金子ノブアキ&草間敬と考える、“ロックバンドと電子音の共存”に必要なもの

金子ノブアキ&草間敬対談

「輪郭づけさえできていれば、デバイスがiPhoneになっても全然大丈夫」

ーーちなみに、ハード・ソフト面でずっと使ってる“相棒”のようなものはありますか?

金子:ソフトシンセの『Nexus』(reFX)ですね。最近『Nexus 3』になって、ますます使いやすくなりました。特にアルペジエーター(単音から分散和音=アルペジオを作ってくれる機能)がえげつない進化をしていて。

草間:自動でできちゃうツールなので、否定的な人も結構いるけど、最高のアレンジツールだと思いますよ。

金子:特にAbleton Liveで少し前に導入され始めたAudio To MIDIと組み合わせて、プリセットで入ってるものをオーディオにして、またMIDIにしてと繰り返していくだけでも、わけがわからないフレーズになったりして面白いんです。そうやって偶発的に生まれたフレーズをポンと放り込んで曲にするときもあれば、リバースやカットすることもあります。いろんな食材を鍋に放り込んで、強火で溶けるまで煮込むみたいな感じというか(笑)。

ーーそれが結果予想してなかった味になってたりもして。

金子:そうそう、「思ってたより美味いじゃん!」みたいな。7割くらいは食えないくらいマズかったりするんですけど(笑)。

草間:あっくんが僕の周りで一番Audio To MIDIを使いこなしてるかも(笑)。

金子:ひたすらピンポンツールとして作り込んでるだけなんですけどね。ただ、最終的に一番下のところだけ取っておいて、上を全部捨てたりとか、部分で採用することもあったりして。そうすると絶対に人間が思いつかないキックのフレーズが出てきたりすることもあるんです。あとはトータルコンプやリミッター系も、アホみたいに突っ込んだ音になるものをあえて使ったりしています。普通はそのまま使うようなものじゃないんですけど、シンセ系にだけガッツリ掛けて、あとから小さい音で聴きながら、薄めたりリミッターを外したりして調整するんです。マイナス20dB近辺は、音量を下げてオンオフしながら弄らないと、最終的に小さいなと思うので。

ーー草間さんも過去にTwitter(https://togetter.com/li/1060970)でそのお話をしていましたね。

草間:ロック系というより、マスタリング前半で全般的にそれは言ってますね。小さい音でやる理由をもう少し解説すると、1つは耳が疲れるから。もう一つは大きくするとラウドネス曲線が働いて、低域と高域がよく聴こえるようになっちゃうんですよ。だけどそれだと普通の音量で聴いたときに、全体の音がしょぼくなっちゃうんです。特にいまはローとハイの充実度が大事とされているので、音量を小さくして調整しているんです。

ーー先述のTwitterでの発言が、2016年末でしたが、2020年段階でその定義はさらに変わってきている気がします。

草間:ラウドネスノーマライゼーションなどがありますよね。RED ORCAに関しては、当初配信だけのリリースということもあって、YouTubeでどのぐらい下がるんだろうみたいなことも考えながらやったんですけど、結果的に色々わかったのは、突っ込んだ状態でも奥行きの感じられるものをちゃんと作っていれば、マイナス6~8db削られてもカッコいい音になるんだなと思いました。

ーー元のバランス感がちゃんと調整できていれば、各プラットフォーム側で削られても問題ないと。

金子:くっきり出すところを出すみたいな輪郭づけさえできていれば、視聴デバイスがiPhoneの本体スピーカーになっても全然大丈夫。そういう時代でビリー・アイリッシュが流行ったのはすごく興味深いですけど、それに関しては1980年代から1990年代の転換に似ていると思う。体感でいうと、オンビートからオフビート主体に切り替わっていく感じというか。当時はメタルがバーっと流行って。その後グランジやオルタナティヴ、ブリストル・サウンドたちが生まれて……。そういう意味では90年代がヴィンテージとしてカウンターカルチャーに入ってくる年代になったんだと思って。

ーーそのカウンターの応酬で言うと、2020年代はミクスチャー・ロック的なサウンドにもう一度焦点が当たるのかも、という見方もできますよね。

金子:そう。1990年代後半から2000年代前半にかけて、ガレージ・ロックのリバイバルで1970年代の楽器が流行ったり、2010年代に1980年代っぽいタッチがすごくいい響きになって、2020年代はヴィンテージ入りした1990年代のものがトレンドになってくる。そうなってくると、ミクスチャーマナーを織り込んだ音楽と合体できるんじゃないだろうかと思います。

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