中国が「死んだ衛星」を“墓場”へ送ることに成功 米国に先駆け宇宙大国となるか

中国「死んだ衛星」を“墓場”へ送ることに成功

 世界で初めて人工衛星が打ち上げられたのは1957年10月。ソ連の人工衛星スプートニク1号が未だ手つかずだった宇宙空間の軌道に入った。それから遅れること5カ月、58年2月に米国が「エクスプローラー1号」を打ち上げて、冷戦の舞台は宇宙空間にまで広がり、両陣営の宇宙開発競争が本格化した。その後、フランスが65年に人工衛星の軌道投入に成功し、日本は70年に「おおすみ」を、中国も同じ年に「東方紅1号」をそれぞれ宇宙空間に送り込んだ。

 世界初の人工衛星打ち上げから65年、世界各国が競うように人工衛星を打ち上げ続けている。JAXA(宇宙航空研究開発機構)によれば、2021年12月までに1万2000個の人工衛星が打ち上げられたという。しかし、人工衛星は燃料やバッテリー切れ、機器の劣化によって数年、長くて15年で寿命がやってくる。また、残念ながら軌道周回中に故障が発生してしまい、寿命到達前に使い物にならないケースも少なくない。そんな「死んだ衛星」にロケットなどの残骸を含めた膨大な量の宇宙ゴミ(スペースデブリ)が地球付近の軌道を占有し、現役の衛星と衝突する危険性が高まっているのだ。

 「死んだ衛星」を周回軌道から外して落下させ、大気圏に突入させれば残骸のほとんどは燃え尽きる。しかし、すべての衛星を大気圏に突入させて処理することは現実的に難しい。そこで、対地同期軌道を周回する他の現役衛星と衝突して宇宙ゴミすなわちスペースデブリが発生しないよう、地球の同期軌道から300キロメートル離れた、高度約3万6000メートルに位置する「墓場軌道」に移動させることが国際的なルールとして決まっているのだ。

 これまでは、「死んだ衛星」が残った最後の燃料を使って自らこの「墓場軌道」へと移動するという方法が一般的だったが、中国がこのほど新たな手法の実験に成功した。それは、地球の同期軌道にいる使わなくなった衛星を捕獲して、地球からより離れた「墓場軌道」に移動させる技術だ。米・ExoAnalytic Solutions社が1月下旬に発表した分析結果で、中国の「SJ-21(実践21号、2021年10月24日に打ち上げられた実験衛星)」が1月22日、使用できなくなり廃棄扱いとなった中国のナビゲーション衛星システム北斗2号の衛星に接近して捕捉、衛星で混雑している地球の同期軌道から外して「墓場軌道」へと引きずり込んだと報告された。

 今回行われた、ほかの衛星により「墓場軌道」に引きずり込む技術は欧米諸国も開発に取り組んでいたが、中国が世界に先駆けて成功させたことになる。「死んだ衛星」を無事「墓場軌道」へと送り込んだ「SJ-21」はその後、もともといた地球に近い空間にある静止軌道に戻ったとのことだ。

 近年積極的に宇宙開発に取り組み、頻繁に衛星搭載ロケットを発射したり、月面探査を実施したり、自前の宇宙研究ステーションを建設して活動を実施したりしている中国。21年には1年間で過去最多となる55機ものロケットを宇宙に打ち上げた。そして、同4月には宇宙ステーションのコアモジュール「天和」が打ち上げられ、6月には有人宇宙船「神舟12号」がドッキングに成功。今年はステーションの完成を目指して有人宇宙船や貨物輸送船など計6機を打ち上げる計画だ。今後も中国が宇宙開発分野を賑わす中心的存在となるだろう。そして、今回の試みは「宇宙大国・中国」として宇宙空間の開拓を進める上での責任感、そして矜持を世界に向けて広くアピールするという意味合いもあったようだ。

(画像=Unsplushより)

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