変わりゆく『SCHOOL OF LOCK!』と『ボカコレ』が生み出す相乗効果。higma×ろーある&こもり校長とぺえ教頭に聞く

『SOL!』×『ボカコレ』インタビュー

 2022年10月で開校18年目を迎えた『SCHOOL OF LOCK!』(以下、SOL)。毎週、月曜日から金曜日の夜10時からバラエティー豊かなアーティストを講師として番組に呼び、生徒(リスナー)に向けて“授業”をおこなっているラジオ番組だ。2021年10月4日にGENERATIONS from EXILE TRIBEの小森隼が教頭から校長へ昇格。同時に新世代オネエタレントでもあるぺえが教頭に就任した。

 そんな『SOL』内で、今年4月より毎週火曜日の23時から新たにスタートしたコーナーが『ボカロLOCKS!』。“ボカロ大好き部長”のちゃんこ先生が、『SCHOOL OF LOCK!』の職員室にボカロPを呼び、みんなでボカロについて学ぶ授業が展開されている。なかでも、注目したいのが、ドワンゴ主催のクリエイター参加型の祭典『The VOCALOID Collection(ボカコレ)』と『SCHOOL OF LOCK!』がコラボし創設されたボカコレの特別賞“SCHOOL OF LOCK!賞”。ボカコレのランキングを通して生徒の投票と校長・教頭・職員の審査によって選ばれたボカロPは、番組に先生として登場。楽曲が公式ニコニコチャンネル・YouTubeチャンネル内の『ボカロLOCKS!』のコーナーテーマソングに採用、ほかにもラジオで使われるサウンドステッカーやBGMの制作も依頼される。

 『ボカコレ2022春』のSCHOOL OF LOCK!賞に輝いた受賞者は、TOP100ランキングで41位を記録した「ロストトレイン」の作者・higma。リアルサウンドテックでは、SCHOOL OF LOCK!賞を受賞したhigmaと、『ボカコレ2022春』のTOP100ランキングで「感情ディシーブ」が2位、ルーキーランキングでは1位を獲得したことでボカロLOCKS!にも呼ばれた今最も旬のボカロP・ろーあるの対談と、こもり校長とぺえ教頭の対談をセッティングした。ボカロを中心に色とりどりの想いが交差したそれぞれのインタビュー。各対談にも諦めきれないヒューマニティーを感じる一幕が共通していたのが、とても美しかった。 (小町碧音)

higma×ろーある対談。多様化するボカロPの「夢の叶え方」

——まずはhigmaさんとろーあるさんに、お互いの第一印象について聞いていきたいと思います。

higma:「やばい人が現れた」みたいな感じでしたね(笑)。全体的にボカコレのクオリティーがすごい上がってきている中で、ろーあるさんが抜きんでていたので、怖がっていました(笑)。バンドサウンドをメインにされている中でも、かいりきベアさんの高速ロックのようなダンスチューンのエッセンスを感じつつ、それをちゃんと自分の色に落とし込んでいたので、これぞボカロみたいな印象でした。キャッチーで、これまでのボカロファンの人にもすごい受け入れてもらえそうな曲だなって。なおかつ新しさもあってすごくいいなと思って聴いていました。

ろーある:higmaさんの曲は、エレクトロ系のサウンドなのに、バンドの思想をすごく感じました。僕も一度エレクトロ系のサウンドで曲を作ろうと挑戦したことがあったのですが、いつものようにバンド系の曲を作るときと同じ感覚でやってみたら、全然それらしくならなくて。higmaさんはその辺りのバランスがめちゃくちゃいいですよね。エレクトロ系のサウンドとバンドの思想のハイブリッドのような印象で、衝撃的でした。

higma:めちゃくちゃ嬉しいです。でも1作目を作り始めた時は正直、界隈のこともよくわかっていなかったんです。たとえば、ろーあるさんみたいに楽器やイラストまでの全部を外注するのって、プロデューサー的でめちゃくちゃすごいなって僕は思うんですよ。当時、僕の周りにそういうことをやっている友だちも別にいなかったので、そういうことをどうやるのかがわからなくて。お金もないから、全部自分でやるしかないなと思って、自分だけで作品を作らざるを得なかったんですね。

