VR市場拡大のカギは一体型HMDの普及にあり VR機器の“歴史的転換点”からその未来を読む

HMDの歴史を紐解く

googleの参入と無線型HMDの誕生

 VRの進化の歴史を語る上で外せないのが、配信インフラの進化である。本稿冒頭から見てきたように、実はOculus Riftまでのハードウェアの基本的な設計理念は50年前からさほど変化していない。

 Oculus Riftがヘビーゲーマー用途を想定して進化したことからも分かるように、あくまで据え置き型の用途で想定されており、ユーザーは基本的に一部のコアなゲーマーや研究者が想定されていた。800万円から10万円まで値下がったとはいえ、まだまだ一般人が興味半分で買えるような値段ではなかった。

 それが近年になって突然普及し始めた大きな原動力は、Googleの参入とYouTubeのVR対応である。2014年に、GoogleはGoogle Cardboardという究極的に簡易なVRヘッドセットシステムを制作し、2015年にはYouTubeをVRに対応させた。

ican(R)Google Cardboard I/O 2015

 特にYouTubeのVR対応が業界に与えた影響は大きく、特別なプログラミングをしなくてもコンテンツさえあれば世界中に無料でVR映像を配信できるようになり、企業がプロモーション用にVRコンテンツを制作する下地ができたのである。なお、Facebookも2017年にはVRのライブストリーミングに対応するなど、VRの普及に深く貢献している。

 Google Cardboardは1000円程度の投資で誰でもVR映像を体験できるようになった。しかし、そのシステムを支えているのは、スマホのジャイロを活用することで、スマホだけでヘッドトラッキングまで対応できるようにしたGoogleの優秀なプログラミング力。それとスマホの高性能化である。

Oculus Go

 その後にSamsungとOculusが共同開発したGear VRシリーズや、IDEALENS社のシリーズなどは、基本的には「スマホとヘッドセットを如何に一体化させるか」という方向性の進化である。据え置き型で業界を切り開いたOculus社もこの流れにもちろん参入しており、2018年5月からOculus Goというシリーズで一体型HMD市場に参入を始めた。

 Google自体はGoogleDaydreamというシリーズで、AndroidスマートフォンとHMDの一体化をさらに進めており、今後は一体型HMDがどれだけ一般層に普及するかがVR業界拡大の鍵を握っている。

■VJyou
高校時代よりベーシストとしてバンド活動や作曲活動を開始。2006年、しばし滞在していたドイツで出会った光景をきっかけに、映像と照明を掛け合わせた空間演出家VJyouとして活動を開始。2008年にベルギーのArkaos社よりGrandVJ Artistとして登録されたのをきっかけに、アップルストアなどでVJセミナー講師も行うようになる。 「いつも歩く道からほんの少し違った世界」をテーマに、実写素材とプログラミング素材を掛け合わせたインタラクティブで有機的な表現を続けた結果、ダンスと画を融合させたLiveCinemaという作品作りを開始。2014年にはCID ユネスコ WORLD DANCE CONGRESS 2014 にてLiveCinema 『Awake』を上演するなど、国内外問わず精力的に活動を続けている。
http://vjyou.com/

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