『Apex Legends』は予定調和を打ち砕くーーストーリーテリングとシステムに宿る“奥深さ”を考える

Apex Legendsと二次創作(後編)

 さらに、シーズン5で初めて、全てのレジェンドが登場人物となるストーリーが描かれることになる。それが通常のバトルロイヤルゲームとは異なるPvE(プレイヤー対NPC)コンテンツとして展開された、「シーズンクエスト:壊されし亡霊」だ。1週間ごとに新たなエピソードが公開されるこのモードは、エピソードごとにPvEコンテンツ+数ページに及ぶテキストコンテンツで構成されており、特にテキストコンテンツはレジェンド同士の会話劇を軸に物語が進行するという内容となっていた。それぞれのレジェンドのバックグラウンドや、レジェンド同士の関係性を踏まえた上で繰り広げられるこの物語は、これまでのレジェンド毎に描かれてきた物語を振り返ると、(小規模ではあるものの)マーベル・シネマティック・ユニバース的な試みと言えるだろう。会話においても「このレジェンドとこのレジェンドがこんなやり取りを......!」という場面のオンパレードとなっており、各レジェンドがこれまで見せてこなかったような一面を見せる機会も非常に多く、『Apex Legends』が描く世界をさらに奥深いものにすることに成功している。

 毎週更新され、何度も予想を裏切るスリリングな展開に満ちたストーリーの内容は、ファンアートをさらに盛大に盛り上がる絶好の機会にもなっていた。そして、この物語のクライマックス自体が衝撃的かつシーズン6への大きな布石となっており、さらに同じ開発元が制作し、世界観自体も共有するものとなっている『タイタンフォール2』と密接に関わる内容であったことから、プレイヤーの間では既にシーズン6以降で何が起きるのかについての議論が絶えない。

 本来、オンラインゲームにおける「シーズン」とは数ヶ月に一度のペースで行われる大規模なアップデート、あるいはプレイヤー全員のランク帯をリセットするなど、ゲームプレイの区切りを意味する言葉でしかなかった。しかし、『Apex Legends』はシーズン毎に一つの物語を描き、さらにそこにサプライズを仕掛けることによって、まるで海外ドラマのように「物語の区切り」としてシーズンを捉える事に成功したのである。

 さらに、これまで断片を大量に散りばめることで構築してきた世界観と各レジェンドの物語をクロスオーバーさせてゲームプレイに反映させることで、一人ひとりのレジェンドにより深く感情移入できるようになり、『Apex Legends』が描く世界をより一層魅力的で奥深いものへと変化させていったのだ。勿論、このような要素を「不要」と切り捨てるプレイヤーがいても不思議ではない。このゲームはあくまでバトルロイヤル系FPSなのだから。

 ただ、筆者としては、シーズン5を通してより一層この『Apex Legends』というゲームを、一人ひとりのレジェンドを好きになることができたし、チート対策やゲームのアップデートだけですら大変であるにも関わらず、『タイタンフォール2』でストーリーテリングの重要性を提示したRespawn Entertainmentが再び大きな物語を描こうとしている、その野心を支持したいと思う。

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