DATSやyahyelなどのドラマー・大井一彌が語る、“出来ないことを捨てて得意なことを極める”重要性

大井一彌が語る、“得意なことを極める”重要性

「日本人が絶対に越えられない壁がある」

ーー「足るを知る」というか。

大井:僕、実は鼓とかもやってたんです。大倉正之助さんに習って能舞台に上がったこともあるんですけど……。

ーーそんな経歴が(笑)?

大井:そうなんです。その時に、西洋のドラムセットとは全く違う拍子や、拍の取り方があることを学びました。たとえば多くの黒人のドラマーが持っている“しなやかさ”や“強さ”って、日本人が近づこうとしても絶対に越えられない壁があると思うんですね。真正面から正攻法でアプローチするのではなく、何か別の角度からのアプローチをしていかないと、少なくとも僕自身は彼らを超えることは絶対に不可能というか。

 中にはプロテインを飲んで、ウェイトを増やしてパワフルなドラミングを目指す人とかいるし、それはそれですごいことだとは思います。でも、たとえば白人がソウルをやると「ブルー・アイド・ソウル」と呼ばれるように、違う人種の音楽をどう日本人である自分の中にコンバートしていくか? ということこそが大事というか。そういうやり方でしか戦えないんだなって強く感じるんですよね。

「ずっとYouTubeが師匠だった」

ーーよくわかります。膨大にインプットしたものを混ぜ合わせて、新しい文脈を作っていくというか。

大井:そうですね。ただそれって一歩間違えればすごくダサいし、「どう混ぜ合わせるか?」が問われる気がします。僕は音大に行くまで、ずっとYouTubeが師匠だったんですけど(笑)、今は誰でもすぐ(演奏が)上手くなれちゃうと思うんですよ。大抵の音楽はネットで聴けるし、演奏テクニックも動画で学べるし。ただ「自分がどうなりたいか?」がわかってないと、単に“なんでも弾ける人”だけになってしまうというか。やっぱり、周りを徹底的に観察して、その中で自分はどういう差異があって、どういう位置付けなのかっていうのを見極めることが大事なのかなって思います。

「生ドラムを叩くだけでは成り立たないサウンド」

ーー大井さんのドラムセッティングについても聞きたいのですが、今のように電子楽器をセットに導入するようになったのはどんなきっかけだったのでしょうか。

大井:たとえばThe Chemical BrothersやMassive Attack、あとはTHE ROOTSのようなヒップホップ系のバンドもそうですけど、自分が好きで聴いていた音楽が、単に生ドラムを叩くだけでは成り立たないサウンドであることに気づいて。

 もともとはSouliveの『Next』(2002年)というアルバムを聴いた時に、「これ、ドラム以外の音もリズムに入っているな?」と思ったのがきっかけです。彼らの場合、スネアにクラップのサンプルがレイヤーされていたんですけど、そういうのを知るうちにハイブリットドラムに俄然興味を持つようになりました。まだ音大に入る前でしたけどね。

「ロストテクノロジーを再発見したような気分」

ーードラムを叩くようになって、わりとすぐハイブリッドに目覚めたんですね。

大井:“生ドラムにエレクトロ楽器を組み込んで鳴らす”というプレイスタイルを紐解いていくと、めっちゃ昔からそういうものがあることに気づいたんです。1970年代後期くらいから存在しているんですよね。高橋幸宏さんやビル・ブルーフォードさん(Yes、King Crimson、 Genesis)が、生ドラムにシモンズのエレドラを組み込んだりしていて。だから、僕自身、何か目新しいことをやっているというよりは、ロストテクノロジーを再発見したような気分というか(笑)。ドラムキットをトリガーにして何か別の音を鳴らすという仕組み自体、当時とそんなに変わっていないですしね。

ーーちなみにジェイムス・ブレイクの影響というのは、大井さん自身はどのくらい感じていますか? というのも、彼らのライブを観てドラムの低音感や、質感みたいなものに目覚めたというアーティストが最近とても多い気がするんです。中には「ジェイムス・ブレイク以前/以降」といってもいいくらい変わったと明言するアーティストもいました。

大井:あー(笑)。もちろんyahyelの初期とかモロに影響を受けた作品だと思うし、僕自身もジェイムス・ブレイクやXXYYXXのようなチルウェイブやダブステップの変遷は聴いています。ジェイムス・ブレイクは『フジロック』(『FUJI ROCK FESTIVAL』)で観たのかな。その時にドラムセットをチェックしてみたら、僕のセッティングとかなり似ていたんですよ。そこでやっと「俺がやってきたこと、間違ってなかった」という、ある種の答え合わせが出来たような感覚はありましたね。

ーーどんなところが似ていたんですか?

大井:たとえば、全部をエレドラにするんじゃなくて、金物は生の方が気持ちいいぞ、とか。キックは生にトリガーを足すのが良さそうだ、とか。そういうことを一つずつ構築していって、「これが俺の形だな」みたいな。そうやって一人で積み上げてきたものが、結構かぶっていたのは単純に嬉しかったです。

ーーでは、現時点で大井さんが理想としているドラマーというと誰になります?

大井:プレイでいうとリチャード・スペイヴンさんです。ホセ・ジェイムズやフライング・ロータスのサポートをしている、ジャズ系のセッションドラマーなんですが、ブレイクビーツやドラムンベースを生で叩いていて。彼はハイブリッドなスタイルではないのですが、端整なドラミングにはかなり影響を受けていますし、近づきたいです。

 ハイブリッドドラムでは高橋幸宏さんかな、やっぱり。エレクトリックと生楽器の融合を偏執的に追求している……という点では(笑)、おこがましいけど「似ているな」と思う時があります。あと、ドラマーとしての美学という意味ではビル・ブルーフォードさん。ドラムキットをシンメトリーに配置するとか、いちいちカッコいいんですよね。

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