話題の『名探偵コナン』オープニングはどのように作られた? トムスが取り組む3DCGとToon Boom Harmonyの事例

話題の『名探偵コナン』OPはどう作られた?

トムス・エンタテインメントが導入したToon Boom Harmony 今後の活用方法

【公式】20年ぶりに復活!コナン君が新OP踊ってみた「真っ赤なLip」/WANDS│TVアニメ『名探偵コナン』OPテーマ(2020)

 事例が紹介されたのはコナンのオープニングだけだが、Harmonyの活用においては、これ以外にもプロジェクトが3つ動いているようだ。

 片塰は「今回Harmonyが活躍してくれたのは髪の毛のハイライト。マッピング(3DCGモデルに描いたものを貼り付ける)も併用してるが、前髪の上に山形のハイライトと後頭部の稲妻形のハイライトを加筆した」と答えた。

 次のプロジェクトでは「キャラ表の段階からHarmonyで描いてもらっている」とのことで、「Adobe Photoshop、Procreate(iPad用の描画アプリ)、(セルシスの)CLIP STUDIO PAINTを使う人も多いだろうが、僕らは最初からHarmonyでいいかな」と、全面的な活用に踏み切った。

 作画においても片塰は「従来の紙の手描き作画のワークフローをデジタルに置き換えるのではなく、デジタル作画向けの新しいワークフローを考える。関わる人の役割は変わらないけど、関わる順番を変える、手の入れ方の順番を考えたほうがいいんじゃないか」と提案した。

 また「キャラデザの段階で、ラフに色彩設計を始めたりとか、色指定の方法を探ったり、といった各工程へのデータの渡し方を試したりできる。あと3DCGのルックデブもHarmonyの描画機能と比較しながら進めたい。。グラデーションの塗りや線の抑揚の表現とかをすり合わせる必要があるが、ルックの開発はHarmonyで描いたデザインに合わせたほうが、3DCGとのマッチングがしやすいかも」と思案していた。

左からToon Boomマーケティングマネージャーの遠山怜欧、ディレクター・オブ・フォトグラフィー(造形監督)の片塰満則、映画監督の瀬下寛之、トムス・エンタテインメント(TMS)プロデューサーの安榮卓也

 瀬下も片塰による新しい工程に関する話に応じ、「僕らがやっているNPR(ノンフォトリアル)と呼ばれる(アニメ業界ではセルルック)3DCGは、Harmonyでプリビズ(ビデオコンテ)に加筆したり、レイアウト(画面構成)やアニメーション(動きの確認)の映像にペイントオーバーしたり、といった具合に、各工程ごとにブラッシュアップが可能になる」と言及。制作工程の都合で発生しがちなコスト面の解決を挙げた。

 今回行なったのはコンポジット(アニメ業界でいうところの撮影)に持ち込む直前のデータに加筆を行ったという。これに関して瀬下は「絵を修正するという考え方だけだと、3DCGが持っている産業的なメリットがなくなる傾向にある。僕自身はアセット(転用を想定した素材データ。アニメ業界でいうところのバンクに近い)をゲームなどへも水平展開させたいという思いでやっているので、データの状態をベクター(解像度フリーで拡大縮小しても絵が荒れない)で揃えたいというのが基盤。ベクターを使うことで僕が30年やってきた3DCGの情報の扱い方を2Dのロジックに乗せることができる」と期待を寄せた。

 安榮はプロデューサーとしての視点から、同じToon Boomの進捗管理ソフト・Producerとコンテ制作ソフト・StoryBoard Proとの連携について述べた。従来だと「各制作さんが個別で進捗を管理し、連絡をし、各セクションのスタッフに連絡する必要があったが、Producerを使用することで共有でき、外回りなどの物理的な負担もなくすことができる」とメリットを挙げた。

 そして「StoryBoard Proでコンテを管理して、そこからHarmonyという形で連携ができる。3DCGベースからの2Dアプローチという形でやっていけば総デジタル化で作業でき、クリエイティブ面の底上げに一役買ってくれるのではないか」と展望した。

左からToon Boomテクニカルソフトウェアスペシャリストのハリー・ラベロマナンソア、Toon Boom マーケティングマネージャーの遠山怜欧

 一方、この『ACTF2020』においてToon Boomは「デジタル作画とカットアウトを使い分ける北米スタジオのワークフロー」と題したセミナーも実施していた。

 カットアウトとは切り絵のことであるが、日本では作品の視聴だけでなく制作にまで興味があったとしても、意外と知る人は多くない。とはいえ一部のスマホゲームやバーチャルYouTuberなどで、日常的にキャラクターの動きを目にしているのあれば、馴染みのある表現であるのが分かるだろう。

 そもそもアナログでの制作は描いた絵を撮影してつなげているため、全てコマ撮りであった。コマ撮りと聞くと、人形などを素材として動かす立体の作品を思い浮かべるだろうが、カットアウトは切り絵を素材として動かす平面の作品になる。

 当然セルも素材であり、何枚か重ねたものを撮影してつないでいた。そのため平面のコマ撮り作品であるはずだが、デジタル化していった過程の中で忘れられているかのようだ。その間カットアウトはどうだったのかというと“Flashのような動き”と形容されてしまうことが多かったため、知る機会を失っていたとも言える。

 デジタルでは、例えば作中で同じカメラアングルが複数ある場合、その都度そこに見合う絵が置かれたレイヤーの重ね順を変えて対応している。カットアウトも用いるなら、キャラクターの絵から切り分けておいたパーツの中から見合うものを置き換えるという作業も加わる。要するに頭や顔のパーツでやっていることを、全身にも応用してみるという話だ。

 少なくともこの20年は、作画か3DCGか、もしくはそのハイブリッドかという話題がメインであった。だがその外側で、カットアウトとのハイブリッドが進んできた事例や、カットアウトにも3DCGの技術が応用されている事例も知っておきたい。そうした経緯を踏まえてセミナーを聴講していたら、より理解を深められただろう。

■真狩祐志
東京国際アニメフェア2010シンポジウム「個人発アニメーションの15年史/相互越境による新たな視点」(企画)、「平成30年史 激変!アニメーション環境」(著述)など。

■作品情報
『名探偵コナン 緋色の弾丸』
(C)2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
4月17日(金)公開
『名探偵コナン』公式HP
トムス・エンタテインメント
Toon Boom
アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2020

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