アニメ『ブルーロック』が“hype”な理由 強調される“個”の哲学と呼応する社会

『ブルーロック』で強調される“個”の哲学

 2022年、日本はサッカーに燃えた。「FIFAワールドカップ カタール2022」が執り行われたこともそうだが、同時期に放送が始まったアニメ『ブルーロック』の存在感も十分に強かったはず。2022年10月から放送が開始され、2023年3月現在は2クール目が放送中。これがワールドカップ後の今もなお、国内に限らず世界のファンを熱狂させている。一言で言えば、いま一番“hype(ハイプ)”な作品なのだ。

 全国から300人の凄腕フォワードを集め、日本をW杯優勝に導くストライカーを育てる計画「ブルーロック」。しかし、“最強”は1人しかいらない。299人を蹴落として、その称号を得るのは一体誰なのか。第1期が残り3エピソードとなった今、主人公・潔世一をはじめメインキャラクターたちの動向が気になってしまう。

 本作はあらゆる面でクレイジーだが、まず挙げられるのは、我々視聴者が主人公だけを応援したり、彼の動向だけ気にかけたりするほど単純な感情で観られない点だ。モブキャラがほぼいない世界観。ビジュアル面も含め、痒いところに手が届くくらい、いろんな属性の個性的な登場人物が出てくる。これが一つの“hype(ワクワクする)”ポイントだ。もちろん、物語が進むにつれて全く知らされていなかったそれぞれのバックストーリーが明かされ、なんとなく「ああ、このキャラは結構生き残るんだろうな」という予測は立てられる。だからと言って、キャラとしては悪くないけど実力を踏まえると厳しそうな人物のことをすぐに忘れたり蔑ろにしたりすることもできないのだ。それくらい、みんなキャラがいい。

TVアニメ『ブルーロック』2クール目ノンクレジットOP映像|ASH DA HERO「Judgement」

 しかし興味深いのは、近年のスポーツ漫画の大ヒット作……例えば『黒子のバスケ』や『ハイキュー』といった『週刊少年ジャンプ』作品が、そういった個性や属性豊かなキャラクターを描き分けて登場させ、“チーム”を描いたことに対し、『週刊少年マガジン』連載の『ブルーロック』が描くのは“個”なのだ。第一次セレクションでは5チームに分かれる総当たりリーグ戦が繰り広げられたが、みんながゴールを決めたいストライカー志望なので、最初はチームワークのかけらもない。そして徐々に生き残るためにチームとして勝とうと団結し、ポジショニングをする。しかし、本当に求められるのは自身の“エゴ”に従い、いかに“個”として成長できるかなのだ。どれだけ上手いパスを出せても、自分でシュートを入れられるのか。チームプレーが賞賛されるサッカー、ひいては協調性を重んじてきた日本の姿勢に対して、「エゴイストであれ」と謳い続ける本作のメッセージは、一見尖っている。しかし、思考することをやめて流されることに居心地の良さを感じる現代人への警鐘でもあるのだ。いかに自分で考え、問題を突破するか。“独力”という言葉とともに“個”が強調されるのも、知り合いと他人を分けるゾーン・ディフェンスが高く、親密圏が狭くて「個人主義」が進むデジタルネイティヴ世代が増える今だからこそ作られるような作風に感じられる。

 それでも本作の主人公は決して1人だけで成長を続けるわけではない。むしろ、周囲の人間の才能との化学反応を起こしながら、潔は一瞬で自分を形作るジグゾーパズルを壊し、一から新しい考えを作り直していくのだ。そのために、彼はいつも他者に眼差しを向ける。「あいつの武器ってなんだろう」と。どれだけ“個”が強調されても、いつの時代も、どんな社会でも、他者に興味を持ち、相手を知ろうとすることの大切さを本作は説くのだ。

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