2020年代のボカロ文化は“一周”したが故の多様さを持つ――『プロセカ』『ボカコレ』運営と“初音ミク生みの親”が語り合う

『プロセカ』『ボカコレ』運営&“初音ミク生みの親”座談会

 今回で4回目を迎える、ドワンゴによるボーカロイドの祭典『The VOCALOID Collection』(通称ボカコレ)。2000年代から多数の人気アーティスト、作曲家、イラストレーター、動画クリエイターの卵を生み出してきた、「ニコニコ動画」上で行われる。

 一方、2020年にSEGA×Colorful PaletteがリリースしたiOS/Android向けゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(通称プロセカ)は、10代をはじめとする新たな層へのリーチにおいて、大きく貢献した。現在のボカロシーンは、この両者によって下支えされていると言っても過言ではないだろう。

 そして、「初音ミク」を始めとする歌声合成ソフトを企画し、いまなお多数の関連プロジェクトの監修を務めるクリプトン・フューチャー・メディア(以下、クリプトン)。

 今回はそんな三社を代表し、株式会社ドワンゴからは専務取締役COOの栗田穣崇氏(上記画像左)と、Colorful Paletteからは代表取締役社長の近藤裕一郎氏(上記画像中央)、クリプトンからは「初音ミクの生みの親」と呼ばれる企画責任者の佐々木渉氏(上記画像右)に登場いただく貴重な座談会が実現した。一周したボカロ文化、次はどんな熱狂を見せてくれるのか。(ヒガキユウカ)

■株式会社ドワンゴ 専務取締役COO / 栗田 穣崇
2015年に株式会社ドワンゴへ入社。現在は同社の専務取締役COO・「ニコニコ」運営代表・カスタムキャスト取締役などを務めている。
「ボカコレ」でも運営代表として #栗田よ見て Twitterタグで毎シーズン“新曲全曲視聴“を敢行中。超会議ではユーザーが動画を見せつけてノベルティをプレゼントする「超・栗田よ見て2022」も実施予定。
Twitter:https://twitter.com/sigekun

■株式会社Colorful Palette / 近藤裕一郎(こんどう ゆういちろう)
ゲーム会社にてスマートフォンゲームのプロデューサー等を担当後、2018年にColorful Paletteを設立。代表取締役社長と『プロジェクトセカイ』のプロデューサーも務めている。
Twitter:https://twitter.com/CPKondoYuichiro

■クリプトン・フューチャー・メディア プロデューサー&音声チームマネージャー / 佐々木渉
2005年 クリプトン・フューチャー・メディア入社。初音ミク/鏡音リン・レン/巡音ルカを企画立案。
セガから発売された「Project DIVA」「Project mirai」シリーズや、セガとColoful Paletteよりリリースされた「プロジェクトセカイ」の立ち上げなどにも積極的に参加。

仕掛け人たちが見る、ボカロ文化の変遷

ーー2000年代、2010年代、そして現在2020年代のボカロシーンについて、どのような変化が起こってきたと感じますか? まずは佐々木さんからうかがえたらと思います。

佐々木:初音ミクを発売した2007年は、状況を理解する暇が無いほど忙しかったです。スタジオ制作やセガさんなど企業さんとのやり取りの合間で、いろんな方にご挨拶させていただく機会もあったんですが、印象に残っているのは、クリエイターさんとお会いしたときに「佐々木さんがネットに顔出ししてるのが信じられない」と言われたことでした。当時はボカロPも顔出しをしない時代でしたから。

 いまの世の中はTikTokで顔を出して踊る動画が流行ったり、ボカロPさんが顔出しでライブをやったりしていますが、この展開は想像もしていなくて。おそらくドワンゴさんにとっても、予想外だったんじゃないでしょうか?

栗田:僕がドワンゴに入社したのは2015年なのですが、そのころもみんな顔を出さない風潮でしたね。ニコ生(ニコニコ生放送)で雑談をする人たちも、マスクをしている人が大半でした。それは顔出しに対する過渡期のスタイルだったということもあるかもしれませんが、そもそもニコニコで評価されるのって、ビジュアル面より喋りの内容や発想といった本質的な面白さの方なんです。

 顔を出すことが主流になってからは、逆に顔を隠していることが個性につながることもありますが、ボカコレの番組にボカロPさんをお呼びした際も、自ら進んで顔を出してくださる方が増えました。

ーー栗田さんが話されたクリエイターの顔出しに対する意識の変化もあれば、佐々木さんのように「運営がどこまで前へ出ていくか」の変化もあると思います。近藤さんは『プロセカ』の運営代表のひとりであると同時に、ご自身もボカロPとして活動されていたご経歴をお持ちですが、2020年代にかけてどのような変化を感じていますか?

近藤:僕は高校生ぐらいのころ、インターネットの地下的な盛り上がりを見せていた初期のニコニコ動画に出会って、いろいろなコンテンツを楽しませてもらいました。

 それから数年間は毎日、毎時ランキング100位まで追うような生活をしていました。あのころは僕みたいにアマチュアで音楽活動をしている人たちでも拾ってもらえる環境でしたね。僕の曲も最初は全然伸びなかったんですけど、あのときは「日刊VOCALOIDランキング」というものがあって。

栗田:「近藤さんがおっしゃってるものとは異なると思いますが、いまも有志のユーザーによる日刊のボカロランキング(「ぼからん」)や「ぼかうたらん」(※)などは続いているんですよ。」

(※)正式名称「週刊VOCAL CharacterとUTAUランキング」

近藤:そうなんですね……! あれに載ってからすごく伸びて、おかげさまで殿堂入りもさせてもらって。そういうふうに、見つけてもらえる環境があったから、「自分たちクリエイターは純粋にいいものをつくっていればいい」という気持ちだったんです。

 それが2010年代の中盤ぐらいになると、レベルの高いプレイヤーの方々がどんどん入ってきて、単なる腕の良さだけでは聴いてもらうのが難しくなったんですよ。映像のクオリティとか、セルフプロデュースとか、そういう話が重要になってきた。

 そこから現在に至るまで、使える武器は全部使わないと勝てない時代が続いていると思います。顔を出すことが武器になるというよりは、リスナーとコミュニケーションをとることが一つの武器になるなかで、顔を出す・出さないの話も入ってくる。逆にそういう人たちが多い中で、自分は職人として寡黙にやっていく、という人もいて、それもクリエイターとしての見え方の一つのようになっていると思います。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる