エハラミオリ&赤山コウに聞く、斗和キセキ1stライブ『New Voyage』までの軌跡

斗和キセキ、1stライブ直前対談

エハラ&赤山による7週連続リリース曲徹底解説

――つまり、今回の楽曲/ライブは、「New Voyage」という物語の最初の入口なんですね。音楽の方向性としては、どんなふうに考えていったんですか?

赤山:「RAINBOW GIRL」のRECのときに、「この人、声がめちゃくちゃいいな」と思ったんですよ。単純に声質がいいということもありますし、もっと技術的な話をすれば、マイク乗りがよかったり、嫌な帯域が出ないということを感じていて。それなら、メロディと声を聴いてもらえれば、どんな音楽性に振れたとしても成立するだろうと感じました。曲をつくる場合、その人の声質や雰囲気からある程度曲の方向性が決定すると思うんですが、彼女の場合はそれが一切なくて、色々な方向性に振れられるのが魅力なのかな、と思いました。

【オリジナル曲/MV】斗和キセキ - グッド・バイ

――では、1曲目の「グッド・バイ」は、どんなアイディアでできた曲だったんでしょう?

赤山:この曲は最初に公開する曲なので、1曲目で「グッド・バイ」だったら面白いかな、と思っていました。しかも、最初のオリジナル曲なので、決意の曲にしたいと思っていて。そこで「グッド・バイ」といいつつ、別れの曲ではなく、むしろはじまりの歌になっています。「新しいことをはじめるためにも、今までのこととは一度お別れをして動かなきゃいけないよね。じゃあ、ここで一度さよならだね」という内容で、マインド的には「マサラタウンにさよならバイバイ」(「めざせポケモンマスター」の歌詞)のような感じです(笑)。

――音楽的には、打ち込みも使いつつも、基本的にはギター・ロックになっていますね。

赤山:もともと、僕自身も生楽器をつかった曲が得意だということもありますけど、「グッド・バイ」は最初の曲なので、「RAINBOW GIRL」の雰囲気に近い方が、聴いてくれる人たちも受け入れやすいと思いました。それで、歪んだギターを使った曲になりました。

エハラ:「グッド・バイ」を聴いたとき、僕としても、いい物語がつくれそうだな、と感じました。それに、この曲は「虹」に向き合っている曲でもあると思っていて。キセキのもともとのキャラクターとも合致したうえで、いい話にできる手応えをここで感じました。あと、僕としては、「その(グッド・バイという)決意を誰がしたんだろう?」というところがすごく面白かったんですよ。その答えは今はまだ言えないですが、みなさんもぜひ考えてほしいです。この曲は、そういう意味でも「New Voyage」にとって重要な曲になっています。

【オリジナル曲/MV】斗和キセキ - ユートピアブルー

――では、2曲目の「ユートピアブルー」はどうですか?

赤山:この曲は、僕が斗和キセキの活動にかかわるようになる前から、「いつかこんな曲がつくれたらいいな」とアイディアを温めていた曲でした。それで今回、「この曲をキセキが歌ってくれたらハマるだろうな」と思って曲にしていきました。ポイントのひとつはAメロの語りのようなラップパートなんですが、本人に聞いてみたところ、彼女もラップが好きらしくて。実際、彼女はスタジオでORANGE RANGEの「上海ハニー」をずっと流したりしていました。とはいえ、音楽に対する趣味はかなり広いタイプで、ORENGE RANGEを聴いていたと思ったら、急に電波ソングを聴きはじめたりしますし、アニソンもボカロも好きですし、「一番好きなのは何?」と聞くと「RADWIMPSが好き」と言ったりもしていて。そんなふうに色々な曲が好きなタイプなので、「こういう曲があるけどどうですか?」と聞いてみたら、「やってみたい!」と前向きな返事をもらったので曲に仕上げていきました。

――レコーディング中のキセキさんはどんな様子でしたか?

赤山:歌うこと自体はもともとすごく好きだったみたいですけど、やっぱり初めての経験なので、「グッド・バイ」のときは前日から緊張していたみたいですね。でも、後半になるにつれて、自分自身でも心構えができていったのかな、と思いました。今回、短期間で7曲をつくっていくという経験が、強化合宿のようになっていたのかな、とも思います。

――ちなみに、「ユートピアブルー」の動画から、イラストに男の子が出てきますよね? このキャラクターが誰なのか、気になっている人もきっと多いと思います。

エハラ:これは「ツヅミ」というキャラクターです。今回、「New Voyage」の企画自体の肝として、新しいキャラクター、それもバーチャルYouTuberではないキャラクターを出してみたらどうだろう、ということを考えていたんですよ。通常、MMDの映像作品があったとしても、そこには同じ箱のバーチャルYouTuberの方が出演したりしていて、もともとその人たち同士の関係性が分かっていると、より楽しめるような作品になっていますよね。

――もともとの関係値を把握しているからこそ「てぇてぇ」になる、ということですね。

エハラ:そうです。でも、今回はせっかく架空のストーリーがあるわけですから、普段の活動で触れ合うことがないキャラクターとの関係を描くこともできると思ったんです。今回のようにイラストでツヅミくんが登場すると、「この2人の関係性ってどういうものだろう?」って、きっと気になりますよね。そうやって想像してもらうことが、イラストを見てもらったり、歌詞を深く読んでもらったりすることに繋がると思っていて。登場人物を男の子にしたのも、この物語がフィクションだからこそできることがあるからです。「グッド・バイ」のイラストにはキセキしかいなくて、「ユートピアブルー」以降のイラストにはツヅミくんが出てくることにも意味があるので、これも追って分かるようにしたいと思っています。それから、曲の動画の中に、キセキだけでなくもうひとりキャラクターが登場することで、歌詞の意味としても、また変わって楽しめるようになるだろうとも思っていました。

