agehasprings横山裕章に訊く“立体的な音楽”の作り方「景色を思い浮かべて、機材や音色を選ぶ」

横山裕章に訊く“立体的な音楽”

 音楽プロデューサーの玉井健二が代表を務め、蔦谷好位置、田中ユウスケ、田中隼人、百田留衣、飛内将大、釣俊輔など、今や日本を代表するヒットメーカーが多数在籍し、近年ではライブプロデュースやレーベル設立、AI開発など、音楽業界の未来を見据えるクリエイティブカンパニー・agehasprings。彼らの考えていることを、直近のプロジェクトや使用している機材などを通じて紐解いていく連載『Producer's Tool』の第4回目には、音楽プロデューサーの横山裕章が登場。

 YUKI、JUJU、MISIA、星野源、木村カエラ、ビッケブランカ、須田景凪など様々なアーティストへの楽曲提供・アレンジ、サウンドプロデュースを手掛けるほか、Aimer、たむらぱん、DEAN FUJIOKA、吉澤嘉代子のライブにキーボードとして参加している彼のスタジオに潜入し、その作曲・編曲スタイルや、直前に収録が行われた『agehasprings Open Lab. Inside The Studio vol.1』などについて、じっくりと話を聞いた。(編集部/機材写真=中村拓海)

「海外の街の音を録って、ディレイやリバーブをかけたり……」

ーー横山さんは、YUKI、JUJU、MISIA、星野源、木村カエラと大物アーティストを手掛けていますが、ましのみ、杏沙子、ビッケブランカのように気鋭の若手アーティストのサウンドにも関わっていますよね。サウンドのイメージとしては、映画音楽のように、空間を感じさせる曲を作る人だな、という印象です。

横山裕章(以下、横山):歌モノに関わる時は、歌詞を軸にアレンジを決めることが多いので、“映画っぽいサウンド”に通じるものがあるのかもしれません。歌詞を読んで、その景色を浮かべて機材や音色を選ぶんですよ。

ーーそうやって音で世界観を作る上で、横山さんの中で欠かせない機材やソフトは?

横山:基本的には『Logic Pro』を使っているんですが、ソフトシンセだけじゃなく、ハードシンセを多用しているのも特徴かもしれません。1960〜1980年代のヴィンテージシンセを使って、音像を立体的に見せているというか。

横山の自宅スタジオ

ーーたしかに、近代的な音と温かみのあるヴィンテージの音が立体的かつハイブリッドになっている感じがあります。アナログシンセで特にお気に入りのものは?

横山:『Prophet-5』(Sequential Circuits)や『JUNO-106』『JUNO-60』(共にRoland)のサウンドは特にお気に入りですね。あとは『Minimoog』(Moog)『MS-20』(KORG)の質感も好きなので使っています。

『Minimoog』(Moog)
『MS-20』(KORG)

ーー名器揃いですね。飛び道具的なものはありますか?

横山:最近はモジュラーシンセを使った音作りもしているので、ノイズやアンビエントのような、音の景色作りとしても活躍することが多いですね。あと、フィールドレコーディングした素材も最近よく使っていて。生活音や楽器、人の声を録って使っています。海外の街の雑音や話し声を録って、それを編集したり、ディレイやリバーブをかけるだけで、雰囲気が出ることもあるので、そういうことも最近取り入れてます。

ーーフィールドレコーディングをする上で、気をつけていることはありますか?

