5人の識者が語るARGの進化史と、ポスト真実の時代における“ゲームと物語のあり方”

5人の識者が語るARGの進化史

チャットと予測可能性

城島:「みんなで盛り上がる」という話題が出たところで、是非皆さんに教えてほしいことがあるんです。とあるZoom演劇を、信頼する知り合いに勧められて観たんです。「すごく面白かった」と。でも私が観た感想は「最低」だったんですよね。何でこのギャップが生まれたんだろうと思って知り合いと話してみたら、チャット欄も含めて楽しむものだと言われまして。つまりこれって、ニコ動の弾幕を見ながら観劇する感じ……という理解でいいんでしょうか?

えぴ:観客と一緒に盛り上がるというのは、ネットの動画コンテンツとしてはニコ動が先鞭をつけたと言って間違いないと思います。ここで重要なのは、「動画をネタとして楽しんでいる」ということですね。それまでは動画そのものがメインコンテンツだったわけですが、ニコ動で「ユーザーが盛り上がるためのネタを動画が提供」というパターンが生まれました。

竹内:自分は三宅さんたちと不定期で集まってアニメを観る会というのをやっているのですが、世間的には駄作と呼ばれるタイトルも観たりします。映像を独りで見てるだけだと純粋に苦行な駄作でも、みんなで観るととても楽しい、というケースがあるからなんですね。ニコ動のコメントや実況スレ、TwitterのTLを観たり書き込んだりしながら、ツッコミを入れたり面白がったりする体験とセットで面白い映像作品というのは確かに存在します。おそらくこれはニコ動ができてから普及したのだと思いますが、そういう視聴形態のためのジャンルを、作り手が意識的に作っているかどうかは謎ですね。ただ、中には明らかに突っ込み待ちなシーンだけで構成された作品もあります。当然ですが、単体で見ると非常につまらないです(苦笑)

石川:チャットも込みで盛り上がるWeb演劇というのは、現段階ではまだ偶然の産物な可能性もあると思います。ただ、いずれチャット前提の演劇は出てくるでしょうね。自分はSCRAPの『のぞきみZOOM』のテストプレイにも参加しているのですが、テストプレイの段階では正直、不安が勝るものでした。オリジナルの『のぞきみカフェ』と、体験がかなり違っていたんです。

 でも、本番で雰囲気が変わりました。チャット欄が原因です。チャットで情報交換したり、突っ込みをいれたり、励ましたりと、「これは『のぞきみカフェ』とは全然違う体験なのだ」「ストーリーは似ているが、体験は違うものなのだ」ということが、自然と理解できたんですね。このように、チャット欄の盛り上がりも体験となる、というのは確実にあると思っています。

三宅:完成されたコンテンツって、完全な視聴者を要求する傾向があります。でもスキのあるコンテンツは、スキを突かれることで成立するところがあるんですよね。アニメの場合は、スキがあるからこそ参加できるところがあります。

城島:確かに、役者が噛んだりするトラブルは、チャットが盛り上がりますね。

竹内:あと一部のドラマや漫画って、Web上で公開されると、TwitterのTLに尖った感想が怒濤のように流れるんですよ。そうやって視聴者や読者はハッシュタグでつながりながら、「みんなでワイワイする」体験を共有するわけです。

城島:感情の吐露と、共感のレスポンスがあるわけですね。

石川:逆にチャットなどでみんなの感情が一方向に向いているのに、自分の感情はそちらに向かわないときはどうするか、という点が気になります。ある参加型イベントでチャット欄が盛り上がってるんだけど、こっちは「そういう気持ちにはなれない」ときがあって、辛かったんですよね。従来型の一対一や小グループのコンテンツなら、自分の気持ちは自分だけがしっかり持っておけます。でもチャット欄は自分の気持ちに対する暴力装置になってしまう瞬間があります。

城島:匿名性の高さは言葉を駄目にしますよね。すごく人を傷つけやすい言葉が出てきてしまう。

竹内:同調圧力も出てきますね。

石川:多様な気持ちを拾えるチャット欄ができてくると、素晴らしいだろうと思います。全体的な盛り上がりがちゃんとありつつ、それぞれの気持ちが大切にされるような。どうやったら実装できるのか、すぐには思いつかないですが(苦笑)

城島:チャットで人々がどう語るかは、事前に計画できないですしね。これくらいの人が集まったら、どうなるのか? こういう発言があったらどうなるのか? これは人力で予測するのは無理ですし。ああでも、チャットの予測をしてくれるAIとかあったら、リアルイベントは変わるかもですね。

三宅:でもリアルイベントは「予測できない」ところが魅力かもしれません。PCゲームは完全調和で、予測できない=設計ミスです。でも、例えば音楽であれば、完全にスコアがある状態から、ワイルドなものを入れる方向にシフトしてきました。そういった偶発的なものがエンタメに入ってくるのが現代的であり、またその生々しさがエンタメ開発者を惹きつけるという側面もあります。

 例えば『Ingress』でポータルを取ろうとしたら、嵐で外出できなくて無理だった。でもそれでもポータルを獲った緑プレイヤーがいて、それが緑チームの勝因となった……という経緯が、ブログとして書かれ、物語になっていく。こういった偶発性からの物語発生には、生々しいものを取り入れるのは難しいからこその躍動感があります。

えぴ:ARGでも後世に話が残るのは、そういうリアルトラブルがらみのものだったりするんですよね。『I Love Bees』という、GPS座標と公衆電話を紐付けるARGがあったんですが、ハリケーンがそのタイミングで来てしまって……みたいな逸話があります。でもハリケーンの中、実際にそこに突撃したプレイヤーがいて、その数時間後にハリケーンで電話ボックスが倒壊した、と。そういう「プレイヤーがリアルに汗をかいた」というエピソードは、物語に組み込まれやすいですね。ちなみに、その電話を担当したパペットマスター(=ARG運営者)が、キャラクターを崩して「ハリケーンが来ているんだ、電話を置け!」と警告したという話も伝わっています。

石川:そういう体験もゲームの内側に入ってくるのは強みですよね。それこそ「予約を取ってお金も払ったけれど、現地に行くと名前の登録が間違っていて、何だか謎の名前で参加することになった」みたいな体験すら、ゲームの内側に入ってきますから。

えぴ:その分、運用にはノウハウが必要になるんですよね。PCゲームは予測可能性が高いですが、リアル脱出ゲームだと予測可能性は少し下がり、体験型イベントはそこからどんどん予見可能性が下がっていく。

竹内:ARGはデバッグ、つまり事前に本番と完全に同じ環境でのシミュレーションができないんですよね。だから不測の事態に対する備えが必要になります。

三宅:ARGをより安全に運用するためであれば、AIの予測が絡んでいく可能性は考えられると思いますし、そういう拡張は成されると思いますよ。スマホがない時代のARGが現代のARGとは違うように、AIが高度に発達したあとのARGはまた変わるはずです。

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