望むのなら君は未来のバーに行くことだってできる、インディーゲームならねーー『VA-11 Hall-A』レビュー

未来のバーに行ける『VA-11 Hall-A』レビュー

「誰にでも刺さる」ではなく「誰かに刺さる」ゲーム

 店に訪れる客は誰も彼もクセを持っているが、中でも一番インパクトがあると思われる存在はドロシーであろう。彼女は幼く見えるが、その実態は身体を売るリリム。しかし自分の仕事に誇りを持っておりいつも明るいのである(もちろん落ち込むこともあるが)。

 いつもジルのことを「ハニー」と呼びとんでもない直球の下ネタをぶつけてくる彼女だが、終盤は自我の存在に疑問を持つようになる。こういった様子を見ていると、AIとはいえもはや人間と何が違うのだろうかとすら思わされる。グリッチシティではリリムと結婚する人もいるようだが、さもありなん。ディストピアとはいえドロシーのような存在もいるのだから、この世界も必ずしも悪いことばかりではないのかもしれない。

 先ほど客にはそれぞれのパーソナリティがあり悩みを抱えていると書いたが、それは主人公のジルにも同じことが言える。彼女がなぜバーテンダーをすることになったのか、どのような過去をおくってきたのか。それもまた本作においてはとても重要な要素となる。

 『ヴァルハラ』は決して万人向けのゲームというわけではない。下ネタが多いところもそうだが、何か大きな事件が起こるのでなく極めて個人的な問題に終始するところもそうだ。ともすれば地味に思えるかもしれないが、やはりこれはインディーゲームである。誰にでも刺さるゲームではなく、誰かに刺さるゲームとして作られたのだ。

 もしあなたが未来のディストピアにあるバー、そしてそこにいる人たちの人生を覗いてみたいと思ったのならば、『ヴァルハラ』に訪れるのはとても良い経験になることだろう。おっと、未来とはいえ未成年は飲酒禁止なので、そこにはくれぐれも注意して欲しい。

『VA-11 Hall-A ヴァルハラ』 紹介ムービー

■渡邉卓也
「マリオの乳で育った男」と自称しているゲームライター。サラリーマン時代、定時で帰ってゲームをしようとしたら「そんなに早く家に帰ってすることあんの?」と上司に嫌味を言われ「あ、そういえば自分は仕事などではなくゲームをするために生きているのだった」と思い直しゲームライターとなる。好きなキャラクターは「しずえ」と「カービィ」。

◆『VA-11 Hall-A』詳細情報
・プレイできるハード:PlayStation Vita、PC(PS Vitaはパッケージ版あり)
・価格:ダウンロード版1,500円(税込)
・関連サイト:http://publishing.playism.jp/va11halla
(c)2016 Sukeban Games – Published by Ysbryd Games

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