横山:機材的にはEDIROLのレコーダーに、バイノーラルマイクをつけて録っています。これをつけるとすごく臨場感があるので、パンニングの感じが面白くなったり、オートメーションでは描けないような無造作な動きも録れて楽しいんです。素材を録るコツとしては、リズムを刻んでいるものーー例えば工事現場や人の声を意識して録っていたりしますね。

EDIROLのレコーダー(左)とバイノーラルマイク(右)

ーー頭にアクセントが強い言語なのか、後ろにアクセントが強い言語なのかでも聴こえ方は全然違いますし。

横山:街の雑踏ひとつにしても、東南アジアとかの市場とかって、聴いてるだけで音楽みたいな鳴りをしていて。上手く使うとより楽曲にストーリー性が足されると思います。録音は基本的に仕事の延長線上でしています。コンテンポラリーダンスの音楽監督をしているのですが、その時にマニプールというインドの最北端・最東部の村や、インドネシアの西カリマンタン州の集落のような、観光ではあんまり行かないようなところに行かせて頂きました。

左はボルネオ島の伝統楽器「サペ」 1本の弦だけでメロディを奏で他の弦はドローン的な音を出す。
 右はマニプールの伝統楽器「ペナ」 鈴のついた弓でリズムを刻みながら1本の弦を擦って音を出す。二胡のような音色。

ーー横山さんは海外にも遠征しながら、ライブに鍵盤奏者として帯同することも多いですよね。その場合はモバイルセットでの制作になるのでしょうか?

横山:はい。家の制作PCはMacBook Proなんですが、ハードディスクと一緒に持ち運べるようにしているんです。なので、ホテルに機材と『microKEY』(KORG)のような小さいMIDI鍵盤とモニター環境を持ち込んで、常に作業できるような環境を作っています。

横山のスタジオ制作セット。上が『KOMPLETE KONTROL S61』(Native Instruments)、下が『VPC1』(KAWAI)。

ーーモニターはスタジオとモバイルセットで、どのように使い分けていますか?

横山:共通しているのは、イヤモニとヘッドフォンですね。ヘッドフォンは『AH-D5000』(DENON)で、イヤモニは『CW-L77』(canal works)に音響メーカー・KRYNAの延長ケーブルを使っていて、解像度が良くなるようにカスタマイズしています。KRYNAが個人的にすごく気に入っていて、最近はスピーカー周りの機材も同じメーカーで統一しています。スタジオではモニタースピーカーの後ろにKRYNAの拡散材と吸音材を設置していて、電源もKRYNAのものを使ったりと、音像が立体的に画角が広く見えるようなシステムを作り上げています。

ーーモニタースピーカーは何を使っているんですか?

横山:モニタースピーカーは『Solo6 Be』(FOCAL)です。

『Solo6 Be』(FOCAL)

ーーモニター環境って、ある程度フラットに聴こえなきゃいけないわけなので、気持ち良すぎるといけないんですよね。

横山:そこは気持ち良さとフラットさがちょうど良くなるよう、KRYNAの方に拡散材と吸音材を設置してもらうときに、アナライザーで測定してもらいながら、バランス感を自分の好みに整えてもらいました。

『Solo6 Be』(FOCAL)の上に設置されているのが、KRYNA製の吸音材と拡散材。

ーー横山さんの曲を聴いていると、ストリーミングで聴いていても立体感を感じることが多くて。そういった変化する視聴環境を踏まえて、制作段階で工夫していることはありますか?

横山:元々立体的な音像が好きだからというのもあるかもしれないですし、楽器や歌の配置やリバーブの質感も、結局モニター環境の良し悪しでだいぶ変わってくるので、良い環境で聞いたうえで、細かくエンジニアさんにお願いすることが多いです。特にここ1、2年でその意識は変わったかもしれません。

ーー環境をここ数年でガラッと変えた、ということですか。

横山:そうです。今のスタジオに引っ越してから大幅にシステムを変えたので、そこからさらに細部の音にまで気を使えるようになったと思います。

ーーでは、このスタジオに引っ越してくるにあたって、どのような部分に気をつけたのでしょうか。

横山:吸音しすぎないように、小分けにできるKRYNAの拡散材と吸音材を細かく必要な場所にだけ使うことで、かなり聞こえ方が変わりました。壁ごとに設置してみて、違和感があったら取り外して、というのを簡単にできるので、すごく調整しやすいです。いまは自分の部屋で聴いた環境と、スタジオで作った環境と、ストリーミングで聴いた環境の差があんまりないように作れていると思いますし、これからもアップデートしていきたいですね。

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