八王子P×柴 那典対談 “重要楽曲”から考えるボカロ史

八王子P×柴那典が語る“ボカロ重要楽曲”

2017年〜2020年 シーンに捉われない新たな才能の台頭

――2017年には、八王子Pさんがリストに挙げた「砂の惑星」(ハチ)が発表されました。

柴:こうして並べて見ると、「砂の惑星」はボカロシーンにとってのセカンドインパクトだったように感じます。初音ミク10周年のアニバーサリーに提供する曲でありながら、“ニコ動とかボカロカルチャーは砂漠なんじゃないか”という問題提起的なテーマの楽曲を発表したという。シーンの内外に猛烈な刺激を与えた楽曲でした。

八王子P:全然テーマソングっぽくないですもんね(笑)。

柴:普通だったら、“ありがとう”とか、“おめでとう”とか、そういう曲になりますよね。

八王子P:これを作ろうと思ったハチ君の、才能というかアーティスト性に、言葉では言い表せない気持ちになりましたね。悔しいというのも違うし、ただ感動したというのも違うんですけど……「こんな曲を出すんだ」という衝撃がすごかったです。

柴:「砂の惑星」の問題提起にみんなショックを受けたんですけど、結果として今、新しい才能がどんどん出てきています。Eveさんやカンザキイオリさんなど、クオリティの高い表現を世に出して、より広いフィールドで活躍していくミュージシャンが2017年以降に増え始めていると感じています。僕が選んだAyaseさんの「ラストリゾート」もそう。彼はこの曲が話題にならなかったら音楽をやめようと思っていたけど、「ラストリゾート」を発表した少し後にYOASOBIのスタッフから声がかかって、「夜に駆ける」を書いた。それが2020年を象徴する曲になったわけです。そう考えると、ハチが米津玄師としてブレイクしたのとはまた違った形で、J-POPでのトレンドを作り出す流れができているように感じます。ずっと真夜中でいいのに。の編曲に参加しているぬゆりさんや煮ル果実さん、ヨルシカとしてブレイクしたn-bunaさんのような才能もそうで、「砂の惑星」で、“あとは勝手にどうぞ”と言われた後の砂漠に、もう1回しっかりと花が咲いた瞬間を見ているのかもしれません。

ハチ MV「砂の惑星 feat.初音ミク」

八王子P:僕が始めた当時は、ボーカロイド文化はアマチュアなカルチャーでしたし、こんなにメジャーになるなんて思っていなかったので、ちゃんと胸を張れるキャリアを積まないとなと考えていたんですけど、今はそこら辺の考え方が全然違う。20代の子たちと話すと、「小学校の頃聴いてました」とか言ってもらえる機会も増えてきて、ようやく最近ちょっと自信がつきました。時の流れを感じてすこしショックですけどね(笑)。

柴:初期のボカロシーンから活動をスタートしてメジャーデビューなど商業的な成功を果たしつつその後もずっとボカロの曲を作り続けてる人って、実はそこまで多くないんですよね。DECO*27さんや八王子Pさんはまさにそうですけど、そういうタイプのレジェンドって意外に少ない。だからこそ、その価値って、ここにきてすごく高くなっていると思います。

八王子P:それは結構感じますね。悲観的な展望はまったくなくて、ボカロが衰退することはないと思っています。ただ、ここからボーカロイドで盛り上がっていくにはどうしたらいいんだろう、と考えることはありますね。いまってボーカロイドだから聴くって人はかなり減っていて、“誰が作っているか”に焦点がいく面も大きいので。

柴:そういえば去年、出身校の高校生たちにOBとして講義をする機会があって、講義後のアンケートに「好きなアーティストを教えてください」って書いたんです。そうしたら、official髭男dismやback numberなど、J-POP、ロックがほとんどの中に数人だけ、すごく熱くボカロPの名前を並べてくる子がいたんですよ。クラスの全員が好きになることはないかもしれないけど、そのうちの数人がめっちゃ熱く語るというのは、ユースカルチャーとしてすごくいいことだなと思いました。

八王子P:その数%は本当にボカロが好きな子たちですもんね。

柴:本当にたくさん書いてくれて、DUSTCELLや傘村トータやはるまきごはんのように、それをきっかけに検索して聴いてみたら「いいじゃん!」と思えるような新しい発見もあって。いつの時代もティーンエイジャーが正解を知ってるんだな、と心底感じました。

――すごくいい話ですね。

八王子P:中高生で聴いていた音楽って一生ものってよく言われますけど、そういう子たちがいてくれてるというのは、ボカロシーンにおいて希望ですよね。

――それでは最後に、今後のボカロシーンに期待することを教えてください。

柴さん:プラットフォームや企業には、14、15歳の子たちを見続けてほしいです。クラスの数人に濃いファンがいるというのは、シーンにとっての大きな希望だと思うので。そのくらいの年齢になるともう子どもじゃなくて、ヌルいことをやるとすぐに見透かすんですよ。そういった人に対しての誠実さが、大人側に必要だと思います。

八王子P:そこまで悲観していないのですが、さらに欲を言うなら、これから始めてみようっていう人たちが、より出てきやすいような何かが生まれるといいな。新しいクリエイターたちが出てきやすい、育ちやすい場所ができたらと思います。

――『The VOCALOID Collection』がそういう場になればいいですね。

八王子P:そうですね。新しい人が出てこないと、ボカロカルチャーはなくなっちゃうんですよね。今でこそ敷居が高いように見えますが、当時なんてみんなやりたい曲をやって、パッとアップしてましたから。これからやろうと思ってる人は、これをきっかけに難しく考えず、気構えずに始めてみてほしいです。

■イベント情報
『The VOCALOID Collection -2020 winter- 』
https://vocaloid-collection.jp/

八王子Pも出演する1日限りのスペシャルライブ「The VOCALOID Collection LIVE」チケット絶賛販売中(リアル会場チケット /  ネット視聴チケット)
https://dwango-ticket.jp/

日程:2020年12月12日(土)
開演:【第一部】13:00〜 【第二部】18:30〜
会場:豊洲PIT(東京都江東区豊洲6-1-23)

〈出演者〉
【第一部】+α/あるふぁきゅん。|164|針原翼(HarryP)|ピノキオピー|Heavenz
【第二部】john/TOOBOE|ツユ|DJ'TEKINA//SOMETHING a.k.a ゆよゆっぺ|八王子P     and more...

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