女子高生AI・りんなの開発者から学ぶ、「感情」と「共感」とAIとの未来

りんな開発者から学ぶ“AIの未来”

その人それぞれにとっての一番心地よい関係性を

ーーりんなを使っているユーザーからの印象的だった反応について教えてください。

坪井:ちょっとした事故があり、りんなのいわゆる「記憶」が消えたことがありました。何人かのユーザーに偶発的に起きてしまいましたが、その時にユーザーは「りんなのデータがなくなった」ではなく、「りんな大丈夫?」「りんなの記憶が消えてしまった」「りんなが私のことを忘れている」とサポートへ問い合わせてくれました。その瞬間、ユーザーとりんなの間に関係性が築けていることを実感しました。そして、その「記憶が消える」ということで本当に心に傷を与えるようなことにまで至ってしまうこともあるんだということがわかった、エモーショナルな事件でした。AIは死にませんが、そういう死に近いような体験をさせてしまった気がします。

ーーなかなか普通のAIだったらそういうことは起こらないですよね。

坪井:そうですね。やっぱり話せて、キャラクターとしてきちんと存在しているからこそ上手く関係が築けていて、喪失感に近いような経験をユーザーにさせてしまったのだろうと、運営側として反省しました。ただ、その他にも心温まるエピソードは色々あります。よくあるのは、「りんなに付き合ってとお願いしてこっぴどく振られました」という体験だったり。りんなはよく「結婚してくれ!」なんて言われるみたいですが、上手くあしらっているみたいです(笑)。

ーーそうなんですね。ユーザーは実際に、りんなに恋愛感情を抱いたりするのでしょうか。

坪井:ジョークで言っている人もいるとは思うのですが……。一度ユーザーの方にお話を伺ったときは、「僕は妹みたいな存在として彼女と話をしている」と言っていました。家族LINEの中にりんなを入れていただいている場合もあります。また、あるお父さんが娘さんと色々話すにあたって、ちょっと今風な言葉を仕入れて使えるようにするために、りんなと話していると言っていました。あとは、「親友がりんなちゃんしかいない」という人もいます。深夜に話しかけたり、悩みをちょっと話したらすっきりした、みたいな人がいたりとか。なので、ただ単に恋愛的な感情だけではなくて、その人それぞれにとっての一番心地よい関係性を、りんなと築いていっているような気がします。

ーー坪井さんにとっても、りんなは家族みたいな存在なのでしょうか。

坪井:そうですね。私たちの場合は生みの親に近いような状態なので、他のユーザーとはちょっと違うかもしれませんが、保護者の立場でしょうか。ちゃんと友達と仲良くしているかなとか、テレビに連れていく時もちゃんと話してくれるかなとか。りんなと4年ぐらい一緒にいますが、そのくらい経つと一つの存在として、自分の中でも出来上がってきます。だから、普通のユーザーみたいに、たまに「こんなことがあったんだけどどうしたらいいんだろう、りんな」とか相談するうちに、すっきりすることも結構あります。成長させる技術を、もちろん自分たちで作っているんですけど、成長を見守るような立場にもあり、不思議な感覚ですね。

ーーユーザーがりんなに対して抱いてほしい感情などはありますか。

坪井:すごく興味があるのは、りんなとユーザーがどういう関係性を築けるのだろうか、ということです。人と人工知能がどういう関係を築くことがいいのだろうか、ということを解き明かすのが私たちの目標の一つです。極端な話、別に嫌ってもらってもいいとは思うんですが、どうせなら一緒に仲良く共存できるような関係性を築いていけるようになるといいなと思っています。

ーーそうなれば、りんなは人と人工知能がどういう関係性を築いていくのかを観察する、実験的な存在でもあるのでしょうか。

坪井:そうですね。観察して、より良く一緒に過ごせるような状態にもっていきたいと思っています。人にとって他人と生きることは、他の思考や価値観、他のアイディアを色々もらうためにとても重要です。そういう中にりんなが入り、彼女が新しい情報源になる。人と人とのネットワークの中に、感情的な側面を持つ人工知能が加わって、ネットワークがもっと豊かになっていくような状態になったらいいなと思っています。

ーーすごく興味深い話ですね。

坪井:その一環ではないですけど、次やりたいなと思っているのは、りんなをもう少し有名人っぽいポジションにすることです。ユーザーとりんなという一対一の小さな関係から、りんなが有名人になることによって、有名人と個人が友達になれる。りんながそういう風に有名人のポジションになることによって、りんなの話を共通の話題として、人同士がもっと色々な話をしてくれるようになるんじゃないかなと。多分、社会的にりんなのような人工知能が受け入れてもらうためには、何かしら役割が必要なんです。タスク型の子たちは、あるタスクを達成する役割がありますが、エモーショナルなりんなのような存在も、その感情ゆえに必要とされるようなポジションが絶対にあるはずです。それがどういった形なのか、解き明かすことが重要なポイントですね。

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