中田敦彦が語る、変わりゆくメディアとタレント・YouTuberの環境「Googleがすでにテレビ局みたいになっている」

中田敦彦に聞くタレント・YouTuber論

「絶対にテレビ」「これからはYouTube」という議論は成立しない

――ユーザー、視聴者の変化はどう思っていますか? 例えば、10年以上前ならば、小中学校のクラスで、お笑い芸人の真似をする子たちが当たり前のようにいました。「武勇伝」を皆でやるような。ところが、今はそれがYouTuberの真似に変わっているという話を聞いたことがあります。若い人がお笑いに興味を持っていないことについて危機感はありませんか?

中田:ああ、全然ないですね! ずっと若年層を狙っていくのであれば、危機感を持つかもしれないけど、そもそも僕はそこをターゲットにしてないので。この本もそうなんですけど、自分と同世代に向けています。だから今の10代から子供たちに向けているYouTuberと、僕のやっていることはぶつからないんですよ。

――なるほど。

中田:さっき「テレビかYouTubeか」という議論は雑だと言いましたけど、だってラジオスターは今でもいるじゃないですか。ラジオ局に行くと、僕の知らない人のやっている番組が聴取率1位だったりする。そこでスタッフの人に「どのくらい続いてるの?」と聞いてみると「20年」だと。そんなに続いているのに、僕は知らない。そんな風に、今までもこれからも分断されているメディアはあって、「テレビかYouTubeか」もそういった分断のひとつになってくると思うんです。テレビも最近は50代がメインターゲットになっていて、その時代感を持っている人間が牛耳っていて、そこに向かって届け続ける。何も塗りかわってないし、それぞれに届けるための箱が用意されているだけ。だから、YouTuberがテレビを席巻することもないだろうし、テレビタレントがYouTuberとしてブレイクすることも、多分厳しいでしょう。カジサックさん(キングコング・梶原雄太のYouTuber名義)のように、その厳しさを理解した上で、橋渡しのような存在になろうとしている人もいるけれど。

――たしかに、タレントのYouTube進出は増えましたが、それによって何らかのイノベーションはまだ起きていません。

中田:単純な話、年輩の方には、スマホで動画を観るカルチャーが根付いてないでしょう。彼らはテレビを観ている。親がリビングでテレビを観ているから、子供はスマホやタブレットで動画を観る。そういう住み分けに、もう、皆気づいてるんじゃないかな。例えばカジサックさんや新しい地図にしても、コンテンツそのものよりも、テレビの世界での知名度を使って、人気YouTuberとコラボして注目されている。そういう方法をとらずに、いきなり1人でコンテンツを打ち出しても、成功する可能性は低いと思います。


――カジサックさんは、人気YouTuberともコラボしてる一方で、仲間の芸人らとも共演されています。

中田:カジサックさんは、お笑い芸人が「YouTubeという大陸」に入る時の橋渡しをしたいのでしょう。その大陸のメイン層は若い人たち。彼はまだ、子供や若者に向けてコンテンツを届けたい人なんですよ。僕はそこに向けたものを作ろうとは思っていないというだけで。どういうコンテンツを、誰に届けたいかで、変わってくるんじゃないですか。だから、「絶対にテレビ」「これからはYouTube」という議論は成立しないんです。それぞれのターゲットに合わせたことをすればいいだけで。

――以前、30代前半の芸人に取材をしたときに、「いまの超若手芸人たちは世代的に、YouTuberのほうがチャンスはありそうだとわかっているけど、あくまでお笑いが好きだから芸人をやっているという人が多い」という話を聞きました。

中田:僕らの世代の落研(落語研究会)の人みたいな感じになってるんじゃないかな。落語家さんがテレビのメインだった時代もあって、そこで落語家の徒弟制度もあった。そういう伝統から外れた、お笑い養成所出身のダウンタウンさんが出てきて時代が変わった。僕らの若い頃でも、落語が好きだから、落研に入って、落語家さんに弟子入りしたいという同世代はいた。でも僕らの大半は落語を観たことはない。今、「お笑い芸人になりたい」という人もいるだろうけど、それは生き方や「イズム」の話ですよね。「お金が欲しい、有名になりたい」だけが、生き方ではない。「食べていける」という度合いさえ、自分の中で納得していたらいいと思います。知名度的に、経済的に大成功したいというのではあれば、今からお笑い芸人になるのは、あんまりおススメしないですけどね。

――なかなかシビアな考えですね。

中田:だって、あの頃の落研にいた人から、テレビのMCになるような人は生まれてないじゃないですか。時代は移り変わったら戻らない。かつてプロレスやJリーグがゴールデンで放送されていた時代もあるし、変わったところですと、ローラースケートの番組をゴールデンやってた時代だってある。今では考えられないじゃないですか。それと同じで、お笑いのコント番組が、もう一度ゴールデンに返り咲くことはないと思っています。でも一度ゴールデンに出たジャンルの人たちって、「もう一度」って考えがちなんですよね。ジャンルの外から見ると、それはピンと来ない話なのに。

――もし、中田さんが現在大学生だとして、「お笑い」的な面白いことをやりたいと思った時に、吉本興業に入ります? あるいはYouTubeで動画をあげますか?

中田:「お笑い」をやりたかったら、吉本に入るでしょうけど、YouTubeは「お笑い」ではなくて、面白い映像を撮る人たちです。「お笑い」を「舞台の上でお客さんを笑わせる演芸」に定義づけるのであれば、吉本がいいのでしょうし、もっと広義のバラエティ的な企画を含めて「お笑い」と呼ぶなら、YouTubeかもしれません。とはいえ、今からだとお笑い芸人は目指さないでしょうし、YouTuberになるのも、どうかなと思いますね。「次に来るメディアは何なのか? あるいは、メディアごと作るのか?」を考えていると思います。

――コンテンツよりは、それを入れる箱、プラットフォームに興味があると。

中田:YouTuberもGoogleの方針に委ねられているじゃないですか。ルールが変わればやることも変わる。今はGoogleがゲームに力を入れているので、多くのYouTuberはゲーム実況を始めたりする。Googleの向く方向に皆歩いていかないといけない。

――それは、「好きなことで、生きていく」とは違ってきてしまいますね。

中田:そうなんです。「YouTuberの皆さん、やりたいことして食べていけてますか?」とは思います。現在の主流である「毎日動画更新」も、この数年ずっと問題視されています。なぜ毎日アップロードだったかというと、子供のためなんですよね。コンテンツを週1、月1まで待てるのは、大人が忙しいからなので。YouTuberが毎日更新するのは子供のためなんですよね。そこをターゲットにしない人たちは、そうする必要はないんです。

――HIKAKINのように毎日アップロードもやめる。動画編集を外注せずに自分でやっているYouTuberも多く、「ユーチューバーは自分で動画編集するべき」という空気もあります。2月にYouTuberデビューしたタレントの藤田ニコルも、動画を自分で編集していると話題になりましたし。

中田:それが正しいかどうかは視聴者が判断することですよね。それって、つまり「イズム」の問題で、「お笑いの賞レースで勝たない」とダメとか、「ネタをやらなくなったら芸人じゃない」とか、いろんな「イズム」があるんですよ。じゃあ司会業がメインの有吉さんは? くりぃむしちゅーは? となるじゃないですか。なので、YouTuberが自分で編集してようがしてまいが、人が集まれば勝ちなのは大前提。その中で、藤田ニコルちゃんは、そういう作戦をとっているということですよね。

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