ろーある:僕も初めは全然分からなかったので、探り探りでした。でも、外注一切なしで、higmaさんのクオリティーまでいけるって本当にすごいと思います。

higma:僕はボカロを使い始めて3年くらいになるんですけど、曲を作っていくごとに、どんどんクオリティーを磨いていって、いまようやく人並みに作れるようになったなって思っているんです。でも、ろーあるさんは、1作目にしてボカコレ初投稿曲「才能ブルーム」から異常なクオリティー。

ろーある:僕は楽器もイラストも外注の方に振っているので、ある程度のクオリティーにはできちゃうんですよね。そういう選択をたまたま1作目からしたというだけで、全部自分だけでやっていたら、いまとは程遠いクオリティーだったと思います。

——higmaさんは、昔からボカロ曲を聴いていたんですか?

higma:僕はもともと日本のトラックメーカーの音楽をすごい聴いていて、その人がYouTubeでボーカロイドについて喋っていたことがあったんですよ。こういう人でも、ボーカロイドを使って曲を作ることもあるんだなって知ってボカロ曲を作り始めました。

ろーある:トラックメーカーさんの影響を受けてボカロに入っていったんですね。

higma:それもありますけど、もともとボカロ曲は名曲とか好きなものは聴いている感じだったんです。僕は、人があんまり聴かない音楽が結構好きで。たとえばヒトリエのギタリストのシノダさん(衝動的の人)の「食べなくちゃ」って曲があるんです。それをひたすら聴いていたり。あとは、現在サイダーガールというバンドをされている、ラムネさんというボカロPさんの曲が好きでよく聴いていました。ボカロPのラムネさんがサイダーガールのギターをやっていたのを知ったのは、ボカロを作り始めてからだったんですけど。だから、結構ボカロに慣れ親しんでいたころから空いていて。界隈のこともわからないから自分でやるしかないってなったんですよね。僕と比べるとろーあるさんは界隈に入る時に結構いろいろ準備されていて、そこが僕との違いだなって思いました。

——先ほど、higmaさんから年々ボカコレのクオリティーが上がってきているとのお話が出ましたが、 たとえばそれをどんなところで感じますか。

higma:ルーキーランキングですね。最近ボカコレが開催される時にルーキーが怖くて、ちょっと聴くの躊躇いますもん(笑)。どうせすごいんだろうなっていう気持ちになって。

ろーある:「この人、エグい!」みたいなのが多すぎますね。最近は、割と力強いサウンドや、尖った曲が好まれる傾向にあると思うんです。だから、それも相まって、やっぱりルーキーでもそういう曲を作る方が多くなった気がしていて。そのバチバチ感も怖いし、投稿されている曲もすごいのが多すぎて怖いなって思います(笑)。

higma:でも、それも才能なんですよね。僕は逆に攻撃的な曲を作れないので、本当にみんなすごいなと思って聴いています。投稿される曲からはボカロのトレンドを感じますね。

——2分程度の短めの曲とかキャッチーな曲だったり?

higma:そうそう。ボーカルから先に入るとか、いろいろネタがあるんですよね。ただ、自分の活動スタンスとしては、みんなと一緒の曲作りはしたくないと思っています。だから、あんまり聴かれないみたいなこともあるんです。でもそれが個性だなと思ってやっていますね。

——最近は、ボカコレやオリジナルボカロ曲の匿名投稿イベント『無色透名祭』など、ボカロPを支援する様々なイベントが開催されるようになりましたが、それについて感じることはありますか?

