吉田尚記、“明るい未来”を語る(前編)「現実とフィクションの境界線、つまり仮説が好きなんです」

吉田尚記『没頭力』インタビュー:前編

「ご機嫌の国」と「不機嫌の国」の目に見えない国境

柴:この『没頭力』でも前提になっていると思うんですが、石川善樹さんとの『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』でも、吉田さんは「ご機嫌である」ということをすごく重視していますよね。そこに着目しているのはなぜなんでしょうか。

吉田:まず、不機嫌な人って感じ悪いですよね。あと、僕は「戦争反対」と言う人を、あんまり信じてないんです。なぜかと言うと、「ピンクの象を思い浮かべないでください」と言ったら、人間は必ずピンクの象を思い浮かべるんですよ。だから、「戦争反対」と言ってる人は、戦争のことを思い浮かべてると思うんです。これが、ものすごく変なことだなって思っていて。なので、今の社会は自分が考えたユートピアに比べると不完全で、「それに比べるとここにはこんな悪いことがあるから改善しよう」という言い方をする人は、平和に淡々と暮らしてる人よりも前に物事を進める力がだいぶ低いんじゃないかと思ってて。やっぱり、ちゃんとしてる人は一番強いと思うんですよ。

柴:僕が思うのは、この「ご機嫌」という言葉って、今の日本をクリティカルに表現する言葉だと思っているんです。というのは、今、喩えるなら日本には「ご機嫌の国」と「不機嫌の国」の、目に見えない国境があると思っていて。

吉田:ありますね。

柴:で、吉田さんは明らかに「ご機嫌の国」の側に住んでいると思うんです。で、「不機嫌の国」に住んでいる人も当然いる。で、多くの人がイメージする「ご機嫌の国」の住人は、パーティーライフを送っていたり、高収入で派手に暮らしているような人だと思うんですけれど、実はその実像は違う。むしろ好きなことに没頭しているのが「ご機嫌な人」だという。

吉田:逆に、いわゆるパーティーピープルは「不機嫌の国」のうまくいってる人なのかもしれないですね。僕はそういうのは全然興味ないんですが、あえてやってみたりしています。こないだも、リムジンに乗ってみたんです。六本木とか東京タワーを1時間ぐらいでグルっと回ってくるやつを、会社の福利厚生で。3月まで福利厚生の予算が使えるって聞いたんで、やってみたんですけど。まあ、予想通り、とてもバカバカしかったですね。何がいいんだ、これ?って。

柴:やってみるんですね。

吉田:やってみたくなっちゃうんですよ。大学生の時は落語研究会にいましたけれど、テニスサークルに入ってみたこともあったんです。世間的に楽しいと言われてるようなことは、本当に世間の知恵が正しいかそうじゃないかを試してみたいので、一応、全部やってみる。で、入ってみて「あっ、こういう楽しさか。興味がないな」って結論が出たら、どんどん横に置いていく。ほかにも一通り、バーベキューとか、海外のリゾートに行くとか、みんながやりそうなことはやってみました。その大部分には、「この程度か」みたいに思う。その上で、自分が一番楽しいのはなんだ?って考えるんです。それで見えてきたものって、誰も言葉にしてくれていないんですよね。だから、この本を書くことに意味があった。そういう本です。

柴:つまり、この本はとても切実なものなわけですよね。吉田さん自身が、このことを言語化することを渇望していた。

吉田:そうですね。前の本の『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』も切実に考えて書いた本ですし。あれはコミュニケーションがうまくいかなかったから、なんとかしなきゃいけなかった。この本は「なんかしないと楽しくないんだけど、でも、どうすればいいのかわかんない」という切実な問いがベースにあった。

突き詰めて考えると「仮説」が好き

柴:じゃあ、そのことを踏まえてもうひとつお伺いしたいんですけれども。吉田さん自身の趣味、嗜好、好きなものの傾向を、改めてお伺いしたいんです。というのは、単に中高生の時にオタクカルチャーと出会ってそれがずっと好きというのではなく、テニスもバーベキューもパーティーライフもやってみて、そういうことに興味がないということを確かめてきたわけですよね。

吉田:そうですね。放置したというか。

柴:ということは、自分が好きなもの、しっくりくるもの、突き詰めたいと思うものに、一つの軸があるんじゃないかと思うんです。オタクカルチャーにルーツはありつつも、今は興味の枝葉は山ほど広がっているわけですよね。そこを貫く幹のようなものって、どういうものだと思いますか?

吉田:それは現実とフィクションの境界線ですね。常にそこに興味があります。完全にそうですね。現実だけではそんなにグッと来ないけれど、現実をうまく取り込んだフィクションはすごく面白いと思う。今までで一番ハマったコンテンツは『機動警察パトレイバー』なんですよ。あれはまさにアニメとSFと現実の東京と架空の未来だったりとか、いろんなことが全部入っている。そういう意味で言うと、今だったら、アイドルがとても面白いです。アイドルは完全にフィクションと現実の境界線にあるんですよね。現実かフィクションか、当人たちもわからなくなっている。音楽もそうです。完全なるフィクションよりも、本当なのか嘘なのかわからないようなことを描ける人たちのほうがおもしろい。「現実とフィクションの境界線」をもっと純度を上げて言うと、仮説が好きなんですよ。

柴:なるほど。仮説が好きである。

吉田:たとえば、僕、『DEATH NOTE』は素晴らしくおもしろいなと思ったんですけど。「人の名前を書いたら死ぬノートがある」っていう発想自体はわりとありがちなんです。でも「それで真面目に世の中を変えようと思ったらどうなる?」っていう仮説を展開していったら、めちゃくちゃおもしろくなった。だから、突き詰めてはっきり言うと、仮説が好きなんです。

(取材・文=柴 那典)

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