貴重な“教材”となっていた動画も順次「再放送」しており、引き続き注目を集めている。

　今回の動画で取り上げられた添削希望作品は、デザイナー向けの専門学校に通うクリエイターによるもので、タイトルは「お助けキャラ登場！」。ソーシャルゲームのキャラクターを意識したもので、主人公に召喚されたサポートタイプの魔法技師、というイメージだという。素人目からするとすでに非常に上手で、さいとう氏も「絵柄がとてもキャッチーでかわいい！　見た瞬間にうれしくなるようなイラストが描けています」と高評価。「キャッチーさ」は言語化が難しく、「身体で時代を感じる感覚」がなければ絵に起こすことはできないという。このイラストはそれが自然にできており、さいとう氏は「素晴らしい感覚をお持ちです」と語った。

 　それでは、このイラストの改善点は一体どこにあるのか。さいとう氏は「あえて強い言葉を使います。覚悟はいいですか？」と前置きした上で、「絵はめっちゃうまいのに、構図が下手。もったいない！」と一言。料理に例えると、「ハンバーグはものすごく美味しく焼けているのに、盛り付けが適当」というイメージだという。ということで、今回はメインのキャラクターというより、盛り付け＝構図の添削を行うことになった。タイトルにある「絵が一気に上達する方法」は、「構図」に秘訣があるようだ。

　さいとう氏はデジタル描画ツールを使い、まず画面の左側に寄っていたキャラクターを中央付近に配置。元々キャラクターが中央に配置していなかったことには理由があり、それは後方に長いランスのような武器が見切れてしまうからだ。さいとう氏はこの問題を武器の「角度」を変えることで解決。手前を大きく、奥を小さく調整することで、キャラクターが中央に収まるだけでなく遠近感による迫力も生まれた。武器が大きく見え、可愛らしいキャラクターとのギャップも強調されている。その他、細やかな調整を加えてキャラクター自体の添削は終了。いよいよ「盛り付け」に入る。

　「お皿」となる背景はより豪華に。後方にある窓を少し凝ったデザインに変え、その外に広がる夜空にグラデーションをつける。背景に密度が生まれ、これだけでキャラクターの「レアリティ」がグッと上がった印象だ。さらに窓枠に青いバラを飾り、シルエットに複雑さを追加。足元にある魔法陣の角度も自然に見えるように調整し、キャラクターの顔周りを少し明るくして目立つようすると、元々のイラストが持つキャッチーさがより際立ち、全体として見違える仕上がりになった。プロの技術が見える「もう一工夫」の添削については、ぜひ動画をチェックしてもらいたい。

　今回、さいとう氏が伝えたかったのは、「背景でキャラクターを引き立たせる」という意識を持とう、といことだ。絵は上手いのに、全体として何か物足りない……という漠然とした悩みを抱えているクリエイターは、この点を強く意識して見直してみるといいかもしれない。また自分では絵を描かない人も、背景とキャラクターの関係性を踏まえてイラストを見ると、審美眼が磨かれそうだ。

■参考動画：https://www.youtube.com/watch?v=J6P1ZPws9Ss