higma:運営側が曲を作る側に寄り添ってくれるのは、これから制作を始める人には、めちゃくちゃありがたいことだろうなって思います。

ろーある:まさに僕たちはその恩恵を受けましたからね。こんないい曲を書く人がいたのかという出会いの場所にもなるし、逆も然りで自分がそう思ってもらえるかもしれないっていうこともある。最近だと、『SCHOOL OF LOCK!』の『ボカロLOCKS!』で、いい曲を作るボカロPさんの話を聞けますけど、これまでそんな機会はなかったですからね。

higma:最近はそういう機会が充実していて、自分たちは間違いなくその恩恵を受けています(笑)。でもちょっと思うことがあって。僕が1番最初に曲を投稿した時って、しょぼくてもいいから、とりあえずアップしてみようかなというくらいの軽い気持ちだったりしたんです。でも多分、いまのボカコレって、そういう気持ちで投稿したら確実に埋もれちゃうんですね。だから、僕が最初に感じていたこんな人もいるんだみたいなそういう気持ちが、最近はしっかりと準備しているなみたいな気持ちになっちゃって。それもまた若干悲しいというか。もっとみんなめちゃくちゃな曲作ったっていいんじゃないかって。

——昔は遊び感覚で入れたものが、いまでは仕事をするのに近い感覚になってきたと感じているんですね。

higma:昔のボカロ界隈って、みんなが空き地で遊び方を模索して楽しむみたいなところがありました。批判的になっちゃうんですけど、ハードルがちょっと上がっているので、ちょっと遊んでみようかなの感じじゃなくなったような気がしています。

——クオリティーが高く才能のある人が次々と現れる一方で、昔と比べたら土台は変わってきたと。

higma:どっちもいい部分も悪い部分もあると思います。いずれにしても、運営がそういう機会をくださるのは、ボカロを作っている側からしたらすごくありがたいことです。そこに関してはいろんな想いがありますね(笑)。

——今回、higmaさんは、『SCHOOL OF LOCK!』の『ボカロLOCKS!』で、SCHOOL OF LOCK!賞を受賞されました。『閃光ライオット』(SCHOOL OF LOCK!、TOKYO FM、Sony Music、au主催の10代のアーティストのみによるロックフェス)にバンドで応募された過去があって、今回、ボカロ曲でSCHOOL OF LOCK!賞を受賞されたということ自体、すごい奇跡的ですね。

higma:まさかって思いましたね。『SCHOOL OF LOCK!』から割と離れていたんですけど、ある日、突然校長と教頭から電話がかかってきて。僕の知っているとーやま校長じゃない!みたいな。改めて実際にどういう番組だったっけと思って聴いてみたら、空気感は当時のままで。音楽を聴いていた当時の気持ちだったりとか、音楽をやっていた時の気持ちだったりを思い出すことができたんです。音楽をやっていてよかったなってすごい思いましたね。

——もともと生徒だった人が、『SCHOOL OF LOCK!』のスタジオに足を運ぶようになることは、今後もあるかもしれないですよね。

ろーある:夢があるー!

higma:めちゃくちゃ夢ありますよね! しかも今の時代、投稿するのは割と誰でもできて、作ることに関しては結構ハードルが下がっています。だから、みんなにチャンスが開かれているのは、すごくいいことですし、それで作られた曲は聴いてみたいなと思います。しかも、ボーカロイドがここまで世間的にラジオでフィーチャーされることって、今までだったらそんなになかったと思っていて。もともとインターネットに詳しい人が聴く音楽だったのが、今はみんなが聴く音楽になっている実感があってすごく嬉しいです。

——それこそ、『SCHOOL OF LOCK!』も、元来はロックの曲を流すラジオ番組のイメージが強かったと思いますが、『ボカロLOCKS!』ができたことで、さらに流れる音楽の幅が広がったのも、その象徴というか。

ろーある:たしかに。

higma:ジャンルがめちゃくちゃ広くなっていますよね。僕はTOKYO FMのスタジオにも1回足を運んで、実際に校長と教頭とお話させていただいたんですけど、それはすごい夢のようでした。

