「V(バーチャル)の音楽」第1回:キズナアイ、輝夜月、YuNi……VTuberの音楽を切り開いたアーティスト3組

輝夜月

 一方、彼女を“親分”と呼びはじめた張本人にして、破天荒で自由奔放、けれどもどこかチャーミングなロックアイコンと言えば、2017年12月に活動を開始した輝夜月。彼女の楽曲は元Pay money To my PainのPABLOが作曲し、彼女自身が作詞を担当。昨年8月には世界初のVRライブを開催し、今年に入って急増するVRライブの盛り上がりにも大きな役割を果たしました。

輝夜 月VR LIVE@Zepp VR 2018.08.31 ライブダイジェスト映像

 彼女の楽曲の最大の特徴は、1曲の中に詰まった膨大な情報量。普段の動画そのままの、予測不能な雰囲気が大きな魅力になっています。たとえば、デビュー曲「Beyond The Moon」はヒップホップとパンク/ハードコア、キュートなポップソングがひとつになった楽曲で、続く「Dirty Party feat. エビーバー」は、Run-DMCとAerosmithの「Walk This Way」にも通じるロック×ヒップホップのクロスオーバーを基調にした月ちゃん流のパーティーソング。一見本能のままに言葉を綴っているように見えて、実は細部まで様々な工夫が凝らされているユニークな言語感覚を生かした歌詞も、すべての楽曲に通じる魅力になっています。

輝夜 月『NEW ERA』-LIVE CLIP

 令和1日目となる5月1日に開催されたVRライブ『輝夜 月 LIVE@ZeppVR 2』に向けて発表した現時点での最新配信曲「NEW ERA」は、「新時代」をテーマに初めて外部からコーラスを迎えて制作した、QUEEN「Bohemian Rhapsody」にも通じる壮大な楽曲。『輝夜 月 LIVE@ZeppVR 2』当日は、序盤にコーラスに合わせて指揮者のような振りで観客を湧かせると、その後一転してフレディ・マーキュリーにも通じるロックスター然としたライブを披露。また、ライブ全編は「新時代=令和」を目指して月面に作られたタワーの頂上を目指すストーリー仕立ての構成になっていて、水中ステージでライブをするなどVRならではの可能性を追求しながらも、同時に持ち前の明るい性格で観客とワイワイ騒ぐような雰囲気が魅力でした。

YuNi

 そして、音楽活動をメインに据えた「(自称)世界初のバーチャルシンガー」といえば、2018年5~6月に活動を開始したYuNi。彼女の場合、活動をはじめた時期は2人と比べて後発に当たるものの、雑談配信や企画配信が極端に少ない、オリジナル曲や「歌ってみた動画」を中心にした活動を続けることで、音楽に特化したバーチャルシンガーとしての道を切り開きました。

YuNi MV 「透明声彩」

 今年4月24日にはデビューアルバム『clear/CoLoR』を発表。この作品にはYUC’e、la la larks、kz、ヒゲドライバーが参加したオリジナル曲と、過去に公開してきた「歌ってみた」動画を現在の歌声で新録したカバー曲をパッケージ。音楽性の幅がさらに広がったオリジナル曲と、原曲にはない“がなり”を入れて感情の高まりを表現した「シャルル」などを筆頭に豊かな解釈&表現力で歌われるカバーによって、ボーカリストとしての魅力を2枚組に凝縮しています。

YuNi MV「Write My Voice」from 2019.4.30 - 5.1 LIVE

 また、4月30日~5月1日には、平成と令和をまたぐ形で、ときのそら、樋口楓、天神子兎音、かしこまりをゲストに迎えて『さよなら平成カウントダウンライブ UNiON WAVE - clear』を開催。このライブは開演前には音楽活動をする様々なVTuberからのコメントが多数放送されるなど、「Vの音楽やアーティストを取り巻く文化そのものを広めたい」という思いが伝わってくるような構成になっていたことも印象的でした。また、当日の模様はVR環境に加えてYouTubeでも無料配信され、ピーク時には1万8000人ほどの観客が同時視聴。加えてTV番組『news zero』(日本テレビ系)の中継も入るなど、時代の節目に大きな注目を集めました。中でも彼女のファン=ゆにチルのコメントをバックに表示しながら披露された「Write My Voice」は、楽曲の中に初めて自分以外の存在が反映された歌詞も相まって、ライブでの新たなハイライトになっていました。

 ちなみに、2人のライブには親分も来場。時代の変わり目を一緒に楽しんでいたようです。

 Vの音楽シーンでは、「バーチャルな存在だからできること」と「バーチャルであっても変わらない普遍的なこと」の両方が手を取り合って、今まさに個性的な音楽が生まれています。また、まだ歴史の浅い文化ということもあって、リスナー/ファンも一緒に「みんなでこの文化を盛り上げていこう」という熱気が充満しているのも、大きな魅力のひとつです。この連載を通して、自分もその魅力を少しでも多くの人に伝えたい……! ということで、これから「バーチャルな存在が生むリアルな音楽」の魅力を紹介していこうと思います。どうぞよろしくお願いします。

■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。

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