ゲームの世界に暮らすことは実現可能か? 『FF14』の“バーチャルとリアルの交錯”から考える

ゲームの世界に暮らすことは実現可能か?

 『FF14』の世界に暮らす

 2021年2月6日に開催された「ファイナルファンタジーXIV新情報発表会」で非常に多くの情報が明かされ、『FF14』のプレイヤーの多くは、まだその熱も冷めやらぬといった時期ではなかろうか。発表会では、将来的に実装・開発予定のいくつもの新コンテンツが明かされたが、そのなかでも新たな生活系コンテンツFF14で新たに追加される「無人島開拓」は、開発内での通称が「DASH島」だという裏話も話題となり、『ザ!鉄腕!DASH!!』のディレクター齋藤 慎一氏がツイッター上で言及するという予想外の波及効果を生んだ。[vi]いまだ詳細こそ明かされていないものの、「無人島開拓」がこれまで『FF14』が追い求めてきた「ゲームの世界に住む」というコンセプトの一角を成すものではないかと筆者は考えている。そこで明かされた「ゲーム内でスローライフを楽しむ」というコンセプトは、「ゲーム世界に暮らす」という『FF14』が掲げるゲームコンセプトをもとに、リアルとバーチャルの融合を後押しする一手になるのだろうか。

 2018年の『Game Watch』のインタビューで、前出の吉田直樹氏は、「FFXIVの世界に住むこと、暮らすこと」に重点を置いたゲーム開発を進めていると述べている。[vii]実際、『FF14』には「ゲームの世界に暮らす」ことを念頭に置いたシステムがいくつか実装されている。まず筆頭に挙げられる生活系コンテンツとしては、合計11種類あるギャザラー・クラフターといった採集系・製作系ジョブだ。採集・製作したものをマーケットを通じてプレイヤー間で売買可能だ。このような多様なジョブシステムやマーケット機能は、MMORPGの元祖とも言える『ウルティマオンライン』(1997年)以降、MMORPGジャンルにおいては標準的なもので、『FF14』もこれを踏襲している。

 筆者がプレイヤーとして遊んでいるなかで、特に文化的観点から好奇心を喚起されるのは、「ハウジング」コンテンツを利用したプレイヤー文化だ。『FF14』には、「冒険者居住区」という広大なスペースがゲーム内に用意されており、個々のプレイヤーが個人で土地を購入し、家を建て、外装・内装、庭を自由にカスタマイズできる。意匠を凝らした絢爛豪華なハウジングも非常に多い。そして、このハウジングを利用した店舗型のロールプレイが存在する。たとえば、装備やアイテムの売買を行う商店、バーやカフェ、居酒屋、ゲーム内のアバターを撮影するためのスタジオ、さらにはキャバクラ、ホストクラブ、はてはファッションホテルのようなものまであると耳にしたことがある。

 このような店舗ははじめからゲーム内世界に実装されているものではなかった。すなわち、それらは、ゲーム世界の広がりの限界を示す「マジックサークル」を文化的な意味において超越している。[viii]それは、世界設定上の問題であれレーティング上のそれであれ、少なくともゲーム世界のルール上では存在していなかったものだ。それがプレイヤー文化のなかで林立しはじめるということは、リアルがバーチャルへと流入した結果と解釈できよう。バーチャルがリアルを取り込み、それに取って代わるというよりも、別のリアルとして、バーチャルがプレイヤーを内包する関係性が構築される。それは必ずしも開発側からその世界に正式なゲームシステムとして実装されるものとは限らない。このようなプレイヤー文化を通じて、意識的か無意識的にかはともかく、私たちプレイヤー自身がバーチャルとリアルを積極的に融合させてきた。

 このほかに、「エターナルバンド」というパートナーシステムがある。公式サイトの文言によれば、これは「特別な相手と久遠の絆を誓い合う誓約」とある。現実世界の婚姻制度がベースにあるだろうが、2014年の実装当初からエターナルバンドは同性婚を認めており、また、2020年2月に行われたアップデート後は性別に対する衣装制限も撤廃されている。リアルでもセクシャリティ、ジェンダーに関する差別や偏見はいまだ少なくないなかで、『FF14』はMMORPGタイトルのなかでもいち早く、この問題へ意識を向け、欧米の海外メディアからは一定の評価を得ている。[ix]吉田氏は海外メディア『Kotaku』のインタビューで「人々の価値観の変化をより意識していく必要があります。『FF14』がどのようにしてゲーム内でそれを押し進め、表象していくかを考えなければなりません」と述べている。[x]ここには、リアルを表象するだけではなく、むしろバーチャルを経由してリアルへと還元していくような、バーチャルからリアルへの働きかけに基づいた新しい世界構築の展望もあるように感じられる。