——びっくりですよね。

higma:ちょっと前まで狭くて暗い1人の部屋で音楽を作っていたのに、いま、GENERATIONSと話してるんだけど?!みたいな(笑)。

ろーある:このままボカロP活動をしていたら、ひょっとしたらそんな界隈にまで足を運べちゃう時が来るのかも?と思うと、ボカロ界隈の各方面への進出にびっくりです。

higma:本当にびっくりですよ。ラジオに出ることがあるんだみたいな。

ろーある:そういう意味では、今後の活動は、いわゆるボカロ界隈のアングラを見てこなかった世代にもこれからは見られるかもしれないから気張らなきゃなみたいな気持ちもありますね。

higma:わかります。数人で狭い部屋でこそこそ楽しんでいたら、いきなり蓋を開けられて、なになに?ってなって、めちゃめちゃ光の差し込む世界に行くみたいな感覚があります(笑)。僕の作っている曲って、ニッチなエレクトロとか、変な音を入れたりする音楽だったりするので、自分の趣味全開の音楽を作りたい、みたいな気持ちはあるんですけど、それをやり続けるとこの光の世界から、また闇の世界……。闇の世界はちょっと言い方が違うかもしれないけど、これ受け入れて貰えるかな、という不安があったりもして。

ろーある:この塩梅はすごく難しいんですけど、higmaさんが『ボカロLOCKS!』の放送で紹介していたいよわさんは本当にそれを貫いた人だなって。「こんなことやっちゃっていいの?」を貫いた人だと思います。

higma:いよわさんはその筆頭というか。すごい人なんです。でも最近ボカロで結構有名になりつつある人たちって、一般的には、ポップスとかで聴かれなかったような音楽の作り方をしていたりします。

ろーある:あえて一般的な音楽の作り方から外れて自分を出しつつも、ちゃんと聴いてもらえるような良い塩梅に落とし込むのって、めちゃくちゃ絶妙で難しいことだと思うんです。

higma:逆に、みんなが好きになる曲を作ると逆に聴かれない。ちょっと癖があるほうがやっぱりフックになって聴かれることもあって。だから、普段みんなが聴かないような音を作って、いかに聴かせるかというところに僕はすごく注力していますね。

ろーある:いわゆる商業音楽では聴かないような曲をぶっ飛んで作っている人たちが、ボカロの文化では、ぐわっと伸びて、逆に商業側に輸入されることもありますよね。ボカロ文化の中で進化を遂げた曲たちがいっぱいあるのは、ボカロ界隈の良さだと思いますね。

higma:あんまりポップスとかですごい攻撃的な歌詞は聴かないけど、ボカロは、ネットだから全部言っちゃうみたいな風潮があるので許される。こんな言葉使っちゃうんだみたいな。でも、それがすごい刺激で。かつての僕は、普段じゃ絶対聴けないようなワードだったり、音だったりも含めてボカロを聴いていたので。僕もろーあるさんも逆輸入型だと思うんですけど、今こうして蓋を開けられ、公の場に出させていただけた。世間に認められた感じがやっぱりありますね。

——これからも『ボカロLOCKS!』は続いていきます。お二人が『ボカロLOCKS!』に期待していることは何ですか?

ろーある:個人的にはいろんな人の制作風景とかを見たいですね。すでに公開されている動画では、DAWの画面を出している方もいたし、機材を持ち込んでいる方もいて、めちゃくちゃ面白いんですよね。リスナーさんも多分面白いと思っていると思うんですけど、ああいう企画はいいですね。

higma:僕が『ボカロLOCKS!』の放送でお話させていただいた時に、絶対誰も知らないだろうけど、めっちゃいい曲として紹介させていただいた曲があったんです。そういうふうにマイナーな曲が聴けて、パーソナリティーの方が「これいいですね」みたいなことを喋ったりするくらいでも、僕はすごい幸せなことだなって思いますね。

——それでは、最後の質問になりますが、今後、お二人がどのようなスタンスで曲作りをされていくのか教えてください。

higma:やっぱり、1番大事なのは楽しく自分の曲を作ることなので、そういう意味では、叶っちゃっていると言えば叶っちゃっているんですけど。さっきも言った通り、自分のやりたい音楽を追求しつつ、前の自分の曲よりいい曲を作っていきたいと思います。直近だと、まさにラジオの独特の空気感や安心感について「ナイトレコード」という曲を書きました。

ろーある:かっこいいですね! 僕はボカロも曲を作るのも嫌いになりたくなくて、今のところ年1投稿でゆるーく活動しています。とにかく楽しく曲を作って、ミクちゃんに楽しく歌ってもらって、前の曲を超えていくっていうのが目標ですね。

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