シンガポールのシェアサイクルサービス『oBike』の破綻から学ぶ「エコロジービジネスの難しさ」

シェアサイクルサービス破綻から学ぶエコロジービジネスの難しさ

ショートしたオペレーション

 シンガポールは、決して国土の広い国ではない。埋立地も含めると日本の徳島県三好市と同じくらいの面積である。

 そのような国の中で、『oBike』は数万台のレンタル自転車を展開させていた。シンガポール陸上交通局(LTA)は、シェアサイクル事業者に対して「駐輪場の整備」と「自転車1台毎のデポジットの納付」を要求した。後者は事実上の罰金措置である。

 『oBike』がシンガポールでのサービスを停止したのは、2018年6月。この時、筆者は現地にいた。幸か不幸か、『oBike』に起因する放置自転車問題を調査していた最中にこのようなことが起こってしまった。

 『oBike』はユーザーに対して49シンガポールドル(約3800円)のデポジットを取っていた。その返金がないまま事業から撤退したのだから、当然炎上する。ネットでは『oBike』に対する「金返せ!」コールが巻き起こった。

 次世代の交通システムの先駆者として期待されていた『oBike』の最期は、あまりに悲惨なものだった。

問題はすぐに解決しない

 ローマ教皇フランシスコの言葉を借りれば、「幸せはスマホアプリとは異なる」。

 アプリは簡単にダウンロードできるが、人の幸せはそこまで即時的なものではないということだ。だからこそ、「これを持っているから必ず幸せになれる」ということは絶対に起こらない。

 技術もあり、人材もいて、資金も持っている。あとは判断ひとつですぐさま問題は解決する……というのは物質主義と変わらない発想だ。本来、社会問題の解決とは長く遠く地道な作業である。しかも、昔からそこに住まいを構えている人たちとの融和も欠かせない。シェアサイクル事業はCO2削減と交通渋滞解消に直結するから、すぐにでもそれを実施すればすべて良い方向に事が運ぶ……と考えるのは危険である。

 第二の『oBike騒動』を防ぐには、シェアサイクル事業者が確固たる駐輪場を確保しなければならない。それが自分の所有する土地ではなかった場合、地権者との交渉が必要不可欠だ。突然現れたスタートアップに耳を貸す地権者は多くないだろうから、結局はスタートアップの社員が靴底を擦り減らす日々を送らなければならない。が、それをやらなければ『oBike』の二の舞になってしまう。

 我々は、最悪の結末を迎えた『oBike』から何を学べるのだろうか。

【動画】

Melbourne Prefers Bike-Dumping To Bike-Sharing-YouTube
Thousands of oBikes waiting to be scrapped in Singapore-YouTube

■澤田真一(さわだ・まさかず)
1984年10月11日生。フリーライター、グラップラー。各テクノロジーメディア、経済メディア等で多数執筆。
Twitter:@tech_sawada

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