『ベター・コール・ソウル』全ての者が去りゆく ソウル・グッドマンが残した“後悔”の話

ソウル・グッドマンが消え、閉じた物語の扉

※本稿には『ベター・コール・ソウル』シーズン6のネタバレを含みます。

 太陽に灼かれて荒野をジミー(ボブ・オデンカーク)とマイク(ジョナサン・バンクス)が歩いてくる。これはシーズン5の第8話、ラロ・サラマンカ(トニー・ダルトン)の保釈金を担いで2人が彷徨い歩いた場面だ。精も根も尽き果てたジミーはこの大金を盗んでタイム・マシンを作ろうと言い出す。追手を逃れ、過去に戻って株で大儲けしようというのだ。いつに行きたいかと問われたマイクが答えた日付は1984年3月17日。忘れもしない、初めて賄賂に手を付けた日だ。マイクは言う「あんたに変えたい過去はないのか?」。

 『ブレイキング・バッド』から過去へと遡る『ベター・コール・ソウル』のナラティブこそタイム・マシンである。特にこのシーズン6終盤は何度も過去と現在を往復し、それらが選択によって導き出された不可分な存在であることを描き出してきた。この第13話では『ブレイキング・バッド』シーズン5の第15話、人消し屋エドの店で車を待つウォルター(ブライアン・クランストン)とソウルの姿が挿入される。ウォルター・ホワイトはソウルの“もしもタイムマシンがあったら”という問いかけを科学的に論破して歯牙にもかけない。「君が言ってるのは“後悔”だ。後悔の話をしたいんだろ」。

 マリオンの的確な通報によって正体が暴かれたソウル・グッドマンは、ゴミ箱に隠れていた所をついに逮捕される。彼はまずシナボンに電話をかけると、出勤できないことを詫び、新しい店長を探すようにと告げる。短い間ではあったが、彼なりにこだわりを持って働いていたのだろうか。次に電話をかけたのはなんとアルバカーキの元検事補で、現在は弁護士に鞍替えしたビル・オークリー(ピーター・ディセス)だ。いつもあの手この手でソウルたちにやり込められてきた彼が、ここでは強引にソウル・グッドマンの補助弁護人に指名されてしまうのがおかしい。『ベター・コール・ソウル』は最終回に入ってもなお物語を慌てて畳むようなことはせず、ここにはいくつかのサプライズがあり、物語がドライブしている。なんとハンク( ディーン・ノリス)の妻マリー(ベッツィ・ブラント)が再登場だ。『ブレイキング・バッド』が夫を無惨にも殺された彼女の哀しみにほとんどフォーカスしなかっただけに、ようやく訪れたエピローグと言えるだろう。

 そんな彼女を前にしてソウルは「自分は被害者だ」とウソをつく。連邦検事補のお歴々から突きつけられた終身刑と懲役190年に怯みもせず、“滑りのジミー”の面目躍如で司法取引はソウルの優勢だ。さらにダメ押しでハワード・ハムリン( パトリック・ファビアン)失踪の真相をチラつかせると、場の空気は一変する。そう、第12話でキム(レイ・シーホーン)が事件の真相を全て自供しており、検事補たちが食いつくようなネタはもう残されていないのだ。このキムの贖罪という事実が、ソウルに大きな決断をもたらすことになる。

 その頃、キムは新たな道を歩みだそうとしていた。思いつめた表情で職場を後にすると、無料の法律相談所へと趣き、ボランティアとして働き始める。今もなお彼女には弱者のために尽力したいという想いがあり、その表情には弁護士時代の凛々しさが戻り始めているように見える。

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