『ストII』楽曲も手がけた下村陽子が語る 『ハイスコアガール』の劇伴で表現した“バランス感”

『ハイスコアガール』下村陽子インタビュー

「アニメでもセルフパロディーをすることになるとは」 

(C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガール製作委員会 (C)BNEI (C)CAPCOM CO., LTD. (C)CAPCOM U.S.A., INC. (C)KONAMI (C)SEGA (C)SNK (C)TAITO 1986

ーーそういったスパニッシュ感は、懐かしさや熱さを感じさせる部分がありますよね。

下村:そうですよね。今はJ-POPと呼ばれてますけど、昔の歌謡曲にはスパニッシュテイストのものがよくありましたし、人を熱くさせる要素があると思うんですよ。

ーー個人的にはM-23のトランペットにも昭和の音楽っぽい懐かしさを感じました。

下村:この曲はもうニニ・ロッソという感じですよね(笑)。私の作ったデモはここまで濃くはなかったんですけど、夕日を背負ってる人みたいなクサさが出てて。この曲では〈爽やかな男らしさ〉を求められていたんですけど、私が男らしい曲を書こうとすると、どうしてもバトルシーンみたいな激しい曲になってしまうんですよ。なので、この曲ではアレンジャーさんに「爽やかなんだけどちょっと暑苦しい感じ」とお願いしましたら、この曲が上がってきまして。それが予想外にピンポイントでハマって、私だとたぶん思いつかなかったですね。

ーーまた、先行PVで使用された「M-25」ですが、こちらは例外的に当時のゲーム音楽を想起させるサウンドになっています。というか、ズバリ『ストII』のガイルのテーマ曲みたいですが……。

下村:そうなんですよ。この曲はガイルのテーマのアレンジっぽいものというオーダーをいただきまして、制作中も「ガイル」と呼ばれてたんですけど、「いやいや『ガイル』ではないですから」と言っていて(笑)。これまでのゲームのお仕事でも「○○みたいな曲を作ってほしい」というオーダーは何度かあったのですが、アニメでもセルフパロディーをすることになるとは思いませんでした(笑)。

(C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガール製作委員会 (C)BNEI (C)CAPCOM CO., LTD. (C)CAPCOM U.S.A., INC. (C)KONAMI (C)SEGA (C)SNK (C)TAITO 1986

ーー下村さんは『ストII』版のオリジナル曲を作られた方ということで、逆に「ガイルのテーマっぽいもの」を作るのは難しかったのでは?

下村:もちろん同じものにはできないですし、あまりにも似せてしまうと二流っぽさが出て良くないと思ったので、原曲を彷彿とさせながら、どうやってオリジナル感を出していくかということは考えましたね。それと、私はこの手の曲を書く場合、シンプルなコード進行で作ることが多いんですが、この曲をアレンジしていただいた松尾さんが、最初のときにお洒落なコード進行に変更されたんですね。そうしたらストレート感が薄れてしまって、いわゆる『ストII』的な音楽とは外れてしまうように感じたので、「シンプルなコード進行に戻していただけませんか?」とお願いしました。

ーーこの曲はアニメ本編にもリアレンジ版が使用されましたが、そちらは生楽器が主体になっています。

下村:ありがたいことにアレンジャーさんのお力で良いものになりました。こちらはアコースティックギターが入って、もともとのM-25とは全然違う雰囲気ですけど、メロディーはしっかりと活かしていただいて。今回はいいところでピンポイントにアコギが使われてるんですよね。私はいつもの場合、いいところではピアノを使うのが定番なんですけど、今回はそれが逆になっていて、全体的にはピアノをたくさん使っていて、アコギがピンポイントにあるという感じになっています。 

ーー普段とは違って日常曲を多く制作されたり、アコギではなくてピアノが多くなっていたりと、『ハイスコアガール』はいつもの下村さんらしさとは異なる新しい挑戦が多く盛り込まれているんですね。

(C)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガール製作委員会 (C)BNEI (C)CAPCOM CO., LTD. (C)CAPCOM U.S.A., INC. (C)KONAMI (C)SEGA (C)SNK (C)TAITO 1986

下村:私は「濃い曲」とか「すごく泣かせる曲」をお願いされることが多いので、そのなかでそういった自分らしさをあまり強く出さないことは、ひとつのチャレンジだったと思います。以前担当したゲーム音楽で、出来る限り感情を抑えて無機質な曲にしたいというお話だったので、出来る限り自分らしさを出さずに作ったんですけど、何年か経つとなんだかんだで「あれは下村の曲だね」ということが出てしまうんですね。今回も別に私が作った曲とは思われなくてもよくて、『ハイスコアガール』という作品のラブコメや昭和感を意識しつつ、できるだけフラットに作ることで、何年か経ったときに「あのときは印象に残らなかったけど、今聴くとやっぱり下村の曲だよね」というくらいの塩梅になればと思っています。

ーーとはいえ今回の劇伴にも下村さんらしさは感じられます。例えば木琴の使い方は『スーパーマリオRPG』(1996年)でのお仕事を思い出させるものですし。

下村:やっぱり漏れ出てますかね(笑)。たしかに木琴は好きなのでよく使うんですよ。木琴、バイオリン、ピアノ、フルート、パーカッションを聴けば私のクセがわかるというか(笑)。金管が少ないんですよね。私も昔にトランペットを少しやっていたぐらいなので、別に金管が嫌いというわけではないんですけど、曲を作る際にあまり良い音源を持っていないんです。それと隙間のないパーカッションが特徴的とはよく言われます。海外のマニピュレーターの方に「あなたの曲はパーカッションオーケストラみたいだ」と言われまして(笑)。私もこうやって質問を受けることで、自分らしさに気づく部分がありますね。

ーーアニメの放送をご覧になって、BGMの使われ方はどう思われましたか?

下村:「この曲がここで使われてるんだ!」という衝撃を受けたところもありましたね。RPGでピンチのときをイメージして作ったシリアスで緊張感のある曲(M-27)があるんですけど、この曲が春雄がワーッとしゃべってるところでドコドコと使われてたので、「そんなに大袈裟に語らなくても」とツッコミたくなりまして(笑)。でも、それを見て「そういうことなのか」と思ったんですよね。自分で曲を付けた場合は、そんなふうにはしなかったと思いますから。

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