「境遇を楽しむのは『ヤケクソにならない』ため」 空間演出ユニット・huezが振り返る2020年のライブ演出

「境遇を楽しむのは『ヤケクソにならない』ため」 空間演出ユニット・huezが振り返る2020年のライブ演出

――昨年本当にたくさんの配信ライブがありましたが、面白かった配信ライブや注目しているテクノロジーなどがあればお教えください。

としくに:配信ライブは、この半年で変わり種はひと通り出たかなという印象です。テクノロジーでいうとMoment Tokyoっていう映像プロダクションとREZというVJユニットがいるんですけど、その人たちがやってる演出がすごかったですね。

YAVAO:Unreal Engineっていうソフトウェアを使って、クロマキーでCGの中に人間を置いてカメラワークで見せていく、ある種VR的な見せ方ができる演出の仕方を開発していて。あれは結構見たことないタイプですね。そのチームから去年「手が足りないので一緒にやってくれませんか」っていうお話をいただいて。基本的にはある程度出来上がってるモノがあって、そこに僕らが演出を付け加えていくという形を取って、それを今huezチームはMoment TokyoとREZに教えてもらいながら研究中です。コロナとか関係なくここ数年でXR、VRの技術革新がどんどん起きるだろうとは思っていて、そこに特化した演出を学べるチャンスかなと。

【EXPERIMENTAL VIRTUAL LIVE vol.4】After Movie Feat.アフロマンス & ☆Taku Takahashi (m-flo, Block.fm)

としくに:僕はもともと「開発チームとそれを使いこなすチームは別であるべきだ」と思っていたから、最先端を追うというよりも、すでにあるテックをどうやって使いこなしてやるか、という視点でテックを勉強していたんです。

 これは前も話したんですけど、ウチはもともと「THEテクノロジー、最先端テック!」みたいな感じではなくて、もっと泥臭いんですよね。新しいテックが出てくると、「あれみたいなことをやりたい」というオーダーも結構頂くんですが、それを規模感と予算感っていう制限にどう合わせて実現するかを考えるのが僕らの仕事なので、それはやっぱり泥臭い。

 例えば、huezではライブ演出とは別に、アニメの展示のお仕事をいただくこともあるんです。デパートの催事場とかが会場になるんですけど、電源や耐荷重、時間などライブハウスとは全く違った制限だらけ。huezはその中で展示を成立させることができる強みのあるチームなんです。ジャンルをまたいだメンバーがそろってきたことで、他のセクションに対して気軽に意見を言い合える。そういうコミュニケーションが取れるチームであることも強いなと思うし、「空間演出チーム」と名乗っていることにも意味が出てきたなと思いました。最近はやっと「ちゃんとテックを学ぼう」っていう流れがあって、今はYAVAOたちに色々勉強してもらってるし、Moment TokyoさんとREZさんにも色々と教わっています。

ーーここまで昨年について振り返ってきました。今後の展望についてお聞かせください。

としくに:これからワクチンができたらコロナも少しずつ収まって、配信ライブの量も減っていくでしょう。その中でも尖ったものは残るだろうなとは思いますね。僕らは直近は配信ライブに注力しつつ、先程も言っていたVR・XR系のテクノロジーを勉強していこうと思っています。でも、生ライブの演出は続けるだろうな。やれることはまだいくらでもありますね。

 あと、これはあくまでも僕の個人的な気持ちですけど、生ライブとバーチャルの間、その溝にあるネタはやりたいです。去年くらいにPsychic VR Labっていう会社と仲良くなってて、そこではマイクロソフトのHoloLensっていう透過ディスプレイグラスを使って、現実世界にCGを混ぜたり、クリックすると服を選んで着れたり……みたいなサービスを作っているんですが、あれでライブをやってみたい。これは現時点だとお金も機材もメチャクチャかかるので無理なんですけど、将来そういう演出をするためにも今からバーチャル空間における演出の感覚とか、勘みたいなものを鍛えていきたい。あとは今はコロナ真っ只中ですけど、たとえば今の中高生、感受性が豊かな時期にコロナを体験した人々がこれからどういう表現をしていくのかが、個人的には楽しみなんです。人間ってそんなにネガティブに作られていないから、みんなポジティブにアウトプットしようとするはずなんですよ。

――2021年はどんな年にしたいですか?

YAVAO:どこもそうだと思うんですけど、この状況の変化に対応するしかないっていうのは大前提です。そのためにも、さっきの話にも繋がりますが、ゲームエンジンとか、UnityとUnreal Engineぐらいはちゃんと触れないといけないかな、とは思っています。今更なんですけどね。

としくに:変化に対応するって意味で、僕がマインドセットの部分で考えているのは、「ヤケクソにならない」です。もう世界的に、コロナという概念に疲れちゃってると思うんですよね。でもここでヤケクソになっちゃうと、面白くなくなってしまう気がしていて。きついけど、そのきつい境遇を楽しんでいかないといけない。実際1年の間に新しく増えた技術も、それによって出た面白さもあった。僕的にはCY8ERの武道館を作れたっていうのは大きくて。お客さんはもちろん声を出したいけど、出せない。それでも違う形で面白い体験を作っていかないとって改めて思いました。

――としくにさんのなかで、「ヤケクソ」ってたとえばどんな行動ですか?

としくに:「とりあえず配信ライブをやっとけばいい!」みたいなことですかね……あと、一番わかりやすいのは「やめちゃう」ってことかな。

 僕らのようなライブ業界のアーティストやスタッフは、どこまでいっても、ファンの方にとっての非日常を作っている立場なので、非日常側が投げ出してしまっては元も子もないよなと。テーマパークに行って、キャラクターがいきなり着ぐるみ脱いで暴れ出したら困るじゃないですか。

 「我慢」を強いられている期間が長引いてきて、思考停止しちゃうこともあると思うんですが、こんな中でも新しいものを作ろうとか、面白く伝わる方法を考えよう、という気持ちがコロナが流行した瞬間の初心にはあったはずなんですよね。嫌になってもそれを表に出さずに、戦略性を持って考えていかないといけないし、やめないで続けていくための方法を考えないといけない。変化の時代はチャンスでもありますし、チャンスだと思っている側の方が面白いと思うんですよね。

■としくに
ステージディレクター・演出家。渋都市株式会社代表取締役市長。演劇領域での舞台監督や、メディアパフォーマンスの「インターネットおじさん」などの活動を経て、2016年に渋都市株式会社を設立し、代表取締役に就任。「笑い」と「ホラー」をテーマとして、既存の枠組みを越えた映像・空間演出のディレクションを手掛ける。

■ YAVAO / 小池将樹
VJ・LJ・ステージエンジニア。「身体的感覚の混乱」をキーワードに、デジタルデバイスやゲームシステムの企画・制作をおこなう。2011年にhuezを立ち上げた人物でもあり、現在は、huezのライブ演出の中心人物として、レーザーやLEDなどの特殊照明のプランニングおよびエンジニアリングを担当している。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる