ホリプロ鈴木秀が語る、「インフルエンサー×芸能」のネクストステージ

ホリプロ鈴木秀に聞く「インフルエンサーと芸能」

“新たな形のタレント”に求めるものは? 

――そもそも、VAZからホリプロへ転職したきっかけは?

鈴木:2017年、VAZの副社長を辞任した後は、フリーのタレントやYouTuberを、ボランティアとして支援していました。逆に、そのタレントたちがご飯を食べさせてくれる期間もあったりしつつ、VAZの株主であるホリプロさんに挨拶する機会があって。VAZの役員の中で、一番ホリプロさんとお仕事をする機会があったので、僕の今後について心配をしてくれて、ホリプロ本体のタレントさんたちが運用しているSNSを最適化するお仕事をいただいたんです。それを一生懸命やっているうちにチャンスをいただけて、このホリプロデジタルエンターテインメントという会社がスタートしました。コツコツやってることをちゃんと評価してもらえたのは嬉しかったですね。

――違う種類の芸能への華麗なる転身、かと思えば、裏ではそのような苦労をされていたと。

鈴木:もちろん色んな芸能プロダクションさんからお声もかかったんですが、最初に声をかけてくださったことや、ホリプロのタレントさんから、タレントとしての礼儀、安定感、スキルの重要性を教わったので、「ここに入れば、次世代の子たちの育て方も学べるし、自分が今まで作ってきたインフルエンサーの育て方をミックスさせることもできる」と思って、入ることを決めました。

――その“新たな形のタレント”が、すでに何人か育っているようですね。

鈴木:一番思い入れが強いのは「景井ひな」というタレントですね。この子は2月にTikTokのフォロワーが100人くらいのときに見つけて。「この子は伸びる」と確信して、チェックし始めたんです。ただ、芸能界の人からいきなりコンタクトを取られたら怖がっちゃうと思うので、まずはフォローしてずっと見ているだけの期間を経て、1ヶ月後にようやく連絡を取ったんです。演じる系のコンテンツを作っている子だったので、「何をやりたいんですか?」と聞いたら、案の定「女優さん」と答えてくれて、芸能の適性も感じました。そこから色々アドバイスをしながら二人三脚でやっていって、ホリプロデジタルエンターテイメントのオーディションもちゃんと受けてもらって、うちの審査員にも認められ、グランプリを受賞して、7月から専属タレントになりました。先日70万フォロワーも達成、というとんでもない伸び率にもなっています。現在は演技レッスンやボイトレ、バラエティレッスンもやってもらっていたら、ドラマやCMのオファーも来るようになって。1日で台本覚えたり、滑舌よく話せているのを見て、「自分がつくりたいタレントがそのまま実現した」と感動しました。見る人によっては女優の卵だし、別の角度からはTikTokがすごい子として見てもらえています。Instagramも夏から初めて8万フォロワー、Twitterも同時期から2万フォロワーまで伸びました。

――他のタレントさんについてはどうでしょう?

鈴木:小西詠斗という19歳の男の子は、中高校生時代にそこまで目立つタイプの子ではなかったのですが、大学に入って、眼鏡を取ってミスターコンに出たら一気に人気が出て、ご縁があってうちに入ることになったんです。最初はInstagramも「どうやったらいいかわかんない、怖い」と言いながらも一生懸命上げていたのに、ある日「2.5次元で演技をしたい」という夢を明かしてくれて、そこからかなり多くの2.5次元作品を見たり、演技の練習をしていて、TikTokにもYouTubeにもより力が入るようになりました。そして、今年の夏にご縁があって、一番立ちたかった舞台『刀剣乱舞』のオーディションで、自分が一番なりたかった役に決定して。インフルエンサーからスタートして2.5次元にいくのは初めてのケースということもあって、感動で涙が止まりませんでした。

――小西さんに関しては、『白雪とオオカミくんには騙されない』のようなリアリティーショーでも人気が高まりました。

鈴木:リアリティーショー系出身の人って「その後がない」って言われがちなんですけど、努力すればちゃんと夢は叶うんだと、世の中にしっかり提言できたような気がします。3人目はきいたという男の子なんですが、この子はInstagramのフォロワーが1万人いないときから所属していて、いまは12万フォロワーくらいになっています。現在はハイブランド系のモデルをやっていて、某スーツのテレビCMに出演したり、テレビCMに出れるインフルエンサーとしても活躍しています。彼らとの仕事を経て、「インフルエンス力をつけるのは当たり前で、その上で何を演じられるか、表現できるかを追求してくれるタレント」が重要だなと思いましたし、そういった人を沢山育てたいと思うようになりました。11月からは新たな専属タレント2名が所属していて、この2人についても面白いアプローチを考えているので、楽しみにしていてください。 

――いま攻略できていなくて、このフィールドにタレントを送り込んでみたい、という土壌はあるんですか?

鈴木:ドラマと映画については、しっかり育成したうえで、活躍できるようになってほしいなと思います。

――そんななかで、中長期的なゴールを定めるとすると?

鈴木:中期的な目標だと、タレントがto C(消費者)に対してのビジネスを自分たちで展開できるようになってほしいと思っています。我々の会社がすべきことは、ビジネスをデザインすることなんですよ。だから、面談の時に「何になりたいですか」と聞いて「YouTuberになりたいです」と答えるような方はそもそも採用しないですし、「俳優になったあとに何をしたいですか?」と聞いたときにちゃんと言える方を大事にしたいんです。たとえば、「自分で映画を作りたい」とか、「アパレルブランドを作りたい」とか。

――10年、20年先の人生をデザインできているような人、ということですか。

鈴木:そうです。きいたは現在、ハイブランドのファッションモデルとして活躍していますが、このあと俳優としてのフィールドで戦ったのち、彼のファッションセンスに憧れている方に向けて、きいたが自分でつくった世界観を提供することを目標にしていますし、景井ひなも「自分のブランドを作りたい」、小西詠斗も「いつかは舞台を作る側に回りたい」と話しています。長期的なゴールは、タレントが自分のなりたいものを成し遂げたときに何ができるか、ということでしょうね。たとえば、子会社を作って、その代表に各タレントが就任する、といったことも考えています。

――そういった展開に向けて、事業もますます拡大していくのでしょうか。

鈴木:3年間は少数精鋭でやっていくと決めていたんですが、それを経て規模を大きくしていきたいと考えています。ひとつのチームでMAX10〜15名のタレントを抱えられると思うので、ここが持っているインフルエンスの部分ではないスキルについては、我々が再現性のあるスキルをしっかり作り上げて、それぞれの適性を見て流用していければと思っています。そのためにも、横展開できる、色んなカテゴリのタレントたちと接して、しっかり成功させていきたいです。

――バーチャルの事業を立ち上げる上で、アジアを含めた世界的展開を見据えていたようですが、そのあたりについてはどうでしょうか。

鈴木:9月から海外戦略室を立ち上げたのですが、研究していて思ったのは、しっかり翻訳されれば、海外でもそのまま成功するコンテンツがあるということ。こちらから仕掛けたわけではないのですが、向こうでフックアップされている子も何人かいるので、向こうでしっかりファンベースを作った後、逆輸入的に売り出すのもひとつでしょうし。伊達あやのについても、バンタンデザイン研究所の学生さんと一緒に「伊達あやのプロジェクト」というものを運用していて。たとえば、学生さんがAR技術を駆使して、スマホを介して伊達あやのがその辺を歩くという技術を作ってくれたり。時間や場所にとらわれないコンテンツであるからこそ、色んなことを試すことができますし、テック企業やテクノロジーそのものとも相性がいい。AIを駆使したプロジェクトも考えているので、こちらも見守っていただければと思います。

――現在はリアルなタレントさんにフィードバックする存在ではあるものの、逆転する瞬間もあると考えていますか?

鈴木:技術が追いついてくれば、不可能ではないと思いますよ。AI分野がここに追いついてきていないと考えているので、追いつけばどうなるか、というのがすごく楽しみですね。コストの面から撤退する企業さんも多いんですが、我々は幸いにもトータルで見て上手く回っているので、このまま自走を続けながら、チャンスをしっかり手にしたいと思います。

(取材・文=中村拓海/撮影=林直幸)

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