 このようなバーチャルとリアルの融合は、2021年5月に開催予定のデジタルファンフェスティバルの「DIGITAL+REAL AROUND THE WORLD」というスローガンにも象徴的だ。このような形での開催はコロナ禍の影響によるところが大きいだろうが、一方でバーチャルとリアルが融合する場としてのMMORPGの現代的意義を再確認する点でも、非常に重要なイベントになるのではないだろうか。

 現実世界で可能なことをそのままゲーム内に取り込もうとする試みだけにとどまらず、むしろ現実では、様々な社会・政治・文化的制約によって困難に陥りがちな領域を積極的に越えていけるようなオルタナティブな世界構築の一例として、『FF14』の可能性を筆者は積極的に見出していきたい。

 様々な外的要因の後押しもあり、バーチャルとリアルの融合がますます加速していく現在、私たちは気づかないうちに、バーチャルをリアルの仮象としてではなく、別の仕方で存在するもう一つのリアルとして捉えて始めているのではないか。果たして、リアルがバーチャルに接近しているのか、あるいはバーチャルがよりリアルへと類似してきているのか、その判別を試みるのは難しい。しかし、リアルの潜在的なゲーム的要素が、長い年月をかけたバーチャル/ゲームの創造/想像力的進歩と拡大によって、次第に顕在化してきた状況があるのではないか。そして、MMORPGはこのことに目を向けるうえで非常に有意義な示唆を与えてくれる。私たちはすでに「ゲームの世界に暮らす」住人なのではないだろうか。

■ロラルロラック
文学畑の非常勤大学講師。文芸批評理論を用いたゲームのナラティブや遊びの形式分析に関心あり。ゲーマーとしては専らオンラインゲームをプレイする日々。

〈参考文献・サイト〉

[i] 『ロイター』「任天堂、今期営業益予想を再び上方修正 スイッチの勢い続く」2021年2月1日。(https://jp.reuters.com/article/nintendo-operating-profit-idJPKBN2A11N1)

[ii] Derrick Bryson Taylor and Aimee Ortiz, “Biden Campaign Courts the Animal Crossing Island Vote With Yard Signs”Sept. 1, 2020.(https://www.nytimes.com/2020/09/01/us/politics/biden-animal-crossing.html)

井上明人『ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える』(NHK出版、2012年)では、バラク・オバマが選挙活動にゲーム的要素を利用していたことなどにも触れている(16-35頁)。

[iii] 吉田直樹「人は、なぜオンラインゲーム(MMORPG)をプレイしないのか」『朝日新聞Digital』2019年11月20日。(https://www.asahi.com/and_M/20191120/7323398/#sono1)

[iv] 松本健太郎「スポーツ・ゲームの組成―それは現実の何を模倣して成立するのか」日本記号学会編『ゲーム化する世界―コンピュータゲームの記号論』2013年、新曜社、71-87頁。

イェスパー・ユール『ハーフリアル―虚実のあいだのビデオゲーム』(松永伸司訳、ニューゲームズオーダー、2016年)201-212頁を参照。

[v] 余談だが、吉田氏はかつて『Dark Age of Camelot』内でロールプレイとして女性プレイヤーを装ってプレイしていたときに、海外の男性プレイヤーに惚れられてしまった経験があるというエピソードを明かしている。(吉田直樹『吉田の日々赤裸々。2―プロデューサー兼ディレクターの頭の中』Gzブレイン、2018年)

[vi] (https://twitter.com/shimakantoku/status/1357908785772175360)

[vii] Game Watch,「「FFXIV」、「パッチ4.4 狂乱の前奏曲」吉田直樹氏インタビュー」2018年9月14日。(https://game.watch.impress.co.jp/docs/news/1141987.html)

[viii] 「マジックサークル」とは、オランダ人歴史化ヨハン・ホイジンガが『遊びと人間』(里見元一郎訳、講談社、2018年)のなかで唱えた概念を、ケイティ・サレンとエリック・ジマーマンが『ルールズ・オブ・プレイ』(山本貴光訳、2011/2013年、ソフトバンククリエイティブ)のなかでゲーム研究へと持ち込んだもので、簡単に述べると、ゲームが行われる領域を示す境界線のことだ。たとえば、サッカーであれば、サッカーコートが「マジックサークル」ということになる。

[ix] Leah Williams, “Games Can Do So Much More For The LGBTQIA+ Community.” Kotaku. April 14, 2020. (https://www.kotaku.com.au/2020/04/lgbtqia-representation-community-video-games/)

[x] Kotaku, “‘We Took A Bold Step This Time': Final Fantasy XIV Director Addresses The Game's Sweeping New Changes.” May 29, 2019.(https://kotaku.com/we-took-a-bold-step-this-time-final-fantasy-xiv-direct-1835098319)

Kotaku, “Final Fantasy XIV's Wedding Attire Will No Longer Be Tied To Character Gender.” Feb. 14, 2020. (https://kotaku.com/final-fantasy-xivs-wedding-attire-will-no-longer-be-tie-1841694362)

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