映画『フリー・ガイ』に込められた“ビデオゲームへの愛” 「とあるアイテム」を巡る見事な仕掛けとは?

『フリー・ガイ』に込められた“ビデオゲーム愛”

ビデオゲームへの愛を貫いて描いた「自由と創造性を取り戻す物語」

 このような、あくまでビデオゲームは前提であるという考え方は物語においても同様であり、本作はビデオゲームを舞台としながらも、あくまでその本質は「主従関係を断ち切って、本来持てるはずの自由や創造性を取り戻す」ことにある。ゲーム側においてガイはゲーム中で偶然出会ったとある女性に気に入ってもらうために奮闘するが、その過程で「NPC(AI)≒不自由で従属的な存在」という前提に疑問を抱き、もっと自分のやりたいことをやるべきだと考え、周りのNPCをも説得して影響を及ぼすようになっていく。一方で、実は本作では『フリー・シティ』という「ゲーム作品」を巡る現実側の物語も同時に進行しており、本来は自分たちの開発した全く新しいゲームをリリースするはずが、大企業であるスナミ(Soonami)にコードを盗用されて『フリー・シティ』へと作り変えられてしまった開発者であるミリーとキーズによる、自らのコードを取り戻すための戦いが描かれていく。二人の姿は、ゲームの中にいるガイから見ればプレイヤー側の存在(サングラス族)だが、現実では彼と同じく不自由で、スナミに従属している状況にある。

 ひとりのゲーム好きとして感動したのは、その「主従関係を断ち切る」ための方法にこそ、本作のビデオゲームを舞台とした設定が最大限に活かされていたということである。本作の物語は、最終的に『フリー・シティ』の世界への希望と開発者から託された想いを抱えたガイによる決死のミッションへと向かっていくのだが、彼が最大のピンチを迎えた時、「何にだってなれるし、何でもできる」というビデオゲームだからこそ実現できる「能動的な自由」を駆使して、主人公が全力で抵抗する瞬間が訪れるのである。

 この場面で登場する、誰もが知る超巨大IPの引用は(まさかのカメオ出演も相まって)本作中最大の笑いどころであると同時に、そのような作品の主人公にだってなれるというビデオゲームならではの可能性を見事に提示した名場面だ。だが、さらに感動的なのは、その超巨大IPだけではなく、ビデオゲームの歴史に深く名を刻む傑作である『Portal』や『Half-Life 2』といった作品も併せて引用されていることである。これらのゲームは、ただ現実の自分以外の何者かになるだけではない、まさに能動的な自由度をプレイヤーに与え、想像力を働かせて現状を打破することの面白さを教えてくれた傑作だ。更に、そのガイ自身もまた、自らの想像力を駆使して面白いゲームを作り上げようと思った開発者が生み出した存在なのである。まさにビデオゲーム自体が持つ魅力、そしてそれを作る開発者への深いリスペクトがしっかりと込められた、あまりにも見事なクライマックスと言えるのではないだろうか。

 とはいえ、本作におけるビデオゲームの扱い方が完璧かというと、そこはやはり映画というフォーマットや時間内に収めるため、ある程度割り切って描かれている部分も多い。最も顕著なのは、最終盤における「実際にやったら最初の一発で全てが終わる」であろうアントワンの行動だろう。また、本編中盤におけるガイの活躍を通して多くのプレイヤーが彼に共感し、NinjaやPokimaneといった実際に第一線で活躍する超有名ストリーマーもNPCに対する考え方を変えていく場面についても、恐らく実際には、広く支持される間もなくゲーム会社側にチーターとして通報され、放置される間に炎上してしまうのではないだろうか(正直、もし筆者がプレイ中のゲームにガイのような存在が現れたら、単純に迷惑に感じてしまうだろう)。ついでに言えば現実世界から見た『フリー・シティ』のグラフィックがどうにも安っぽいところも気になってしまった。本作は批評の面でも興行成績の面でも成功を収めており、配給元の20世紀スタジオの親会社にあたるディズニー側も、なんと既に続編の制作を切望しているそうなので、もし続編が制作された際には、より高いレベルでのビデオゲーム表現を期待したいところではある。

 それでもなお、本作はビデオゲームを題材とした映画という括りだけではなく、単純にコメディ映画としても一級品の名作であることは間違いない。本作のコメディとしての魅力やビデオゲームへの愛は、映画館のスクリーンで体感するからこそより一層に輝くものであり、ぜひ上映期間中に劇場に足を運んでいただければと思う。

■公開情報
『フリー・ガイ』
全国公開中
監督:ショーン・レヴィ
出演:ライアン・レイノルズ、ジョディ・カマー、ジョー・キーリー、タイカ・ワイティティほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2021 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
公式サイト:movies.co.jp/FreeGuy

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