ディスタンスパンクが生み出す空間移動のノスタルジー:宮本道人氏×松永伸司氏インタビュー(後編)

宮本道人氏×松永伸司氏インタビュー(後編)

ポストディスタンス・カルチャー

宮本:小説や漫画の作者にとって、コロナ禍の状況で読者の感覚が変化していく中、未来の日常を描くのは大変です。たとえば、50年後の未来を描いた作品の場合、このディスタンス時代を登場人物がどう経験したかによって世界観が変わってくることがあるわけです。もしかしたら1年後には状況が大きく変化しているかもしれませんし。 

松永:現実の大災害によって未来像も当然変化しますし、フィクションにおける想像の方向性もメディアを問わず影響を受けるでしょうね。

 人々が遠隔コミュニケーションをベースにして生活している現状って、ドラクエでたとえるなら移動呪文のルーラを最初から消費MPゼロで使いまくれるような状況だと思うんですね。これまでは対面コミュニケーションがまず前提としてあって、遠隔はせいぜいその補助や拡張だったわけですが、その関係がはっきりしなくなっているということです。

 もっと進んでこの関係が逆転する世界観も考えられるかもしれない。つまり、最初は非連続のあらゆる場所を自由にワープできる状態から始まるんだけど、それがだんだんと不可能になっていくことで連続的で不便な「リアル」の空間が発見される。「マトリックス」にちょっと近いかもしれませんが、そういう発想のゲームなどもこの先自然と登場するんじゃないでしょうか。

 オープンワールド系のゲームに関してファストトラベル(※1)の是非をめぐってたまに議論が起きますが、これはいまクリティカルな話かなと思います。現実って本来ファストトラベルができなかったはずですが、それがファストトラベルしかないような状況になっているわけです。結果として、不便だったころの空間移動へのノスタルジーみたいな価値観が今後出てくるかもしれませんね。

※1:プレイヤーが過去に訪れたことのある2つの地点間を瞬間移動すること。オープンワールドをふくむ多くのビデオゲーム作品で用いられる

宮本:『DEATH STRANDING』(2019年、コジマプロダクション)はコロナ禍以前の作品ですが、そういう価値観でゲームにおける「おつかい」の概念をひっくり返した作品でしたね。ゲームにおける空間移動って、それぞれのイベントの間をつないでくれるという以上の意味を持つ、重要な要素だと思います。ちなみにコロナ禍になって我が家で一番の変化は、ふだんゲームをやらない親と一緒にゲームをやるようになったことでした。特にアクションゲームの『アンチャーテッド』シリーズ(2007年〜、ソニー・インタラクティブエンタテインメント)をやったときは、外出しにくい状況下でも旅行している気分になれる貴重な楽しみだといって気に入ってくれました。空間を感じられるのは大事ですよね。 

松永:ゲームにおけるナビゲーションって、行き先となる地名や会話の対称をリストから選んで実行するコマンド形式でもいいはずなんですよね。しかし、歴史的に見ると、実際にキャラクターを動かして空間を練り歩くという移動のあり方が、ビデオゲームのひとつの楽しみとして押し出されてきた面があると思います。

 人間には空間移動そのものへの欲求があるのかもしれません。ゲームの中で旅行している気分になれるのは、移動することで景色が変わっていくという点でゲームのプレイと旅行が似ているからだと思います。コロナ禍でできなくなったことはいろいろあるわけですが、その需要に対する供給としてビデオゲームのあり方がマッチしているんでしょうね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる