音楽ゲームの「楽曲移植」論ーー『beatmania IIDX INFINITAS』と『pop’n music Lively』の楽曲パックから考える

コナミのPC版音ゲーの近況と楽曲移植

 まずは以前に記事を執筆した2020年9月以降の、PC版音ゲーの状況を整理したい。

 同月にベータ版が公開された『Lively』は、2ヶ月のテスト期間を経て同年11月に正式版をリリース。やはりテストリリースがなされていた『GITADORA』(『GuitarFreaks』と『DrumMania』の合同ブランド)、『ノスタルジア』のPC版も、それぞれ2020年12月、2021年2月に有料サービスが開始された。これでコナミの運営するPC版音ゲーの正式版は、すでに稼働している『INFINITAS』『SOUND VOLTEX』の両タイトル合わせて計5作品となった。

 これらのリリースに合わせ、AC音ゲーに接近した体験を家庭版プレイヤーに提供する上で欠かすことのできない、各機種に合わせたプレイ環境の整備も進められた。『Lively』や『GITADORA』の一隻『GuitarFreaks』については、AC作に近い感覚でプレイ可能な専用コントローラーの注文受付を実施。また『DrumMania』『ノスタルジア』はそれぞれ市販の電子ドラムやMIDIキーボードをゲームコントローラーとして用いることが公式に想定されており、これを受けてファンコミュニティを中心に「ゲームプレイに向いた電子楽器」の選定が行われるという興味深い現象が見られた。さらに先行する『INFINITAS』についても、昨年のeスポーツ企画「BEMANI PRO LEAGUE ZERO」にも用いられた最新AC機種『beatmania IIDX LIGHTNING MODEL』のプレイ環境を高度に再現した、「プロフェッショナルモデル」と称した高級コントローラーが販売された。

 正式版『Lively』において月額基本料金のみで遊べる楽曲は、AC版の収録曲(記事執筆時点でおよそ1600曲)から選抜された約200曲。これにAC作品の特定バージョンから選出した30曲分の追加楽曲パックが現時点で1種類存在し、買い切りで追加が可能であるほか、会員継続により1ヶ月あたり1曲が追加開放されている。この月額基本料金+楽曲パックDLCという制度は、先行していた『INFINITAS』の基準を援用したものである――というあたりが、コナミのPC版音ゲーの置かれた現況である。

 さて、本題の楽曲パックについて語ろう。移植元となるAC作品はそれぞれ『beatmania IIDX』と『pop’n music』であり、奇しくも前節で述べた初めての楽曲移植を構成した2作品の組み合わせである(正確には前者は派生作だが)。

 一つ指摘しておくべきは、これら2作品がいずれも演奏型の(楽曲の演奏の一部をプレイヤーによる操作が担う、いわゆる”キー音”を持つ)音ゲーであることだ。近年のスマホ・AC・PCの音ゲー諸作は演奏型ではなく、はじめから完全な楽曲が流れプレイヤー操作の結果は追加の効果音として重なるものが主流である(このあたりは音楽誌「ポプシクリップ。マガジン」第8号掲載の拙著音ゲーコラムで論じた。ご興味の向きはぜひご一読を)。

 演奏型の音ゲーは楽曲の収録にあたり、ミックス前のいわゆるパラデータからプレイヤー操作に割り当てる音を切り出す作業が必要であり、従って非演奏型から演奏型への移植には相応の工数を有する。今回のような互いに演奏タイプである音ゲー同士の楽曲移植は、既に切り出されたサウンドデータを流用することができ、移植作業の実務上も都合の良いケースと捉えられる。

 さて、これまで『INIFINITAS』『Lively』の収録曲は、『INFINITAS』におけるごく一部の例外を除き、それぞれ対応するAC版に収録されている楽曲で構成されていた。例えば『INFINITAS』は約5年にわたる運用の中で、PC版独自の楽曲はわずか3曲しか収録されていなかった。言い換えればPC版音ゲーは収録楽曲のラインナップから見れば、AC作品の一部を切り出した縮小版であった。他のPC版BEMANI作品の『GITADORA』『ノスタルジア』『SOUND VOLTEX』でも基本的にその事情は同様である(PC版『SOUND VOLTEX』のみ、期間を限定してのAC収録予定曲先行配信の前例あり)。

 今回のDLC配信が興味深いのは、そこから大きく踏み出してみせたところである。具体的には、『Lively』への『beatmania IIDX』楽曲パック12曲のうち、7曲はAC版『pop’n music』には未収録。『INIFINITAS』の『pop’n music』楽曲パック12曲もまた、AC版『beatmania IIDX』未収録曲を7曲含んでいる。

 もともと『INFINITAS』の公式サイトのQ&Aコーナーには2015年のテスト版リリース当初から、この作品がAC作の単なるPC移植版ではなく”PC版オリジナル最新作”であり、”過去のシリーズや、オリジナル楽曲の収録を予定”しているとの記載があった。前述の通り収録楽曲面からはほぼAC版の下位互換であったPC版に、初めて大々的に独自の楽曲ラインナップが実装された今回の楽曲移植企画は、(書き下ろし曲ではないとはいえ)この公約を果たしたものとも解釈できる。

 別の観点としては、AC作品での筐体間よりも低いハードルでタイトル間の楽曲移植で実施し、ユーザ反応の良い移植案件をAC作でも後追いで実現するスキームとしての可能性も見出し得る。以前の拙筆コラムではコナミがPC版音楽ゲームに注力する意義を、(1)ゲームセンターという場への全面依存の解消による事業継続リスクヘッジ、(2)ユーザのライフステージ移行への対応、(3)海外対応、(4)音楽ゲームやゲームセンターの市場拡大への布石、と解釈して論じた。コナミはそれらに加えて、いわば小規模なオンライン・ロケーションテストの場としてのポテンシャルをも、PC版音ゲーというプラットフォームに期待しているのかもしれない。

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