押井守が今の若い監督に望むことは? アニメーション業界における批評の不在を語る

押井守が語る、アニメ業界における批評の不在

「飯さえ食っていれば絶対にどうにかなるんですよ」

 そう力強く語るのは、『機動警察パトレイバー the Movie』『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』などの作品を生み出し、国内外で高い評価を受けるアニメーション監督、押井守だ。

 押井監督は、3月17日から開催される第1回新潟国際アニメーション映画祭で審査委員長を務める。長年アニメーション業界に身を置いてきた押井監督は、新たな映画祭の旗揚げに立ち会い、何を思うのか。アニメーション業界における批評文化、そして今の若い世代に思うことについて聞いた。

「長編アニメーションを評価する場がなかった」

――映画祭の準備をされていて、手応えはいかがですか?

押井守(以下、押井):準備といっても、私の場合は「腹を決める」ただそれだけです。審査員をやるというのは、結構な負担なんですよ(笑)。人が作ったものを観て、言いたいことを言って、いい立場だと世間は思うかもしれないけど、少なくとも私はいろいろなことを考えるんです。この人はどういうつもりで作ったんだろうとか、ぼろくそに言われたら怒るだろうなとか。褒めるにしても、褒めてほしいところを褒めてくれる人が少ないんですよ。私自身がそれを経験してきたから、いろいろと考えるわけ(笑)。特に国内の作品は、知っている人が作っているから難しい。

――同業者を審査するからこそやりづらいんですね。

押井:だから本当は、審査員なんてできれば誰もやりたくないんですよ。やりたい人もいるかもしれないけど、どうせ恨まれるんだから。映画に携わっている人間は監督だけじゃないし、特にアニメーションの場合は何百人、下手したら1000人、2000人規模の作品もあるわけだから。そういうことを考えると、コンテストって評価する側もされる側も、そんなに冷静じゃいられません。それでも、やらなくていいのかと言われたら、やらないとやらないで問題があると思う。言いたいことを言って、気に入らなければ反論すればいいじゃない。

――そういった批評の場は、以前に比べて増えてきていると感じますか?

押井:インターネットの普及によって、コミュニケーションの手段が前よりいっぱいあるように見えるけど、作品に関する批評行為というのは、批評する側もされる側も何か真剣じゃないという感じがするね。この業界は特にそうなんだけど、「世間からの評価に対してうだうだ言うな。自分のことをやっていろ」という職人気質がある。でも、この仕事を始めたときから、私はそれは間違っていると思っていて、あちこちで言いたい放題言ってきた。だって、それをやらないと、ものを作っている責任を果たしていないと思ってしまうから。監督という仕事は、常に自分のスタッフの代弁者じゃないといけないんですよ。私は今回審査する立場ですけど、文句があるんだったら私のところに来てくださいと思っています。「なんで俺を落としたんだよ」と思うなら、その理由を丁寧に説明するし、褒めるところは褒めるから。審査員をやっているからって偉いわけでも何でもないからね。立場が変われば同じなんだから。

――批評と同じくらい、その先にあるコミュニケーションが大事なんですね。

押井:最近は批評する側も、炎上したくなくて予防線を張りまくっているからね。「これは個人的見解ですが……」とか、なんでそんなことを言う必要があるんだよって思う。文句を言われたら言い返せばいいし、辛いなら黙ってブロックすればいいじゃないの。叩くとか炎上させるとか、そういうのは欲求を晴らしているだけで、物を言うことと関係ないからね。たまにちゃんと物申す人がいると、それだけで注目されちゃうのは変だと思うよ。そういうようなことをいろいろと考えていたら、やっぱり今回のオファーは受けざるを得なかった。最初はどうにかして逃げようと思っていたんだけどね(笑)。

――新たな映画祭を旗揚げするにあたって、抱負はありますか?

押井:昔、宮さん(宮﨑駿)が「漫画の世界には批評がない」とよく言っていたけど、アニメーションも同じなんだよね。サブカルチャー全般と言っていいのかもしれないけれど、批評の場がない。「良かった」「悪かった」しかないんですよ。ゲームでも、神ゲーとクソゲーしかない。神とクソしかないって、それは批評がないのと一緒だから。だから、私はこの映画祭が本気でうまくいってほしいと思っています。1回で終わるんじゃなくて、毎年やってほしい。毎年は無理でも、隔年でもいいからやってほしいと思っている。アート系に絞らず、長編のエンターテインメントとして作られたアニメーション作品を評価しようという場がほかにないんですよ。今回は海外からの出品作が多いけれど、何回かやっていくうちにもっともっと国内の作品も増えてほしいなと思います。

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