『クロサギ』詐欺師の矜持を貫いた平野紫耀 数々の絶望が体現された前半クライマックス

『クロサギ』詐欺師の矜持を貫いた平野紫耀

 警察から釈放され、逃げるようにして上海へと渡った御木本(坂東彌十郎)は、桂木(三浦友和)の名前を使って、現地で詐欺を働いていた。桂木に言われて上海に上陸した黒崎(平野紫耀)は、そこで待っていた早瀬(中村ゆり)の案内で、御木本に大金を騙し取られたという有力者と対面する。マフィア組織レッド・ドラゴンから返済を迫られ窮地に追い込まれていた御木本は新たな詐欺を画策し、黒崎の仕掛けた罠にまんまと嵌まる。それでも御木本は、レッド・ドラゴンと敵対するキング・タイガーに出向き、巨額の投資詐欺をする提案を持ちかけるのである。

 11月18日に放送された『クロサギ』(TBS系)第5話は、正真正銘の前半のクライマックスとなるエピソードとなった。前回のエピソードでは日本国内で繰り広げられた黒崎と御木本の宿命の対決が、今度は“上海”を舞台にしてより大きな規模で展開していく。桂木を裏切った御木本を喰うこと。さらには桂木の新たなマネーロンダリングのルートを開拓するためにキング・タイガーと桂木の関係修復のために動くことなど、あらゆる思惑が重なった騙し・騙され合いのなかで描かれるのは、“詐欺によって失われた命”という大きなテーマだ。

 御木本を騙すということは、同時にレッド・ドラゴンという大きな組織を欺くことになる。その忠告に多少の困惑の色を見せながらも、いつも通りのやり方で御木本を陥れた黒崎だったが、それによって御木本の腹心の部下である垣根(金井勇太)が殺害されてしまう。それを仕向けたのは桂木であり、そこには先述のキング・タイガーとの関係修復のために御木本をもう少し泳がせる必要があったという理由を知る黒崎。「命を詐欺の道具だとでも思ってんのか」と桂木に言い放つ黒崎の言葉は、すでに御木本との因縁にどのようなかたちで決着をつけるべきなのか苦しむ心情が滲み出ている。

 いざ御木本と対面したクライマックス。テーブルの上に銃と、垣根の形見であるメガネを並べられると、黒崎は後者を選ぶ。「俺は人を殺さない」と、あくまでも自分は復讐者ではなく詐欺師であるのだという矜持を貫くのだ。それはもちろん、彼自身が詐欺によって家族を失ったこと、すなわち命の重さを理解しているからに他ならない。御木本が自害する銃声を聞きながら外に出た黒崎が雨に打たれる路地裏のシーンには、宿敵の死を迎えたところで家族との時間が戻らないということ。痛感する復讐というものの無力さ。そしてこの無力な復讐に終わりがないといういくつもの絶望が体現されているとみえる。

 さて、黒崎が上海で動いている頃、桂木の甘味処にはひとりの男が訪ねてくる。ひまわり銀行の執行役員となったと報告にきた宝条(佐々木蔵之介)。桂木と御木本の両方と繋がりを持ち、桂木を裏切った御木本をあっさりと切り捨てる。詳しく語られずとも、この男が次なる敵であることが示されている。しかもその宝条の甥は、氷柱(黒島結菜)にアプローチしている助教の鷹宮(時任勇気)ともなれば、氷柱も巻き込んでなにかが起こることも予感せずにいられない。

■放送情報
金曜ドラマ『クロサギ』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:平野紫耀(King & Prince)、黒島結菜、山本耕史、坂東彌十郎、船越英一郎(特別出演)、三浦友和
原作:黒丸、夏原武(原案)『クロサギ』シリーズ(小学館刊)
脚本:篠﨑絵里子
プロデューサー:武田梓、那須田淳
演出:田中健太、石井康晴、平野俊一
製作著作:TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/kurosagi_tbs/

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