『silent』奈々役・夏帆の芝居が心を揺さぶる 目黒蓮の瞳から切実に伝わる痛みと優しさ

『silent』誠意ある芝居が心動かす

 想(目黒蓮)の大学時代の苦悩を描いた『silent』(フジテレビ系)の第6話。奈々(夏帆)との出会いを通して、紬(川口春奈)や湊斗(鈴鹿央士)の知らない頃の想の様子が明らかになる。だが想と紬の距離が縮まる一方で、距離があいてしまう関係性も浮き彫りになる。紬と湊斗が前に進んだことが、想と奈々にも変化をもたらした。大学生の頃の想は、徐々に聞こえなくなる中で不安を抱えていた。補聴器をイヤホンと勘違いされて教授や警官から注意されること、聞こえないだろうからと耳元で大きな声を出す友人たち。聞こえないことが理由で誤解される苦しさを、想は“静かに”聞いてもらいたいと思っていた。

 ある時、想はろう者向けの就活セミナーで奈々と出会う。想は高校を卒業して以来、初めての友達ができたのだ。奈々との時間を大切にしていた想だが、やがて紬との再会が訪れ、奈々との関係にも徐々に変化が表れる……。

 友人関係は次第に恋に変わり、大切な相手を“大切”だと感じる意味が変わってくる。奈々は次第に想に恋心を抱くようになっていたのだ。想もまた、聞こえなくなっていくことの不安を誰にも話せずにいた時に、安心を与えてくれる奈々は大切な存在であった。“聞こえない”ということを理解し受け止めてくれる奈々は、その時の想にとって唯一の救いだったのだ。その一方で、 かつて聞こえていた という経験は想と奈々の間に一本の線を引くきっかけになってしまう。想自身もまだまだ受け入れられないことが多く、心に整理をつけていかなければならない段階だったのだろう。「聞こえる人」とも「聞こえない人」とも距離を取り、ろう者と聴者の狭間で苦しみにもがく想を、奈々はただただ支え、ひっそりと恋心を寄せていたのだ。

 手話をしないと会話ができないからお気に入りのハンドバッグが持てないこと、手をつなげないこと、好きな人と電話で話せないこと。奈々には恋が実っても叶えることのできない “恋への憧れ”があった。それを痛いほど突きつけてくる第6話では、恋をすることでかき乱され、尖っていく心と、それをぶつけられることの苦しみが両者の立場から描かれる。手話であっても、筆談であっても、声であっても、言葉をぶつけることで、救われることもあれば、傷つくこともある。誰もが真摯に、真っ直ぐに生きていても、誰かを傷つけてしまうということを改めて再認識させられた。

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