『竜とそばかすの姫』に刻まれたネット社会の問題点 主人公の行動が賛否両論を呼んだ理由

『竜とそばかすの姫』が賛否両論を呼んだ理由

 細田守監督作『竜とそばかすの姫』が『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で地上波初放送される。今作の見どころは非常に多い。公開時にも大きな話題を呼んだ中村佳穂の歌唱シーンをはじめ、世界中のクリエイターが参加した、ネットを舞台としたUの世界の美術やガジェット、キャラクターデザイン、自然豊かな現実世界の山林の豊かさや川の美しさなどの映像面、あるいは成田凌や幾田りらなどの声の演技など、見どころが満載だ。

 今回はもう一歩踏み込んで、細田守監督の過去作と比較しながら、今作の特徴について述べていきたい。なお、一部で『竜とそばかすの姫』のネタバレとなる記述も含むのでご注意願いたい。

 細田守監督が取り組んできた作品のジャンルは、実に多彩といえよう。『時をかける少女』はタイムリープを扱ったSFであり、『おおかみこどもの雨と雪』は田舎で暮らす親子の生活を扱ったファンタジーである。幼児の内面が成長していく様を描いた『未来のミライ』は、、コメディやSF、ファンタジー、歴史とさまざまな要素が混在しており、ジャンル分けが難しい作品だ。

 その中でもネット文化を扱ったSF作品を手がけているイメージがある方も多いだろう。『劇場版デジモンアドベンチャー』、『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』や、『サマーウォーズ』などのネットを舞台とした少年少女たちの成長譚を描いた作品が印象深い。そして『竜とそばかすの姫』もまた、インターネットの世界を舞台にした作品だ。

 『デジモンアドベンチャー』シリーズと『竜とそばかすの姫』では、同じインターネットでも描かれている技術の前提が異なる。近年ではメタバース、あるいはWeb3.0という言葉が取り沙汰されている。コロナ禍以降に大きく騒がれ始め、世界各国の企業が新しいインターネットの形として巨額の資金や技術を投資し、特に経済に強い人々が注目している。とても簡単にいえば、これまでのインターネットの形を一変させるであろう、新しいスタイルのことだ。

 企業や個人が自由に情報発信ができるようになったものの、一方的なコミュニケーションが多かったインターネット初期をWeb1.0。そしてブログ文化やSNSの発達などにより、ユーザーの相互間のやり取りが活発になったWeb2.0。実は細田作品が扱ってきたネット文化というのは、このインターネットと人々のやり取りの文化に密接に繋がっている。

 『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』の「島根にパソコンなんてあるわけないじゃん」というセリフが、今となってはネットミームとしてネタのように扱われている。しかし、「平成13年版 情報通信白書」(※1)を読むと、公開された2000年ごろから急速にインターネットが個人向けに一般化している。また当時の感覚としてはパソコンを持つ家庭は先進的という印象もあった。これがWeb1.0の時代であり、インターネットが一般家庭に身近になりつつある中で生まれたのが『デジモンアドベンチャー』シリーズだ。

 2009年に『サマーウォーズ』が公開される頃には、インターネットはより身近な存在となっていた。携帯電話のネット接続が当たり前となり、スマートフォンも普及し始める。2004年にサービスが開始されたmixi(ミクシィ)の流行であったり、2008年にTwitterの日本語版がサービス開始されるなど、SNSによる相互コミュニケーション文化が発展している時期だ。Web2.0の時代と共に登場したのが『サマーウォーズ』である。

 もちろん、公開当時から上記のように認識されていたわけではなく、あくまでもWeb3.0という概念が生まれた現在から、改めて考えなおした結果に過ぎない。だが、細田作品はその時代のインターネットの変化と特性をキャッチしながら、最先端の物語の1つとして昇華していったことは間違いない。

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