『おむすび』緒形直人の深い愛情が胸を打つ 新納慎也が体現した“人情ものの味”

『おむすび』緒形直人の深い愛情が胸を打つ

 『おむすび』の隠れたテーマは記憶の力である。記憶は味覚や嗅覚と結びついていて、過去の出来事を思い出すときに、味や匂いが蘇る経験をした人も多いだろう。今作で味覚と並んで紐づけられているのは音だ。むかし流行した曲を聴いて、記憶がその時代にタイムスリップできるように、真紀の声を聞くことで、孝雄と歩は自分たちの中に真紀が今でも息づいていることを感じたはずだ。

 結から聞いた真紀の「日本一の靴職人」という言葉で、孝雄は真紀との言葉を思い出した。「俺は職人や。腕一本あればどこでも生きていける」。記憶の中の娘の言葉が、孝雄を後押しし、新たな一歩を踏み出させた。孝雄は本当の意味で震災の傷から立ち直ったのではないか。こんな実直でまっすぐな演技を朝から見せられて、泣くなと言われるほうが無理である。カセットテープからの一連のくだりは、父の深い愛をあますところなく描いており、油断していた筆者の涙腺を直撃した。

 第84話で、バファローズの話題をのぞいて温厚な若林(新納慎也)が、珍しく声を張り上げて思いを吐露する姿もしみじみとした余韻の残るものだった。ときどき新喜劇だったりする大阪局制作の朝ドラは、人情ものが芯にあることを再認識した。

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、佐野勇斗、藤原紀香、三宅弘城、萩原利久、緒形直人、松井玲奈、平祐奈
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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