何故、“天変地異”は起きたのか? 『サイバーパンク2077』を巡る混乱と疑念

『サイバーパンク2077』を巡る混乱と疑念

果たしてCD Projekt Redの内部は上手くいっているのか?

 発表に間に合わせるために長時間労働に至ってしまうというケース自体、業界を問わない大きな問題だ。しかし、問題はほかにもある。Adam Badowski氏は、Bloombergの報道を受けて、自身のtwitterアカウントで反応を返しており、「チームの大半はこの決断を支援してくれた」と示すなど、このメールが決してネガティブなものではないことを主張している。

 だが、Jason Schreier氏はこのツイートに対し「実際に従業員に尋ねてみたところ、延期よりも週6日勤務を支持するといった会話は行われていないようだ」と自身のtwitterアカウントで反論を行っている。更にこの意見に呼応するように、オンラインサービスのredditに開発者を名乗る人物が現れ、現場の実情を告発したのである(参考:https://www.reddit.com/r/Games/comments/j87tuk/jason_schreier_i_asked_a_couple_of_cdpr_devs_if/g8bxk68/)。Forbesの記事によると、Jason氏もこの投稿者が本物の開発者であることを認めている(参考:https://www.forbes.com/sites/paultassi/2020/10/14/cdpr-developer-says-they-found-out-about-cyberpunk-2077-delays-from-twitter-first/?sh=55412bc566da)。

 投稿には、2019年6月時点で(部署によってはその一年以上前から)クランチは始まっており、1日16時間勤務+週末の出勤を続けていること、それについて「情熱」や「ゲーム業界への反逆」といったスローガンのみで励まされ続けていること、『ウィッチャー3』の過酷なクランチを乗り越えた人々がチームを引っ張っているためにこの問題を気にも留めていないこと、そして一刻も早く発売したいのは取締役会とマーケティングディレクターであって彼らはワークバランスなど気にもしていないこと……などなど、うした告発が事実ならば、あらゆる意味で上層部が公式に語る内容と現場の状況に食い違いがあるように感じられる告発が続く。特に、3度の発売延期のアナウンスとゴールドマスター承認について、会社のtwitterアカウントが投稿するまで現場がその事を知らなかったという部分からは、明らかにチーム全体のコミュニケーションが正常に機能していないことが分かる。

 行き当たりばったりのように思える度重なる延期、そして「マスターアップ後の発売延期」という前代未聞の判断という流れの根底にあるのは、実はこのようなチーム全体のコミュニケーション不足や、規模や作風が異なるにも関わらず前作の成功体験に依存してしまっている開発方針にあるのではないだろうか。

 筆者個人としては、クランチ問題を背景にゲームを批判する、あるいはボイコットするというのは、それを乗り越えた開発者にとって果たして望ましいことなのだろうか?という疑問を感じてしまうため、「作品への評価と会社への評価は別」として考えたいと思っており、本作を楽しみに待つ気持ちは本稿を書いている今も全く変わっていない。どこか割り切れない気持ちがあるのも正直なところではあるし、ゲーム自体が果たして大丈夫なのだろうか……という不安も日を追うごとに増している。できれば、前述の告発が偽物によるものであってほしいという気持ちも正直なところだ。ただ、少なくとも、この投稿に対してのAdam Badowski氏の反応は、今はまだ確認できていない。

 とはいえ、今最も大変なのは間違いなく現場である。今はただ、CD Projekt Redが無事に『サイバーパンク2077』を完成させ、本当の発売日を迎える日が来ること、そして今後のDLCやマルチプレイヤーコンテンツの開発において、今度こそ彼らがクランチ問題に本腰を入れて取り組むことを願っている。

■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
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Twitter : @neu_mura

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