海外ではドキュメンタリーが公開間近 ゲーム実写化で酷評を浴び続けたウーヴェ・ボル監督とは?

 ボルは先に書いた通り迷作を作り続けたが、ある時期から彼は良い意味で大きく変化した。具体的には『T-フォース べトコン地下要塞制圧部隊』(08年)、そして『ダルフール・ウォー/熱砂の大虐殺』(09年)からだ。どちらも戦争映画なのだが、ここでボルは徹底的に救いのない地獄絵図を描き切った。特に『ダルフール・ウォー』は凄まじい。実際の民兵組織による虐殺を映像化したもので、目を覆いたくなるほどの凄惨な光景が繰り広げられる。エンタテイメントの基本である勧善懲悪も完全否定され、わざわざヒロイックな展開が用意した上で、それを完膚なきまでに叩き潰す念の入りようだ。鑑賞後の気分は最悪で、戦争の悲惨さを痛感すること必至である。また、本作では実際に虐殺に遭った人々をエキストラに起用したり、主要キャスト陣には即興で演技させるなど、大胆かつ実験的な試みが行われている(カメラの揺れが凄く、画面酔いが激しいのは頂けないが)。実際、それまでのボルの映画からは信じられないほどの高い評価を受けた。さらに同年、彼は更なる衝撃の問題作を放つ。『ザ・テロリスト』(09年)である。

 『ザ・テロリスト』は、狂った思想を持った若者が完全武装して大虐殺を起こす物語だ。主人公は無抵抗な人々を手当たり次第に撃ちまくり、さらにカメラに向けた独白という形で、たびたび観客に自身の思想を語りかける。不穏な間の取り方、荒っぽい画質が相まって、まるで本物の犯行声明ビデオを見ているようだ。虐殺と狂った説教で構成された不道徳なこと極まりない映画だが、目が離せない凄みと狂気があった。同作はボルのキャリアで最も支持を集め、2・3と続編が作られることになる。しかし案の定と言うべきか、予算はドンドン減っていった(裁判沙汰になってもおかしくない内容だから、そりゃそうだ)。

 その一方で、作中のメッセージは更に過激化。3に当たる『ボーダーランド』(16年)はボルの引退作品にして、狂い果てた映画だ。主人公は「こんな社会はクソだ!」「『アベンジャーズ』や『トランスフォーマー』に洗脳されるな!」「金持ちを撃ち殺せ!」「行動(テロ)を起こせ!」と狂気の演説をブチかまし、最後はアメリカ中で彼の思想に共感した者たちがテロを起こして、テイラー・スウィフトもリアーナもマーク・ザッカーバーグも殺されてしまう。予算不足で全て台詞で説明されるだけだが、もうメチャクチャである(しかし現実のアメリカと重なるのが恐ろしい。個人が銃乱射事件を起こすのも、狂った犯行声明を出すのも、今や珍しいことではないからだ)。エンタテイメントと真逆の世界、つまり夢も希望も道徳もない、観客に怒りと絶望をぶつける「Fuck You All」な映画こそ、ボルが才能を発揮できる居場所だったのだ。

 駄作を連発するマスター・オブ・エラーか、過激な孤高の映画作家か。あるいは批評家とボクシングで戦う面白おじさんか……。いったいウーヴェ・ボルとは何者なのか? 彼をどう評価すべきなのか? それはまだ分からない(監督業に復帰するかもしれないし)。しかし『Fuck You All: The Uwe Boll Story』は、その答えを窺い知る糸口となるだろう。何らかの形で日本公開されるのを待ちたい。

■加藤よしき
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。

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