瀬戸康史&千葉雄大が対照的な兄弟に 舞台『世界は笑う』で混沌とした時代に立ち向かう

瀬戸康史&千葉雄大が対照的な兄弟に

 劇作家であり演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)による新作『世界は笑う』が、Bunkamura シアターコクーンにて上演中された(9月6日まで京都劇場にて上演中)。瀬戸康史や千葉雄大を筆頭に、力のある若手から大ベテランまでが一堂に会した本作が描くのは、昭和の東京で暮らす“喜劇人”の群像劇だ。上演時間は3時間45分(途中20分の休憩を含む)。混沌とした時代に「笑い」で立ち向かおうという人々の強い意志が感じられる力作となっている。

 KERA主宰の「ナイロン100℃」による3年ぶりの劇団公演『イモンドの勝負』(2021年)が、5秒に1回ほどのペースで笑いを生み出すコメディ作品であったことが記憶に新しい。舞台上で展開するナンセンスで突飛で馬鹿げた不条理劇は、不条理な現実を少しだけ忘れさせてくれるものだった。『世界は笑う』はそんな作品を必死になって世に届けようとする人々の物語だ。17名の演技巧者による布陣に死角はなし。瀬戸と千葉が扮する兄弟を中心に、勝地涼、伊藤沙莉といった若手から(いずれも豊富なキャリアを持つ者たちであるため、“若手”とするのが適切なのか怪しいが)、大倉孝二、緒川たまき、山内圭哉、マギー、伊勢志摩、廣川三憲、神谷圭介、犬山イヌコ、温水洋一、山西惇、さらには、ラサール石井、銀粉蝶、松雪泰子まで、じつに多彩(多才)な顔ぶれとなっている。長尺の作品ながら、これまた劇場内で笑いが絶えることはない。

 物語の舞台は敗戦から10年以上の時が過ぎ、「もはや戦後ではない」と活気づく東京・新宿。しかしよく目を凝らし、耳をすましてみると、そこかしこに戦争の傷跡が残っているのが分かる。そんな街で三角座は戦前から「喜劇」を人々に提供してきた。笑いに取り憑かれた一座は若手からベテランまで非常に個性的なクセモノたちの集まりで、劇団内での衝突も日常茶飯事だ。物語は、三角座の若手俳優の一人である有谷是也(千葉雄大)を頼りにして、兄の米田彦造(瀬戸康史)が地方から上京してくるところから始まる。

 本作は群像劇であり、特定の人物が主人公というものではない。しかしそのなかでも物語の中心に存在しているのが、瀬戸と千葉が扮する兄弟だ(「有谷是也」は芸名である)。彦造は有谷是也のツテで三角座の裏方となり、劇団内で起こるさまざまな事象への対応に奮闘しつつ、三角座を手伝う戦争未亡人の鈴木初子(松雪泰子)に恋い焦がれている。いっぽうの有谷是也はやがて三角座の看板俳優にまで上り詰めるも、ヒロポン中毒に陥りながら、世界を変え得る「笑い」の創出に立ち向かう。この兄弟がそれぞれに抱える“苦悩”を軸として物語は進んでいくのだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる