オンラインライブは「ある種一巡しちゃった」 東京パラ開会式・光の演出で注目されたmplusplusが直面した“現実”

パラ開会式でも注目、藤本実と“光の演出論”

研究者・演出家・ダンサーの視点が混ざることで生まれるもの

――個人的に「開発」「演出」「ダンスチームを使った表現」の3つを持っていることが、mplusplusさんの独自性を強化する方向に繋がったと思っています。一つずつを専門にしている会社はあれど、コロナ禍においてはこの3つがシームレスに繋がったことによって、ほかに真似のできない会社になっているというか。

藤本:自分たちで開発したもののプロトタイプを、今日作って明日披露するというスピード感でできるのは、たしかにその3つの要素が揃っているからだと思います。これまではクリエイティブ・システム開発のチームだったところにダンスチームでの表現が加わって、総合力がつきました。独自性という観点で考えると、自分のような経歴の人がほかにいない、という話とつながるのかもしれません。

ーーというと?

藤本:元々ストリートダンサーで、身体表現の研究者になった、という経歴がイレギュラーだと思います。自分より上の世代にそんな人はいないので、同じ会社が存在しません。バレエやコンテンポラリーダンスの研究者で、表現者から研究にシフトした方はいるかもしれませんが、ストリートダンスから研究者になった人はいないので、何をやっても初めての挑戦になります。今ではストリートダンスは子どもさんの習い事の一つのジャンルとして確立し、ストリートダンスをやっていることは珍しいことではなくなっています。周りがやっていなくてかっこいい、みたいな感覚の世代は自分達が最後かもしれません。

学生時代のダンス練習
学生時代のダンス練習

――藤本さんがそういった経歴をお持ちの方であるからこそ、テクノロジーだけにフォーカスせず、人ありきの演出やダンスありきのパフォーマンスに特化しているわけですよね。

藤本:たしかに、自分が演出するなら、出演するならこうしたい、という複数の視点はあるかもしれません。研究者・演出家・ダンサーの視点が混ざっていると思います。

大学教員時代の様子
大学教員時代の様子

――だからこそ、自分たちで発信することがより重要になりますよね。

藤本:今までは8割がクライアントワーク、2割が研究開発でしたが、それが逆転したことによって様々な可能性が広がりました。自分たちで作ったLEDデバイスを使って演出するだけでなく、映像を扱えるようになったり、照明自体を自分たちで作るようになったりと、人だけでなく周りの空間のすべてを演出できるようになってきたことで、仕事として出来る幅も広がってきています。

――身体表現を拡張するだけでなく、空間の演出可能性も広げることによって、その中でパフォーマンスする人のポテンシャルをさらに引き上げる、という段階になっているのですね。昨年の取材以降に開発したプロトタイプで、藤本さんがターニングポイントになる・なったと感じたものがあれば教えてください。

藤本:2020年7月に発表した、新体操のリボンとLEDを融合させた「WAVING LED RIBBON」は、自分の中で革命的な作品でした。デジタルのものを有機的に動かすという点において、ある種の到達点になったと思います。その前に発表したディスプレイのように制御可能な旗「LED VISION FLAG」も大きな反響をいただいたのですが、フラッグは通常の布とくらべて、不自由さが残ってしまった感が否めなくて。カラーガードのチームと一緒にパフォーマンスをしたときに、重さ・硬さのせいで出せない技があって、もう少し突き詰めたいと思うようになりました。「WAVING LED RIBBON」では、そうした“デジタルなデバイスを使って、アナログで有機的な動きを実現する”ことができました。

WAVING LED RIBBON / Opening For The Brighter Future
LED VISION FLAG

 また、これまではダンスを中心とした人や空間の演出がメインだったのですが、フラッグやリボンを開発したことにより、ダンスと関係ないイベントーー東京オリンピックの壮行会をはじめとしたスポーツ系のイベントで使いたいという依頼もくるようになりました。

――「四肢をつかった身体表現の拡張をするチーム」でなく「様々なアイテムにテクノロジーを付与できるチーム」という見方に変わったと。

藤本:まさにそうですね。そこは今後も演出や開発の軸になっていくと思うので、それらを強化するための新技術を開発しています。これまでの自分たちはプリレンダされたもの、いわゆるプログラミングされた映像などをLEDのデータに変換して流していたわけですが、オンラインライブではファンの方のコメントや笑顔といったリアクションに対してインタラクティブであることが重要視されていると感じているので、リアルタイムに双方向での表現ができるような技術を作りはじめています。

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