赤山:3曲目の「茜色の街」は、キセキ本人というよりも、ライブのことを想像して書いた曲です。最後の合唱パートをライブに来てくれた人たちと一緒にできたらいいんじゃないか、みんなに声を出してもらう曲があってもいいんじゃないか、と思ってつくりました。

【オリジナル曲/MV】斗和キセキ - 茜色の街

――サウンド的には、フォーク・ソングの要素も感じますね。

赤山:そういう曲調に寄っていきました。実は、自分の帰り道に歩道橋があって、そこを通るときに夕焼けになることが多いんですよ。そこでぼんやり景色を眺めているときに、帰路に着く人、仕事に向かう人、今まさに仕事をしている人たちの姿が見えて、「ああ、街を見ている感じがするな」と思って。その雰囲気を曲にしました。この曲は最終的に歌詞を書くときには、エハラの方から物語の大まかな内容がこっちにも下りてきている状態でしたね。

――この曲だと、どういう物語が表現されているんでしょう?

エハラ:実は今回の「New Voyage」は、基本的にひとつの街を舞台にした物語になっているんです。ストーリーは、その街の中での2人のキャラクターの話になっていて。

赤山:「茜色の街」は、その街についてツヅミくんが思っていることがあって、じゃあ、街自体はツヅミくんに対してこう思っているんじゃないのかな、という曲です。一方で、次の「かげひなた」は、「グッド・バイ」よりも先につくりはじめて、先にできた曲でした。純粋に「斗和キセキに歌ってほしい」と思った、僕の中での斗和キセキのイメージを曲にしたものです。

【オリジナル曲/MV】斗和キセキ-かげひなた

――音楽的には違いますが、たとえば劇場版『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』の主題歌「サークルゲーム」のように、アニメの主題歌のような雰囲気も感じました。

赤山:ああ、そういう雰囲気もあるかもしれません。この曲はメロディも一発で覚えられるものにしました。本人も歌いやすいと言っていたので、すごくよかったなと思います。

エハラ:物語的に言うと、「かげひなた」は「茜色の街」の次の日の昼間の話です。

――ちなみに、「かげひなた」は「ひとりであってひとりじゃない/ひとりぼっちの集合体」という歌詞も印象的でした。この歌詞の曲に、クラップが入っているところも魅力的で。

エハラ:今回の物語全体に共通するテーマのひとつが、「孤独」なんです。そういう意味では、「かげひなた」は孤独について一番しっかり歌った曲で。とはいえ、「孤独についての歌」というよりも、「孤独についての価値観の歌」になっているんだと思います。

赤山:つまり、「みんな孤独だ」という前提があったとしても、それは寂しいことじゃないかもしれないよ、ということで。そういうことを形にした歌詞になっています。

【オリジナル曲/MV】斗和キセキ-パンチドランク△メタモルフォーゼ

――次の「パンチドランク△メタモルフォーゼ」はどうですか?

赤山:これは、キセキ本人から「可愛いい電波ソングが歌いたい! どうですか?!」と強いオファーが来て、「じゃあやりましょう!」と思ってつくった曲です。彼女は基本的に、コレサワさんのように、カワイイ声の歌を好む傾向があるんですよ。「私もそういう曲を歌いたいっす!」と言っていたので、そこからアイディアを広げてつくっていきました。最初の語りのような部分は、「動画収録だと思ってください」と伝えて録音していきました。

――間奏で急にレゲエになる展開もすごく面白かったです(笑)。

赤山:電波ソングって、そこに何でも入れてしまえる懐の深さがあると思うんですよ。このパートに関しては、歌い方も「飲んだくれの黒人をイメージしてほしい」と言いながら録音していきました(笑)。彼女自身も海外が好きな人なので、自分の引き出しの中から色々と想像を膨らませて歌ってくれました。

――では、この曲は、物語の中でどんな役割を果たす曲なんでしょう?

エハラ:これはアクションシーンですね。「あの三角形を何に使うんだろう?」「バトルでしょう!!」という話で(笑)。もともと物語をつくるならアクションシーンを入れて、「この三角形をかっこよく使ってもらいたい」と思っていました。ちょうどそう考えていたときに、赤山からしっちゃかめっちゃかな曲が上がってきたので、「ここだ!」と思ったんです。

赤山:やっぱり、せっかくの三角は使わないと(笑)。ライブに映える曲にもなっていると思うので、会場でも盛り上がってくれたら嬉しいです。

エハラ:ちなみに、この三角は「モッド」と呼ばれるものなんですけど、イラストではツヅミくんもモッドを持っていますよね。それに加えて、実は2人の周りを飛んでいるものもすべてモッドになっています。これも物語にかかわってくる要素になっています。

――これ以降の楽曲は、取材時点では公開されていませんが、どんな楽曲なんでしょう?

エハラ:ストーリー上は、次の「Longplane」(11月15日に公開済み)が物語の大団円で、その次にもうひとつ、エクストラパートの曲があるような形になっています。

【オリジナル曲/MV】斗和キセキ-Longplane

赤山:「Longplane」は、まさにこれまでのまとめパートですね。音楽的にも、これまでの中では王道のJ-POP的な雰囲気の曲になっています。

エハラ:そして最後に公開される曲は、今回僕自身も聴いていて一番響いた曲でした。実は、「New Voyage」というタイトルも、ほとんどその曲から取ってきているんですよ。

【オリジナル曲/MV】斗和キセキ-エレフセリアの箱舟

赤山:僕としても、一番のびのびと制作できた楽曲でした。作業中に楽器屋に向かってマンドリンを買ったりもして。個人的にも気に入っている曲になりました。

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