デジタルインターフェイスを通じた表現の到達点ーー井上明人が語る『Florence』の素晴らしさ

井上明人の『Florence』レビュー

 『Florence』では、後半で主人公が、抑うつ状態になる。そのとき、主人公は過去のイメージにとらわれ、タップしても、スワイプしても、それを打ち消すことができない。いくら操作しようとしてもどう進めればいいかわからなくなる。

 ここでの正解は、「操作しないで待つ」ことだ。ゲームを快適に操作する、という意味では明らかにストレスだが、「意識的に何かをするより、時間の経過に身をまかせることで解決するしかない」という主人公の心理的な状況と、インターフェイスのあり方がここでは対応している。

 人間、生きていれば自分の身体や心なのに、自分の思うようにならない瞬間がある。そのことをインターフェイスによる演出で、ここまでの完成度で意図的に組み込んだのは、ゲーム史上、本作がほとんど初めてではないだろうか。もちろん、『ワンダと巨像』や『MGS3』のラストシーンなど、これに通じるものがまったくなかったとまでは言わない。ゲームというよりアート作品のように楽しむこともできるので、ぜひ多くの人にプレイしてもらいたい。

■Florence
開発:Mountain(オーストラリア)
販売:Annapurna Interactive(US)
金額:360円 

■井上明人
1980年生。ゲーム研究者。現在、立命館大学に勤務。ゲームという経験が何なのかについて論じる『中心をもたない、現象としてのゲームについて』を連載中。単著に『ゲーミフィケーション』(NHK出版,2012)。ゲームの開発も行い、震災時にリリースした節電ゲーム『#denkimeter』や『ビジュアルノベル版 Wikipedia 地方病(日本住血吸虫症)』など。

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