円安で洋画ファン忍耐の日々 『X エックス』前日譚、デヴィッド・ボウイ公認作が北米公開

 9月16日~18日の北米週末興行ランキングには、誰もが知るような大作こそないものの、映画ファンが注目しておきたい新作が多数登場。トップ30まで視野を広げれば、実に8本もの新作がお目見えとなった。

 今週のNo.1を飾ったのは、実在した王国の女性部隊を描いた歴史映画『The Woman King(原題)』。主演・製作は『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021年)や『マ・レイニーのブラックボトム』(2020年)など精力的な活動が続くヴィオラ・デイヴィス、監督は『オールド・ガード』(2020年)のジーナ・プリンス=バイスウッドが務めた。

 ソニー・ピクチャーズ傘下のTriStar Picturesが製作・配給を担った本作は、事前の予測を上回る快スタート。ソニーは3日間で1200万ドル程度の興収を見込んでいたが、蓋を開ければ1900万ドルのヒットとなった。Rotten Tomatoesでは批評家スコア95%、観客スコア99%という絶賛ぶりで、出口調査に基づくCinemaScoreでは「A+」評価を獲得。すでにアカデミー賞入りもささやかれているほどだから、口コミ効果でさらに成績を伸ばすことは確実だろう。

 物語の題材となったのは、現在のアフリカ・ベナンにあったダホメ王国の女性部隊・アゴジ。『ブラックパンサー』(2018年)に登場する国王の親衛隊ドーラ・ミラージュにも一部影響を与えたといわれるチームだが、本作ではヴィオラ演じるナニスカ将軍を中心に、複数の世代にまたがる女性たちの戦いを描く。共演者には『地下鉄道 ~自由への旅路~』(2021年)のスム・ムベドゥ、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)のラシャーナ・リンチ、『スター・ウォーズ』続3部作のジョン・ボイエガらが揃った。製作費は約5000万ドル(広報・宣伝費を除く)。

 なお、観客の男女比は男性39%、女性61%。人種・民族別に見ると、黒人が60%、白人が19%、ヒスパニック系が11%、アジア系が10%という分布になり、主なターゲットにきちんと作品が届いていることがわかる。女性の観客を狙った作品としては、フローレンス・ピュー&ハリー・スタイルズ出演の『ドント・ウォーリー・ダーリン』が9月23日に北米公開予定。同作も初動成績2000万ドル程度と予測されているだけに、今月とりわけ注目の対決と言えそうだ。

 第2位は先週首位の『Barbarian(原題)』で、3日間で630万ドルを記録。前週比-40.3%という成績はオリジナル脚本のホラー映画としては珍しく、北米興収は2000万ドルを突破した。

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 これを追いかけるのが、第3位で初登場した『Pearl(原題)』。7月に日本公開されたホラー映画『X エックス』の前日譚で、殺人鬼の老婆・パールの若き日を描く物語だ。少なからぬシリーズ作品の宿命として、初動成績は前作に及ばなかったものの、製作・配給のA24は『X エックス』を3部作とすることを早々に決定済み。第3作『MaXXXine(原題)』も2023年に北米公開予定だ。監督・脚本はタイ・ウェスト、主演はミア・ゴス。Rotten Tomatoesでは批評家87%、観客82%とこちらも高評価で、観客の年齢層は18~34歳が全体の約8割と若者の支持を集めている。

 第4位は、これまた初登場の『See How They Run(原題)』。サーチライト・ピクチャーズによる“アガサ・クリスティ風の殺人ミステリー”で、サム・ロックウェル&シアーシャ・ローナンが難事件の謎を解く。もっとも、このジャンルには『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019年)という強敵がいるが、現時点で評価は伸びておらず、Rotten Tomatoesでは批評家70%・観客66%にとどまった(2400館で310万ドルという初動成績も厳しい)。

 なお、サーチライトは各地の映画祭にアニャ・テイラー=ジョイ主演の『ザ・メニュー』やマーティン・マクドナー監督『イニシェリン島の精霊』、サム・メンデス監督『Empire of Light(原題)』などを送り込んでいるが、本作はその中にも入っておらず、賞レース的な期待も寄せられていない模様。こうなると日本公開の有無も怪しくなりはしまいか……。

 第10位はデヴィッド・ボウイの公式ドキュメンタリー映画『Moonage Daydream(原題)』。なんとボウイ自身がナレーションを務め、本編には未発表映像・未発表音源もたっぷり登場するという。北米ではIMAXシアター170館で公開され、3日間で122万ドルを記録(1館平均7205ドルという成績もめざましい)。次の週末には約600館で拡大公開される予定だから、さらなる嵐を巻き起こすことも考えられる。

 本作はコロナ禍に公開された音楽ドキュメンタリーとしては最高の初動成績を記録。日本では2023年春に公開予定と告知されているほか、本年11月にはサウンドトラック『ムーンエイジ・デイドリーム~月世界の白昼夢~ サウンドトラック』の国内盤リリースも決まっている。

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