『半分、青い。』がものづくりへのきっかけにーー鈴愛と律が発明した“そよ風ファン”のモデル・寺尾玄氏の思い

『半分、青い。』がものづくりへのきっかけに

「自分で失敗して、身体で覚えていくもの」

キノコ型扇風機

――主題歌が星野源さんの『アイデア』であることが象徴的なように、『半分、青い。』は“アイデア”というものが物語の大きなテーマになっています。寺尾さんのものづくりをする際の“アイデア”の出発点はどんなところにあるのでしょうか。

寺尾:バルミューダの代表作となった扇風機やトースターも、ヒットを狙いにいったという意識はなく、生活者として「もっとこうなったらいいな」「もっとこんなものがほしいな」という単純な思いからです。私たちが当たり前のように日常で使用しているものも、何かのきっかけでもっとよくなる可能性がある。我が社が持っている技術力を活かして、新しいもっといいものを生み出していきたいと常に考えています。

――もともと技術者ではなかった寺尾さんが、“ものづくり”への一歩を歩みだすために最初にしたことはどんなことだったでしょうか。

寺尾:知識も技術も持っていなかったので、とにかく人に聞く、教えてもらうことからはじめていきました。なんのつてもないから、町工場のひとつひとつに挨拶しに行っては断られて。そんな中、「うちの機械を使ってもいい」と言ってくれたのが、春日井製作所の皆さんでした。「何も知らない」ということは当然恥ずかしいことだったのですが、そんな恥ずかしい気持ちなんてどうでもいいと思うほどに、知識と技術に飢えていました。自分がものづくりをすると決めた、それならそのための能力を身に付けないといけない。最初に決めたことは必ずやり通す、それがいまだにずっと続けていることです。

――『半分、青い。』では、ものづくりの喜び、創業することの難しさと楽しさが描かれています。鈴愛たちの姿を見て、寺尾さんはどんなことを感じますか。

寺尾:作品を観て、自分も何かを作りたいと思う視聴者もいるかと思います。ものづくりや創業、事業の継続は非常に困難で、出来ればやらないほうがいいです。こんなに大変なことありません。でも、こんなに楽しいこともありません。

ーー多くの人が“失敗”を恐れて最初の一歩が踏み出すことができないように思います。寺尾さんはその恐さをどうやって乗り越えていったのでしょうか。

寺尾:偉そうに語るようなものは持っていませんが、失敗は成長に対して絶対に必要なものだと思っています。失敗しなかったら考える必要もないし、変わる必要もありません。もちろん、私も失敗は絶対したくないと思っていますし、すごく恥ずかしいものだと感じるときもあります。ただ、失敗して嫌だ、という思いは、自分の中のプライオリティではすごく下なんです。夢に対しての責任の方がはるかに上位にあるから、どうしても行動を起こすしかない。自ずと初めてのことばかりだから失敗も多くなる。失敗してはいけないという責任を多くの方が感じるとは思うのですが、もっと他人を信じてもいいと思います。一度の失敗で見捨てられるくらい嫌われることはそんなにありません。その失敗をどう受けとめ、支えてくれた人にどう返していくか、それを大事にするべきだと思います。

そよ風ファン

――周囲の方の“優しさ”をもっと信じてもいいと。

寺尾:創業の時も、「GreenFan」を作るときも、色んな方々に助けていただきました。支えてくれた方々がみんな優しかったというのはもちろんあるんですが、応えていただけたのも自分が“本気”だったからなのかなと思います。本気は必ず人に伝わります。オーラなのか電波なのかよくわからないですけど、必ず分かるんですよ、人の本気さって。それが他の人を動かす力があるなと思いますね。

――鈴愛は病床の母のために、そよ風ファンを生み出そうとしましたが、寺尾さんも「誰かのために」というのが、ものづくりの根幹にあるのでしょうか。

寺尾:当然です。人々のために、という動機に基づかないと、何事もうまくいきません。それに気づくのに、私は20年近くかかりました。それはものづくり、創業において非常に重要なポイントです。私自身もそうだったんですが、起業を目指す若者の多くは「自分がこうなりたい!こうありたい!」という矢印が自分自身に向いた本気さから始まります。でも、何度も失敗しているうちに、自分のためではなく、人のために生きないと受け入れてもらえないことに気づくんです。それはこのように言葉で伝えてもなかなか伝わらないと思います。自分で失敗して、身体で覚えていくものだと思っています。

(取材・文=石井達也)

■放送情報
NHK連続テレビ小説『半分、青い。』
平成30年4月2日(月)~9月29日(土)<全156回(予定)>
作:北川悦吏子
出演:永野芽郁、松雪泰子、滝藤賢一/佐藤健、原田知世、谷原章介/奈緒、矢本悠馬、石橋静河、余貴美子、風吹ジュン、中村雅俊、上村海成/清野菜名、志尊淳、山崎莉里那、小西真奈美
制作統括:勝田夏子
プロデューサー:松園武大
演出:田中健二、土井祥平、橋爪紳一朗ほか
写真提供=NHK
バルミューダ公式サイト:https://www.balmuda.com/jp/
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/hanbunaoi/

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